2.4
「メリー。もしかすると、君の他にまだメリーさんと云う物はいるのかな」
「そうね。メリーさんは、幾らでもいる」
でも、とメリーは首を振るう。
「貴方の元に来ようとしたメリーは私一人よ」
「本当にそうと言い切れるのかい?」
「ええ。窓口に問い合わせたことだから確実よ」
「……今度メリーさんについて教えてもらいたいな」
「ダメよ。企業秘密」
兎も角、扉の前に立つのがメリーでないと知れば、多少は恐怖が和らぐ。
どうか正真正銘の人間であるようにと祈りながら早苗は玄関に立つ。魚眼を覗き、確認した姿はメリーのように現実離れした物ではない。ただの少女。見た目高校生程だろうか、ボブカットの少女が腰に手を当て、扉の前に立っている。
「メリー。少しの間、大人しくしていて欲しい」
「ええ。了解」
二人は短い言葉を交わした。
鍵を開ける。そうしても客人は扉を開き、上り込もうとはしない。
相手が無遠慮な性格をしていないと判断をしない。早苗は面倒と思う。もしメリーならば鍵を開ける必要さえなかっただろう、と。
「ほら、開けたよ」
言いながら開いた扉の前には、少女の姿がある。
魚眼で見た物と変わらない。改めてその身体に視線を這わせることをせず、早苗は尋ねた。
「こんにちは。いやおはようかな?」
「そうだね、私はおはようの気分だよ」
「そうかい。それより尋ねたいのは君が誰かと云うことだけど、此方は答えて貰えるのかな」
「ああ私? 私はね、メリーさんだよ」
「…………」
どうなっている。早苗は振り返り、カーテンを睨みつける。
膨らみをなくしたカーテンは答えない。
「どうかしたのかな?」
「いいや。どうもしないよ」
首を振るう。
すると少女は勘ぐった様に部屋を覗き込む。視界に映る部屋に別段おかしな点は見られない。何を気にするのか。少女に分かるはずはない。
「お茶目な冗談が気に入らない?」
「私は冗談が嫌いだからね。その中でもね、メリーさんを自称する輩が特に嫌いだ」
「嫌い、かい?」
少女は尋ねた。余裕の見られる表情が曇ったことに早苗は気付かない。
「ああ嫌いさ」
言うと、少女の表情は悪天候を強くする。
涙を流した。ぼろぼろと、雫が流れ落ちる。
「え?」
理解できずに戸惑うが、対し少女が動きを止めることはない。
肩が揺れる。しゃっくりを漏らす。演技とは思えない。演技ならばどれだけ良かっただろう変わりように何をしただろう。早苗は見ず知らずの少女の腕を引いていた。
玄関の前で泣かれていては困る。とっさの判断に身を任せ、部屋に居れる。扉を閉め、そして施錠した後でまた尋ねる。
「君は誰だよ。何がしたい」
答える声はない。押し殺した泣き声が部屋に響いた。




