008.
「何がダメなの? シーナ」
匂いをかいでごらんと、シーナはルルの鼻先に容器を近づけた。
されるがままになまけバチの蜜の匂いをかいでみる。けれど、鼻の奥にまろやかに香る甘い匂いの何がおかしいのかはわからない。
不思議そうな表情をして黙っているルルに業を煮やしたシーナは、もう、と言って眼を平たくした。
「これ、なまけバチの蜜じゃないよ。〈とぼけバチ〉のだよ」
「とぼけバチ?」
そんな蜂がいることも知らないルルは、ぽかんとしていた。
「これじゃあ、眠り薬はできないよ。わたしのが余ってるからあげる。早くしないとパレード始まっちゃうよ!」
シーナはそんなに広くもない教室をおおげさに走って自分の机へ行ってから、なまけバチの蜜の容器をルルに渡した。
「二対一対三対四……、と」
フラスコに全ての材料を入れて、左右へ振る。
二人が真剣な面持ちで見守る中、なまけバチの蜜の紫色が強く出ている液体が、だんだんと薄く透明に変わっていった。
「やったー!」
ルルとシーナは二人で喜びに手を合わせた。そして、薬学科のミリアナ先生の下へと急いだ。
授業が終わってしばらくはルルを待って窓辺に佇んでいたのが、しびれを切らしたらしく、いつの間にか教室を後にしていたのだった。
二人は誰もいなくなった廊下をかけていった。