2.8
掃除には大した時間は掛からない。
彼女の母親が掃除をしていったことからまだ綺麗な部屋の中、片づける物は少ない。メリーの使った食器を洗い、水滴をふき取る他にすることはなかった。
「元気でね」
そんな挨拶と共に二人は分かれる。
玄関に向かい、車が止めてあるだろう駐車場へ降りていく頃には、メリーは姿を消していた。部屋にメリーが残っているのか、否か。どちらにせよ鍵を締める必要はないだろう。早苗は手ぶらで外に出た。
「おや」
玄関を出るなり顔を合わせたのは、友ではない。
昨夜、顔を会わせた女性が立っていた。早苗が先輩と呼ぶ女性は、まるで偶然顔を会わせたかのように声を上げた。
「これは奇遇ね、早苗」
「奇遇? それがこちらを向いているひとの言うことですか?」
早苗を待っていたかのよう、扉の前に立っていただろう。
指摘にはてと首を傾げる。先輩は素知らぬ顔で言う。
「全くの偶然ね」
「なるほど。先輩はたまたま扉の前にいたと」
「いいえ。横歩きをしていたの」
「……そしてたまたま扉を開けたときに前にいたと」
「そうよ。だからね、奇遇でしょう?」
「そうですね。いやはや偶然とは怖い。そしてまさか用事があるとは言いませんね?」
「あら、それが丁度用があるのよ」
どこか偶然だ。目を細める早苗に、やはり素知らぬ顔で言う。
「新しい服を買ってきたの。また着て貰えないかしら」
「服ですか。またふりふりですか」
「そうよ。お礼ははずむから……。ね?」
お礼。それは金である。
早苗はこうして物を頼まれることがあった。
可愛らし服を着て写真を撮られる。たったそれだけの行為はそれに見合わぬ報酬がつく。ちょっとした小遣い稼ぎにしてはあまりに楽な内容に首を振るうことはなく、早苗は多く了承していた。
早苗はいつものように頷く。
すると嬉しそうに顔を明らめた女性は、早速早苗の手を引こうとする。早苗は手を引いた。
「ああ。いまから用事があるので、また今度でも良いですか?」
「暇人の早苗に用事?」
「先輩、失礼ですね。これでも忙しいですよ」
忙しくはなかった。
「ともかく、ですね。これから従妹を泊めることになっています」
「従妹?」
「ええ。恥ずかしいことに従妹ですよ」
「それは早苗に似ている?」
「さあ? どうでしょうか。気になるなら見ていきますか?」
「いいえ。こっそりと見ることにするから大丈夫」
「ですか」
「ですよ。じゃあ、またあとで」
「それじゃあ服、暇になったら行きますね」




