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後ろのメリーさん  作者: 10.bi
着信アリ
7/34

1.7

 早苗は疲れ切っていた。

 そして思う、自分はいつ保育士になったのだろうかと。

 

 メリーの生活能力の低さに気付いたのは、メリーを住まわせることを決めたその日からだ。

 風呂掃除とご飯をよそること、二つを出来ると言ったが、それさえままならない程にメリーは能力に欠けていた。

 

「スプーン、あるけど使う?」

 箸を使うことさえままならないメリーに、早苗はそう勧めた。

 掴むことが出来ず、かきこむように食事を口に運ぶ様は、幼児を思い浮かべさせる。本人も恥ずべき物と考えているらしい。早苗の言葉に顔を赤らめ、そして決まってこう言うのだ。

 

「……初めてなのよ」


 メリーには以前の生活がない。

 箸を持ったことはないし、物事を実行して見せたのはやはり初めての経験だ。幼児のように何もすることが出来ないのは、仕方のないことだ。

 自覚していたからこそ、メリーは早苗の声を掛けた。もしも幾らかの金を持っていたとしてメリーには使い方が分からない。金を払ったとしてホテルを使えた保証はなく、こうして他人の家に上がり込むことが最善であった。

 

「きっとパンなら上手く食べられるのよ」

「夕食にパンを食べたくはないな」

「それじゃあナンが良い」

「それはパンの一種だと思うよ。それに、中々出せる物じゃあない」

「ピッツァ」

「物は知っているみたいだね」

 どの道、いまから夕食が変わることはない。

 

「ねえ、メリー」

「何? いま忙しいのよ」

「スプーンなら取ってきてあげるから」

「負けた気分になる……」


 俯いたメリーに有無を言わせず、早苗はスプーンを渡す。

 幾分か食べやすくなったようで、減りが早くなる。茶碗を空にしたメリーは、顔を上げて何か用かと尋ねた。ぼうっとしていた早苗は、三拍置いて口を開いた。


「メリーはさ、此処に来る前は何をしていたの?」

「早苗のことを探していたよ」

「どうしてまた」

「メリーさんはね、捨てたひとに会いに行くのよ?」

「ふうん」

 納得しかねると云った表情を浮かべた。

 

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