2.16
メリー、と一人になった部屋の中で呼びかけるも返事はない。友のいなくなった部屋でわざわざ隠れる必要はないだろうに。それとも姿を見せられないことを退屈に思い、どこかへ遊びに行ったのかもしれない。
考え始めるが、都市伝説に対しての思考ほど無駄な物はないだろう気付き、早苗は寝転がる。
「連絡があるまで暇を潰す当てがあるわけでもなし、か」
普段どう暇を潰しているかと言えば寝転がっている他はない。
ショッピングや読書と言った趣味は早苗にはなく、天井を見上げている間に普段ならば眠ってしまえた。しかし、どういったわけか今日ばかりは眠気がやってくることはなく、ただ白い天井を見上げ続けることになる。
吐いた嘆息は、退屈の程を示す。欠伸さえ漏れないのは少量の運動の為だろうか。動きのない白い天井を見続けるのが嫌になり、大きく息を吐き、早苗は身体を起こした。
することはないと言うのに。愚痴を漏らしながら立ち上がり、そして玄関に向かう。
「……と」携帯を忘れたことに気付き、踵を返す。どれだけ外に出ているかは未定で、早苗はただ歩くことを決めていた。歩く道は決めていない。棒を倒した方向に進めばいいとさえ考えている。
開いた扉の先からは、少し前に部屋を出たときよりも明るい日差しが差し込む。ぽかぽかと暖かい陽気に包まれながら部屋を出る。
「そうだ。メリーもいないし、先輩のところに……」
見られている心配がないうちに行ってしまえる。そして時間を潰せるだろうことから早苗は隣の部屋の戸を三度叩く。
「出ない。寝ているのか?」
それとも出かけているのか。返事はない。
やはり散歩に出るしかないのだろう。早苗は歩き、道へ出る。
人通りは少ない。オープンキャンパスがあるとはいえ、大学に近いと言うだけの住処を見学に来るモノ好きはいない。また、オープンキャンパスの中でそれほど大きな催し物はないのか、それが開催していることを察することをさせるほどの音は聞こえてはこない。
オープンキャンパス、と意識が向いたことを理由にしてか早苗の足は学校の方面へと向かう。どれ程のひとが来るだろう。どういったひとが来るだろう。そうしたこと以上に興味を持つのは、どういった催しが開かれるか、だ。
早苗にはオープンキャンパスという物がどういった物か分からない。地元を同じくしている友が泊まる必要性を感じる距離だ。わざわざ見に行くまでもない、そう面倒に思ってのことだった。
地元の大学を見に行くこともなかった。ゆえに足を運ぶ理由は彼女にとって十分であり、早苗の目には僅かながら好奇さえ見て取れる。
在校生が行っても問題はないだろう。そもそもバレはしないだろう。
そう思い逸る足は十数分後、大学の敷地を踏む。
かくして訪れた大学には、早苗の思った以上のひとで溢れている。
「これはバレないだろう」
そう確信させるに十分な量の人間がキャンパス内を歩き、右往左往と道を往く。目についたひとの流れに身を任せる。
「お?」
そこで見つけた物に合点した。
先輩が腕を振るい、指示を出していた。列は此方だ。あちらだと手で示す彼女の首に下がったカードは、そうした役を背負っているだろうことを示すようだ。挨拶をすべきか、否か。考えた早苗は列を抜けることはない。
待っていれば列は動き、先輩の元へ着く。列を抜けていらぬ混乱を招くよりはこうした方が良いだろう。そして何より面倒がないことを理由に早苗は人の流れに逆らうことをしない。
そして先輩の前へと立った時、先に挨拶をしたのは彼女の方だった。先輩は感心したようにじっと早苗を見る。
「あら、早苗の従妹ちゃん?」
「いいえ誤解ですよ、先輩。私です」
「えー。本人?」
「残念そうですね。私のことが嫌いでしたか」
「だって、早苗。早苗と瓜二つの娘が居ればそれ以上に嬉しいことはないとは思わない?」
「ドッペルゲンガーですか。できれば顔を会わせたくはない、とは思いますね」
ところで、と早苗は尋ねる。
「何か面白い出し物はありませんか?」
「早苗、文化祭と間違えていない?」
「いませんよ。暇で仕方がないので足を運んだ次第です」
「いつもは暇をしていても部屋にこもっているのに」
「少しは健康的な生活を送ろうと心変わりしたのかもしれません」
「他人ごとね。――それで。ええと、ね。暇をしているのなら二号館の方へ行けば確か」
「確か?」
「氏名、学生番号を言えばこの首飾りを貰えるかも?」
「手伝え、と。もう少し魅力的な報酬なら考えたかもしれないですが」
「それなら首飾りをもう一つ?」
「嬉しいですね。では、帰らせて頂きます」
「それならもう少し待って貰える? もう少ししたら抜けるから、帰るのなら一緒に、ね?」
「はあ」




