1.7
早苗は疲れ切っていた。
そして思う、自分はいつ保育士になったのだろうかと。
メリーの生活能力の低さに気付いたのは、メリーを住まわせることを決めたその日からだ。
風呂掃除とご飯をよそること、二つを出来ると言ったが、それさえままならない程にメリーは能力に欠けていた。
「スプーン、あるけど使う?」
箸を使うことさえままならないメリーに、早苗はそう勧めた。
掴むことが出来ず、かきこむように食事を口に運ぶ様は、幼児を思い浮かべさせる。本人も恥ずべき物と考えているらしい。早苗の言葉に顔を赤らめ、そして決まってこう言うのだ。
「……初めてなのよ」
メリーには以前の生活がない。
箸を持ったことはないし、物事を実行して見せたのはやはり初めての経験だ。幼児のように何もすることが出来ないのは、仕方のないことだ。
自覚していたからこそ、メリーは早苗の声を掛けた。もしも幾らかの金を持っていたとしてメリーには使い方が分からない。金を払ったとしてホテルを使えた保証はなく、こうして他人の家に上がり込むことが最善であった。
「きっとパンなら上手く食べられるのよ」
「夕食にパンを食べたくはないな」
「それじゃあナンが良い」
「それはパンの一種だと思うよ。それに、中々出せる物じゃあない」
「ピッツァ」
「物は知っているみたいだね」
どの道、いまから夕食が変わることはない。
「ねえ、メリー」
「何? いま忙しいのよ」
「スプーンなら取ってきてあげるから」
「負けた気分になる……」
俯いたメリーに有無を言わせず、早苗はスプーンを渡す。
幾分か食べやすくなったようで、減りが早くなる。茶碗を空にしたメリーは、顔を上げて何か用かと尋ねた。ぼうっとしていた早苗は、三拍置いて口を開いた。
「メリーはさ、此処に来る前は何をしていたの?」
「早苗のことを探していたよ」
「どうしてまた」
「メリーさんはね、捨てたひとに会いに行くのよ?」
「ふうん」
納得しかねると云った表情を浮かべた。




