2.10
第一声は、本当に変わったわね、だった。
友の母親は驚いたように言う。何年ぶりに会ったか記憶にはない、久しぶりに顔を会わせた親戚の言葉は変化を指摘する。
会わない期間は長く、当然成長するに決まっているだろう。不思議そうに首を傾げる早苗は、しかし違うと否定される。友の母親の言葉は、身長が伸びたことに対する驚きではない。
「髪よ。昔は男の子みたいだったでしょう?」
格好良かったのに、と残念そうに言う。
ショートカットの頃には少年的で、彼女の言う通り格好良く見えた外見は髪が伸びたことで印象を変えた。美しく、女性的に見えるように変わったこと。可愛らしい同性よりも格好良い姿を見ている方が楽しいのだろう、昔はあんなに、とやはり残念そうに語り始める母親の肩を叩き、友は制する。
「あまり長く話しているとお父さんが……」その言葉は、思惑通りに母親の興味を逸らす。
しかし、かと思えば友は振り向き、早苗に尋ねた。
「ああでも、髪を伸ばすようになったことは、私もすこし気になるかな」
気にするところだろうか。早苗はそうして尋ねられることが不思議でたまらない。
「大した理由はないよ。床屋に行くのが面倒なことと、あとは先輩に切るなと言われているのが理由かな」
「え?」
「ん? 何かおかしなことを言ったかな」
「いえお姉さん。ただ床屋と聞こえたような気がして、ですね?」
「おかしなところを気にするな。床屋だけど、何か?」
「……いえ、別に」
ならばどうして指摘したのか。首を傾げるも答えはない。
友の母親は手を叩く。そして荷物を持つよう友に言い、早苗には手招きをする。
娘を宜しく。言葉と共にポチ袋が手渡される。幾らか包まれているのだろう。ポケットにしまい頭を下げる頃には友は荷物を持ち終えていた。
行こう、と急かす友に早苗は着いて行く。
立場が逆だろうと思いながらも指摘することはない。エンジン音を耳にし、軽い会釈を残し車から離れていく。
車から離れたときに目立つのは、ガラガラと言うタイヤの回転する音だ。
友の持つキャリーバッグが存在を主張し始める。
部屋までの距離は短く、少し歩いたのち、階段を昇れば直ぐに部屋に着く。そして部屋に着いてからは存分に話すことが出来るだろうに、まるで会うことの出来なかった期間を埋めようとするかのように友は話をする。
初め扉を開けたときのように大きな空回りは見せることはない。
「それにしてもさ」
友へと視線を向けながら早苗は「ああ」小さく言葉を返す。
「時間、随分と掛かったね」
「……そうかな? まあ久しぶりに会ったから話が長くなったのかもしれないな」
「違うよ。お母さんじゃなくて、片づけ。あんまり散らかっていなかったように見えたけど」
「ああ。……まあ」
「見られたらいけない物とか?」
「まあ、そんなところかな」
見られたくないものを隠していた。それは真実だろう。
一人暮らしを一人ではなくしている物。
幸い追及の手は弱い。じきに部屋に着くからだろう。
階段を昇り切り、扉を目指す。
友の姿を気にしていた先輩は二人の前に姿を見せない。
どこからか見ているのか。早苗は視線を物陰に向ける。そうして見つかる物はなく、クリーム色の壁が見えるばかりでひとの姿はない。
「部屋に来るのかな」
それとも駐車場に立つ友は既に見られているのか。どちらにせよ構わない。それによる起こる問題はなく、あったとしてメリー程大きな問題を抱えることはないだろう。
「ただいま」
そしてメリーのいなくなった部屋に帰ってきた。




