1.8
「ひとと云う物は、すぐに物を忘れてしまうのね」
「それ程に様々な出来事に遭遇しているからね」
「その全てから学ぶべき事柄がある。だからね、全て覚えているべきなのよ」
「学びきったからこそ、或いは別に代用を見つけたからこそ忘れたのだろう」
早苗の言葉に、メリーは心底呆れたように言う。
「私を忘れたことさえ正当化しようと言うのね」
「本当に君は、捨てられた?」
あまつさえメリーの言うことを疑って掛かる。
早苗には、人形を捨てた記憶がない。
そもそも人形遊びの趣味は彼女にはなかった。数少ない少女らしい物は、四つ下の従妹にあげてしまったように思う。つまり人形を持っていたとすれば従妹の手元に行っただろう。となれば、捨てた人間の元に現れるメリーが早苗の元に現れるのはおかしい。
「もしかすると君は、勘違いをしているかもしれない」
疑って掛かる早苗に、メリーは首を振るう。
「そんな筈はないわ。だって丹念に住所を調べたもの。私自身でね」
「それこそ間違いが起こりそうだ」
「そう言って難癖をつけて、逃げようとしているのでしょう?」
メリーの言うことは間違っていない。
得体の知れない相手を近くに置いておきたくはない。殺さないと云う気が変わらない保証はなく、遠ざけてしまいたい物だろう。勘違いで此処に来たとなればメリーが帰ることを踏んだが、上手くはいかない。
メリーは、自らが怖れられていることなど微塵も気づかない。
だから言うのだ。
「安心して良いのよ。私は貴方を殺しはしない」
保障のない言葉に何を安心できるだろう。
愚痴をこぼそうとした早苗に、メリーはポツリと漏らす。
「――理由は分からない。そもそもね、殺せないのよ」




