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後ろのメリーさん  作者: 10.bi
着信アリ
4/34

1.4

 早苗が退院するその日、メリーは病室に居なかった。

 前日までは部屋に居たメリーは、忽然と姿を消していた。


 病室には早苗と、その母親だけが居る。母親が病室を訪れたのは、入院したその日以来だ。

 そう云えば、そのときもメリーはいなかった。案外人見知りの気があるのかもしれない。早苗が笑うと、母親は不思議そうな顔をした。

 

 果たして、メリーは何処に行ったのだろう。

 メリーの定位置とも云えるカーテンの向こうに姿はなく、それゆえいつも盛り上がっていた布は今日ばかりは痩せている。

 また会うことは出来るだろうか。どこか寂しい気持ちを引きずって病室を後にした。

 

 久しく外に出たことで早苗が感じた物は、懐かしさではない。

 退院したことを後悔するように、早苗はコンクリートを睨みつけた。


 うだるような暑さに、汗をかく。

 車を取ってくる。そう言い残した母親を待つ間、病室に逆戻りしたくなった。

 

「どうせ車を取ってくるなら、ロビーに置いてくれれば良かったのに……」

 愚痴を吐く程に、日差しにすっかりと弱っていた。

 その理由は、まるで日差しを浴びていなかったことにあるだろう。


「メリーの所為ね」

 またも愚痴を吐く。

 

 こうしたとき、ヒョッコりと顔を出す少女であると早苗は認識していた。

 しかし現れはしない。代わりに声を掛けたのは、車を取ってきた母親だ。


 冷房のついた車に身を置くと、数十分待てば家に着く。

 母親は部屋に上がろうとしなかった。早苗を家まで届けると車を発進させた。

 

 そうして、久方ぶりに早苗は帰宅した。

 懐かしささえ感じる部屋は、けれど記憶の上よりも整っている。わざわざテーブルの上に並べられたリモコンは、掃除されたことを伝えるようだ。

 

「……お節介」

 ぶうと口を尖らせる。

 

 早速、手に取ったリモコンを扱い冷房を付ける。

 そして一息つこうと座椅子に腰を下ろしたとき――。


「ただいま」

 声が聞こえた。

 

「大丈夫? 忘れていない?」

「……ダメかもしれない。また、鍵を掛け忘れていた」

「大丈夫。鍵は掛かっていたから」

 それならばどうして入って来られたのだろう。


 早苗は、声を掛けられるまでメリーと出会ったときのことを忘れていた。不法侵入をされただろうことは、病院に連絡したことを理由に水に流していた。

 けれど、どうやら放置することの出来ない問題に嘆息する。

 

「メリー。私は、退院したの。だから教えて頂戴」

「良いわ。約束は守る性格よ」


 メリーはそう言って、笑う。

 早苗は玄関を向いた。鍵の掛けられた扉が視界に映るのみで、メリーの姿はない。

 

 不意に背後より気配を感じた。

 そして、そこにいることを伝えるように、メリーは言う。

 

「私はメリーさん」

 改めて名前を口にした。

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