001. はじまりの朝
空には無数の星が絶えず流れていた。
東に膨れて広がる森の中で、数羽の鳥が大きな声で啼き、それに続いて突風がざぁっと音をたてながら木々を揺らし去っていった。
黄金色の角を冠した鹿が、大木の陰からこちらを伺うように見ている。
その足元では、七色に輝くリスや野ネズミが地面を流れるように、急いで物陰へと隠れていった。
驚いた森の妖精達は、葉や花に必死に掴まり、風とともに揺れている。
街の中央を流れる、幅の広い豊かな水量を誇るサンナ川の両岸には、家や店が幾重にも並び、人々の営む音が半分眠っているような空気の中、静かに響く。
北の山を背にそびえる白く輝くばかりの城が、この国の象徴だった。太陽の光にきらめく群青のサファイヤで覆われたとんがり屋根は、どこからでもよく見えた。
ルルは一日のうちで、朝もやの波間に浮いて建つナツェルン城が、一番きれいだと感じていた。
こんなに朝早くに他の誰がこの景色を見ているだろう、と想像すると嬉しくなった。自分が特別になった気がした。
「ん……、ルル? 寒いよ、窓閉めて」
布団にくるまっている少女が、眠たそうな声を出した。
「あっ、シーナ、ごめんね」
ルルは慌てて、開けていた窓を閉じた。
時計は、朝の五時を告げたばかりだった。
寮の起床時刻までは、あと一時間はある。ベッドの中の少女は、時間ちょうどまで眠るのであった。
少しの間、ルルはシーナの方を伺っていたが、彼女はすぐに寝息をたてた。ホッとして、また城を振り返る。
本当にここまで来てしまったのだ、と寝間着姿で頬をほんのりピンクに染めた少女は思うのだった。