2.11
「荷物は適当な所に。部屋は荒らさなければ好きに触って貰って良い。……まあどこかに行くことはたぶんない。分からないことは聞いてくれて構わないよ」
「うん。二日間お世話になるね」
「大した振る舞いは期待するなよ?」
早苗は、客用のコップを出しながら釘を刺す。
片づけばかりを進めていたために出し忘れた物は幾つかあり、コップ、それに座布団代わりのクッション等をせっせと運ぶ。そのどれもが親に渡されてから一度も使っていない、埃の被った物だ。
また片づけは杜撰な物であり、部屋の隅に物が積まれているだけだ。どうして時間が掛かったのだろうか、山を突きながら疑問に思うが、尋ねることはない。これは使わないだろうと山の検分をする。
友の期待とは裏腹に目ぼしい物を見つけることは叶わず、ゴミのような物ばかりが目に入る。かと思えば教科書類が挟まっているのは、早苗にとってそれが同義であることに他ならない。
「何かあったかな?」
クッションを叩きながら早苗は尋ねる。
「何かあったかと言われると、まあ」
「使う物があると困るし、捨てるのは勘弁願うよ」
「片づけのときに仕訳すれば良かったのに」
「まあ、待たせるわけにもいかなかったからね」
メリーにそれが出来ないと言えたわけはなく。
「ほら」ぽいと投げられたクッションが友の元へ届く。
「他に必要な物はある?」
「うん。……どうかな?」
「まあ分からないか。追々出せば良いかな」
結論付けて腰を降ろすと、途端に話はつまる。
それまで話をしていた友は言葉を探し、忙しく部屋を見回している。話し掛けられないのであれば、と受けに徹した早苗が気を回すことはなく、どこ吹く風でぼうとする。
二人きりの空間で無言が続くのは心地よい物ではない。かと言って話し始めるには如何せん空気が重く、解消できないだろうことを悟り、友は部屋の隅に置いたトランクケースを引き寄せた。
そこから取り出されたのは、筆記用具とファイルだ。ファイルから取り出された紙に早苗は興味を示す。
「オープンキャンパスの日程?」
「うん。学校のサイトに乗っているみたい。学校から渡されてね?」
「それを確認とは、感心するよ」
早苗が黙っていることを起因とした行動だが、何も言うまい。
友はタイムスケジュールを流し見て、ときにチェックを入れる。そうした行動に、早苗はマジメだと終始感心した素振りを見せる。
紙を見終わるのにはそう時間は掛からない。チェックを付けていても掛かる時間はそう変わった物ではなく、作業は直ぐ終わる。
先ほどまでに比べれば空気は和らぎ、幾分か話し易くはなっただろう。しかし根が真面目なのか、友が手を止めることはない。
次いで取り出された紙に早苗は首を傾げた。
「大学の地図だよ」
通っているのだから何となく分かるだろう、と友は呆れた様子だ。点々とした校舎の配置とタイムスケジュールとを合わせて見ると、「面倒なことをするな」同じく呆れたように早苗は言う。
「たぶん心配性なのかもしれないから」
「心配性?」
「お姉さんの家に泊めて貰うのも心配からだよ」
電車がとまるかもしれないし、乗り遅れてしまうかもしれない。何があるかなど分かった物ではないと言い、友は肩を竦める。
「……まあ大抵の場合は、杞憂に終わるけれど」
「そう面倒なことばかり考えていて、いや感心するばかりだね」
「嫌味っぽいよ、それ」
「本心だよ。心配するべき事柄と目を合わせない性質だからね」
真似をするように、早苗は肩を竦めながら言う。




