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後ろのメリーさん  作者: 10.bi
着信アリ
5/34

1.5

 自らの名を言ったメリーに、早苗は怪訝そうに顔を顰めて見せた。


 期待とは違う反応にメリーは首を傾げた。その様は、早苗には見えない。

 メリーの不服を察することはなく、早苗は指摘する。


「ねえ、メリー。自分の名前に『さん』を付けても可愛くはないよ」

「……そんなこと?」


 何を言っているのか。メリーは首を更に傾げた。

 首が音を立てる。どうしても首が回転しようとしないことを、メリーは今日ほど感じたことはなかった。

 そして、早苗がそうであることを改めて認識した。

 

「――つくづく貴方は鈍感ね」

「鈍感なことと『さん』を付けることに関係がある?」

「メリーさん、と聞いて思い浮かべる物はない?」

「これっぽっちも」


 早苗は、首を振るう。

 彼女は鈍感であるがゆえに気付かない。

 

 知っていて当然と云うように言ったメリーの言葉に、早苗は真後ろに立つ少女が有名人ではないかと考える。サインを求められる程だろうか。考えは間抜けな物で、表情は何も気づいていない事実を伝えるようだ。

 

 有名なことに間違いはない。

 けれど、いまのままで答えに辿り着くことはないだろう。


 メリーと云う物は、世間に疎くとも知られている。

 早苗も例外ではない。けれど早苗が思い浮かべられない理由は、単純に結びつけられないことにある。

 可能性を考慮していない。メリーをただの少女と考えているゆえに。


「――都市伝説よ」

 と、メリーは言う。

 

「私メリーさん、いま貴方の後ろにいるのって言えば、流石に分かるよね?」


 まさか。メリーがメリーさんであると云う訳はないだろう。

 早苗は首を振るう。冗句と鼻で笑い飛ばそうとした。しかし、メリーは首を振るう。

 

「いいえ、早苗。私はメリーさんよ。正真正銘に、都市伝説のね」


 ねえ、とメリーは問いかけた。

「早苗。鍵を掛けた部屋に入って来られるひとを普通と扱おうと言うの?」

「それは、鍵を掛け忘れていたに違いない」

「それは二度起きる物?」

「きっと間抜けなだけだよ。いままでも忘れていたことだろう」


 認めようとしない早苗に、メリーは肩を竦めた。

 

 意固地になって認めないと首を振るうことに理由はあるのか。

 現に現実におかしな物と疑ったろうに、とメリーは思う。

 

「私の顔を一度も見ていないことの理由は?」

「偶然に違いない。それに、メリーは顔を隠していた」

「顔を隠す理由が何か考えなかった?」

「君はきっと恥ずかしがりに違いない」

「ブスと言わないのは優しさね。――それじゃああれだけ病室に入り浸り、ときに夜中に入っても何も言われない理由は?」

「許可を得ていたのだろう?」

「普通病院は夜中には帰される物よ。特に重大な病もなく、知り合いでもないひとを置くことはしないと思うけれど?」

「想像とは違っていたみたいだね」


「それじゃあ――」


 メリーは、ねえと尋ねた。

 彼女は確信を抱いていた。意固地になって否定する理由。気付かないとばかり考えていたが、違う。

 メリーは気付いた。早苗は鈍感ではないこと。とっくの昔に気付き、しかし気付いたことを忘れたということ。


「初めの日、電話を掛けたよね。番号にきちんと名前が付けられていたことを、不思議に思わない?」


 早苗は口を閉ざした。


 勿論、おかしいと感じていた。目を覚ましたとき、携帯を確認したときに目を疑った。

 初めて会った相手と云うのに、登録されていない筈の番号が登録されていたのだ。電話帳に名前はなく、しかしメリーさんと云う名前は番号の代わりに写されていた。

 

 それでも早苗はメリーをただの少女と信じた。

 眠っている間に番号を登録したに違いない、そう言い聞かせた。

 おかしいと感じながらも、顔を見せることのない少女をただの人間と扱おうとした。


 記憶に蓋をするように、早苗はメリーを人間と思っていたというのに。


「私はメリーさんよ。ねえ、分かった?」

 メリーは否定する。


 初めは強盗と思っていた。声を掛けられたことで少女と知り、確かに得た安堵は、恐怖に変わろうとしていた。得体の知らない何かに何をされるかは分かった物ではない。気付かないふりをすれば、何もされないと考えていたと云うのに、メリーは自らを明かす。

 どうやら助かる当てはないようだ。早苗は涙目になる。

 

「一つ、聞いてほしいの」

 そう言うメリーの言葉に、頷かないわけはないと云うのに。

 意地が悪い、と早苗は思う。口にすることはない。


 そして、メリーは言う。 

「私を住まわせて貰えない?」

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