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しばらくして異変を感じたらしい教員が教室に来た。しかし何の問題もないことを確認すると首をかしげながら帰って行った。
それを見送ってから俺は重要なことを思い出した。
「そうだ。まだ名乗ってなかったっけ。俺はユエル=クォジール。気軽にユエルって呼んでくれ。こっちもクォジールだから」
俺が横にいるレクシアを指すと、レクシアが微笑んで頷いた。
「うん、俺はユエルの双子の弟で、レクシア=クォジール。よろしくね」
「ユエルにレクシアね。私はフィーナ=グレイツェル。よろしく」
さっき俺に話しかけてきた気の強そうな女の子はフィーナという名前だった。フィーナは右手を俺たちに差し出してきた。握手のつもりだろうが、どっちにだ? 悩んでいると、さっきからレクシアにべったりの女の子がレクシアの服を引っ張って少し離れたので俺が受けることにした。
「よろしくな」
「ええ。いろいろ教えてもらうから、期待してるわよ?」
「そのうち授業で習うだろうに」
「そのうちじゃ遅いのよ」
フィーナは気の強そうな瞳をさらに険しく細めた。それ以上は言うつもりが無さそうだったので聞かないことにする。要は早く強くなりたいのだろう。もしかしたら神の用意した仲間かもしれないのだし、特に止めるつもりもない。
「君は?」
レクシアが自分にひっついて離れない女の子に尋ねた。我が弟ながら素晴らしい紳士っぷりだ。俺なら早々に引きはがしている。むっつりなのかもしれないけど……おっと睨まれた。なんで気づかれたんだろ。
「ミィシャ……オクトー」
ぼそっとミィシャが名乗った。それ以上は言うつもりがないらしく、くるっとレクシアの後ろに隠れてしまう。
「そう、よろしくね。ミィシャ」
振り返ったレクシアがにこりと微笑みかけるとミィシャはまんざらでもなさそうに微笑みかえした。しかし俺が見ているのに気付くと途端に隠れてしまう。人見知りなのかな。
それから何人かとあいさつを交わし終わった頃、入学式が行われるからと再び担任が訪れた。
入学式の内容は覚えていない。寝ていたからだ。
教室にもどった後、席の決めるための試験を行うことになった。筆記は百点で当たり前なので行うのはもちろん実技だ。
「特別クラスにはステラとの関係が特殊な者が集められています。そんな君たちに最も必要な技術は体内ステラの制御です」
教壇に立ったのは担任ではなかった。目の覚めるような赤い髪を長いポニーテールにしている何かやり手そうな女性だ。見た目年齢は……二十代後半かな。宿ったステラの量が半端ない。おそらく星術の教師だろう。
「試験は星術訓練場で行います。ついてきなさい」
説明もそこそこに星術教師が教室を出て行ってしまった。自己紹介も無しかよ。ああ、ほら皆困惑してる。誰一人として席を立とうとするやつがいない。集団生活に慣れてない奴らにとっては無茶振りでしかない。あの人ホントに教師なのかな。
仕方ないから俺が先導することにした。適当に座っていた席を立ち、扉に向かう。
「ほら立て立て。早く行かねーとあの教師見失っちまうぞ」
手招きすればすぐにレクシアが立ち上がって駆け寄ってくる。それにミィシャもぴったりとついてくるため、それにつられて他のクラスメイトも次々と立ち上がった。
廊下を見れば教師は角を曲がって見えなくなるところだった。
「ヤバっ……急ぐぞ!」
俺たちは慌てて教師の後を追って駆けだした。