1.12
「外では話し掛けないで欲しい」
「あら、どうしてかしら?」
「無視をしなければいけないからだよ。無視するのは心が引けるし、かと言って構うことも出来ない。だから話し掛けないで欲しい」
「だけどそれは詰まらないわ」
メリーは顔を顰めた。
そして考えに耽る様子に、早苗は気付けない。
「他人に見られておかしくないように見せられるとすれば、話しても構わないでしょう?」
「つまりどうしようと言うのかな」
「電話をしましょう。私と話す時は携帯を耳に当てる。そうすれば、おかしいとは思われることはないでしょう」
成程、と早苗は頷いた。
それ位ならば構わないだろう。簡単な作業を断ることはなく、頷いてしまう。
「良いよ。電話を耳に当てるだけだろう?」
「そうよ。本当に電話を掛けなくても良いの」
早苗は耳元に携帯を持っていく。髪が機械に掛かる。
道を行く人を見かけたとき、わざわざ話すのを止めない。通りがかる人はさして不審な視線を向けるわけでもなく、ただ人がいることを認識したようにちらと見るだけだ。
「どうしてすれ違う人を見るのかしら」
「他に見る物がないからだろう」
「見る物ならそこに沢山あるじゃない」
「見慣れた風景を見たいと思うかな。それならば、そう見慣れない物が通るのを目で追うと思うよ」
「そうかしら」
メリーは首を傾げる。
理解できないのも無理はないだろう。メリーは知識はあると言うが、経験はない。見慣れた物はなく、それゆえ見飽きたと云うことを理解できない。
電灯の少ない、暗い道。光を放つそこもまた、メリーの目をひく場所だ。
早苗が同じように視線を向ける。二人の目指していた場所は、此処だ。
「流石に店内では無視をさせて貰うよ」
早苗はそう言い、携帯をポケットにしまってしまう。
後から聞こえて来るメリーの不平不満には耳を貸さない。本当に携帯を介して声を伝えていたのではないか。メリーが不安を覚える程に徹底する。
「へえ……」
早苗は独り、呟いた。
アイマスクを買いにコンビニまで訪れたが、まさかコンビニにあると思ってはいなかったのだ。入る店を間違えた。そう感じたのは、駐車場に足を踏み入れたときだ。しかしコンビニには存外に物が揃っている。
まさか病院にいた間にコンビニに物が増えたわけではあるまいに、しかし早苗は興味深そうに棚を見る。
スーパーと何がかわるだろう。そんなことにまで疑問を感じるのは、疑問を感じやすい性質ゆえだろう。
「ねえ、早く行かないの?」
飽き飽きとした声が向けられる。
声に我に帰り、早苗はこくりと頷いた。そしてアイマスクを片手に、レジを目指す。
果たしてアイマスクのみを買おうとする客をどう思うだろうかと、早苗はまた疑問を覚えた。




