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星々のフォルトゥーナ  作者: 水瀬白露
第二章・救世の手立て
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 冬になり、雪が降り始めた。薙刀の鍛錬は欠かしていないが、俺はひとつの問題に直面していた。

 星術が使えない。

 ステラやレクシアにコツを聞いてみても、いまいちわからなかった。いわく、『考えて使うものじゃない』らしい。前世の常識や魔法知識が邪魔をしているのかもしれない。レクシアはいつの間にか考えうるほとんどの星術を使えるようになっていた。消費するステラの量を考えなければ天候を操ることも出来そうだ。そういえば、ステラディアの王族はこの星のステラを全て支配し操れるらしい。ステラの話を聞く限りではレクシアも勝るとも劣らない実力を持っているようだ。わが弟ながら末恐ろしい。

 しかし本当に恐ろしいのはこのまま俺が星術を使えなかったらということである。この世界でただ一人星術が使えないとなるとみじめな思いどころじゃ済まないかもしれない。何よりそれは身を守れないということだ。自身に防御の星術をかけるのは常識なのだから。


「星術の基本は知ってるのよね?」


 結局家族会議になり、俺とレクシア、ミレットは一緒に原因を探ることにした。


「おう。体内のステラを消費して奇跡を起こすのと、物質にまだ宿っていないステラを操って現象を起こすの二つだろ」


「そう、それを組み合わせて物を作ったりするわね」


「物質に宿ったステラは操りにくくて、意思が強い人のステラは手を出せないからね」


「そこまでは俺も知ってる。けど操るとか消費するってどうやるんだ?」


 レクシアとミレットはうーんと唸りだした。感覚としては消費するとか操るに近いようだが、これと理解して星術を使っているわけではないらしい。


「そうなれーって念じてるだけだよ」


「念じてもならねーよ……」


「きっとユエルの体質が問題なのね」


 俺の体質。ステラの影響を受けにくいってやつか。見えるものが見えない、理性的なやりとりができる。

 そしてステラが見えなくならない。この三つだ。


「そこにヒントがあるかもしれないんだ。もしかしたら普通の方法じゃ星術を使えないのかもしれないね」


 レクシアがあごに手を当てて考え込む。

 俺はふいになるほど、と納得してしまった。俺は他の人とはステラとの付き合い方が違うのだから、星術の使い方も別になって当然かもしれない。

 ミレットも同じように思ったらしく、しきりに頷いていた。


「そうかもしれないわ。とすると、何故使えないのかじゃなくて、どうすればユエルにも星術が使えるかを考えたほうが良さそうね」


「そうだ、兄さん。聞きたいことがあったんだ。兄さんにはステラがどんな風に見えるの?」


「あっ……確かに。同じに見えるとは限らないものね」


「あー。それは考えてなかったな。ステラは……俺には四色の光の尾に見える」


「「やっぱり!」」


 レクシアとミレットが声を合わせて立ち上がった。血がつながってなくてもさすが親子。脅威のシンクロっぷりだった。俺は圧倒されて声も出なくなってしまった。情けない……。

 レクシアとミレットが目配せをした。アイコンタクトでなにやら言葉を交わしているようで、ちょっと疎外感。二人は椅子に座りなおすとこほん、とひとつ咳をしてからいまいち状況がわかってない俺に説明を始めてくれた。


「私たちにとってステラは情報そのものなのよ」


「えっと……つまり?」


「兄さんみたいにステラの形は見えないんだ」


「じゃあ何を見てるんだ?」


「大きな情報のうねり。たとえるなら、プールかな。あ、兄さんプールは」


「知ってるから続けてくれ」


 地球にもあるものなら一通り知っているが、地球になかったものの知識はほとんどない。それがレクシアとミレットには不自然な穴のように感じられるらしい。ステラからの知識の刷り込みが不十分ということで納得はしてくれたが、このようにいちいち知ってるか知らないかを確認しながら会話をしないといけないこともあるので少し不便だ。


「わかった。プールの中に全身でもぐれば、周りは全部水でしょ? その水が全部ステラなんだ」


「うわ、頭痛くなりそ……」


 しかも圧迫感がひどくて呼吸ができなくなりそうだ。


「水みたいに透明じゃないから触れて見ている分の情報しか認識できないけどね」


「なるほどな……それじゃ……ステラが見え続けてれば頭もおかしくなるだろうな……」


 レクシアとミレットには悪いが、心からそう見えなくて良かったと思う。まあ二人とももう見えないのだし気にしなくてもいいだろうけど。


「ステラを感じるのもそんな風なのか?」


「うん。水が流れているなーって。もちろん全然苦しくないよ」


「まあステラっつっても空気だしな」


「でも、今ので何かヒントが見えた気がするわ……」


「本当かっ!」


 何かを考え込むミレットの呟きについ飛びつく。ミレットは俺の体質の特徴を挙げた。


「ステラは形として見ている。一方的じゃない意思の疎通が出来る。これが実際のところのユエルの体質なんじゃないかと思うんだけど」


「ステラが見えなくならないってのは?」


「見えなくなるも何も、元から見えてなかったのよ」


「「あっ……」」


 盲点だった。そうだ、ステラが見えるっていうのはレクシアが言ったような感覚であって、断じて光の尾が見えるということではない。情報が見えないという点から考えても、俺には元からステラ本来の姿が見えていなかったと言うほうがしっくり来る。

 ミレットは少し緊張しているようだった。口を開くのをためらっているかのようだ。


「母さん」


 俺がミレットを呼ぶと、ミレットははっとしたように俺を凝視した。やがて意を決したように一度きつく口を結ぶと、俺たちに宣言した。


「たぶん、ユエルには……ステラとユエルを遮る壁のようなものがあるのよ」

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