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すべてのはじまり

 目を開けると上も下も横もない真っ白な世界に漂っていた。

 ――夢でもみているのか?

 服装は2年と半分着続けた見慣れた高校のブレザー。手を背中に伸ばすと袋にしまった薙刀があった。

 何をしていたのか思い出そうとしても、靄に包まれて謎めいている。明日薙刀のインターハイがあったことだけは覚えているのだが……。

 それにしても何もない。そして何か起こりそうな気配もない。目覚めろ、と念じてみても覚醒の気配はなかった。そもそも目ははっきりと覚めている。

 出られるのか?

 思いついた途端ぞっとした。冗談じゃない、こんなところにずっと漂ってたら頭がおかしくなってしまう。


「ああ、待たせたね。それについては大丈夫だよ」


「……誰だ?」


 尋ねてみて、ああ声が出るのだな、と思った。声は出せないとなんとなく思い込んでいた。


「わたしは管理者。いのちと文明を管理する者。君たち人間には『神』と言った方がわかりやすいかな」


「……神様が何の用だよ」


「あー。うん。実は君は死んだんだ。だから転生させようと思ってね」


 白い空間に男とも女とも取れない声が響く。やけに間延びした緊張感のない声に、ついその内容をスルーしてしまいそうになった。


「あ……死んだ?」


 しかしつられたようにこっちも間抜けな返事をしてしまう。あ、死んだ? じゃないだろう……。何言ってんだ……。


「学校帰りにね。不幸な事故だった。まあそれはともかくとしてだね」


「ともかくって、俺の人生を軽く扱ってんなっつの! 明日は最後の全国だったのに……」


 そう、高校最後のインターハイ。薙刀は競技人口は少ないが、それ故猛者が集まる。俺は小学校に上がる前から薙刀をやってきて、3年連続優勝をかけて鍛錬し続けていた。なのに、達成を目の前にして、俺は死んでしまったらしい……。


「気を落とさないでも良い。君にはその薙刀の腕を存分に振るってもらうため、わざわざわたしが出向いて転生させることにしたんだから」


「何、言って……」


「わたしはいのちの管理者。いのちをはぐくむためには世界が必要だが、そのうちの一つ……ステラディアという世界が滅びの危機に瀕している」


「それがどうし……まさか」


 神は『転生させる』と言っていた。そして今の話がそれに無関係のはずがない。


「察しの良い子だ。そう、その世界は勇者を求めている。世界の救世主を。君の魂はあの世界に相性が良い。そしてその武器による強さも捨てがたい。君の強さをあの世界に持っていくため、君としての記憶をそのままに転生してもらうことになる。また一から育ってもらう暇はないからね」


「流行りの転生ものかよ……本当にそんなことあるなんて信じられねぇ。やっぱこれ、夢だろ……」


「夢じゃないことを信じさせることは出来ないね。でも事実は事実としてそこにある。認めた方が気が楽だろう」


「はぁ……で、ステ……その世界について、先にいくつかは教えてくれんだよな? そっちが頼んでるんだから」


「もちろん。ステラディアは文明が高度に発展している魔法世界だ。君のいた世界の化学よりさらに発展しているから、いくらでも知識を活用してくれて構わない」


「何、じゃあこっちの世界の料理やゲームをあっちで広めて大儲けとかってできないの?」


 そういうのも転生ものの面白さだと思っていたから非常にがっかりだ。


「わたしは文明の管理者。より発展した世界から知識を持ったいのちが発展途上の世界に生まれてしまえば、文明に狂いが生じる。若い苗木に実を無理やりつけてしまうのと同じ……それは世界の寿命を縮めてしまう。そんなものは物語の中だけにしか許されないよ」


「ふうん。世界に寿命とかあんのか。でも俺がこれから生まれる世界は寿命で死ぬんじゃねーの?」


「寿命だよ」


「……はぁ」


 寿命で死ぬ世界をどう救えばいいのかと小一時間くらい問いただしたい。この神は何を言っているんだ。


「始まった物はいつか終わる。ただ、ねぇ……今ステラディアに滅んでもらっては困るんだ。かなり多くのいのちがあの世界にはある。そして今なお、最も多くのいのちが生まれてきているのもまたステラディアなんだ。君が滅びを止めてくれれば、ステラディアは千年は無事だ。それだけあれば代わりになる若い世界をはぐくむことができる」


「つまり……つなぎのため?」


「ただのつなぎじゃないよ。ステラディアが滅べば、ステラディアに生きるいのち、ステラディアに生まれるはずだった那由多のいのちが消滅する。そう、生まれ変われず、消えてしまうんだ。そしてそれだけのいのちが消えれば……あらゆる世界が滅びに向かい、最後には何もかもが消えておしまい」


「やべぇだろ……それ……」


 あまりにもスケールが大きすぎて現実感がないが、本能が察知しているかのように身体がぶるぶると震え始めた。あ、寒気が……。順番逆か。


「だから君にお願いしているんじゃないか。もちろんお礼はするし、バックアップも充実させる。世界を頼むよ」


「ムリ! 無理無理無理、マジ無理だって! そんな責任背負(しょ)えねーよ!!」


 一介の高校生に地球だけじゃなくてありとあらゆる世界を背負わせるなんて正気じゃない!

 そういうのこそ神様がなんとかするものだ。インターハイとは舞台が違う。


「君だけじゃないよ。いや、君が一番の戦力なんだけど、君一人に任せるわけがないだろう。あ、でも君が一番の戦力だからね、いなくてもまあキツイけどなんとかなるはずだけど、君が一番の戦力だから」


 君が一番の戦力を連呼しすぎだ。とはいえ俺が何か失敗をしても一応なんとかなると聞いて少し気が楽になった。それに、期待されるのは嫌いじゃない。ちょっと気持ちが前向きになった途端、恐怖で押さえつけられていた好奇心がむくむくと出てき始めた。


「魔法の世界なんだっけ? 俺も使えんの?」


 そう、一度はスルーしてしまったが忘れてはいない。魔法。地球にはない、ゲームの中でしか見られない重要な要素。そんなのがある世界ならぜひ使いたい。


「ステラディアに生まれ変われば誰でも使えるけど、さっきも言った通り君はあの世界と相性がとてもいいからね、ちょっと見ないくらい魔法が上手くなると思うよ」


「よっしゃ!」


「やる気出て来たかな?」


「少しはな。で、俺は何をすればいいの?」


「それは……」


 神の声が急に遠くなる。それと同時にただ真っ白だった空間から光が消えていった。


「全ては、星の導きのままに」


 その声を最後に、俺はどこか深い場所へと落とされた。

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