1.11
家を出てすぐに、早苗の疑問は解消される。
早苗とメリーが外へ出たとき、早苗に近づく影があった。
それは女性だ。早苗よりも二つばかり年上の女性は、近づくなり久しく会わなかったことを指摘する。そして女性の口は開閉を繰り返す。光沢を見せる口から語られるのは、噂話であった。
長らく部屋を空けていた理由についての憶測が語られる。それだけで一向にメリーの存在を指摘しないと云うことは、つまりメリーの存在に気付いていないということだろう。早苗は気付き、息を吐く。
他人に見られないならば顔を合わせることはない。
それはつまり、メリーの言う通りに死は起こり得ないことだ。
僅かな安堵は、同時にまた悩みを生む。
他人を巻き込むことがない。それは早苗にとって良いことばかりではなかった。
「ねえ、早苗。早く行きましょう?」
「…………」
早苗は他人の前でメリーに構うことが出来ない。構ったとすれば異人変人と扱われるだろうことは、簡単に理解できた。だからこそ、面倒と思う。
また、状況を打破するのが難しいことを同時に理解していた。打破と云うのは、メリーの言うようにこの場を離れることではない。メリーから離れること。平穏の獲得だ。
メリーは早苗以外の他人に手を出すことが出来ない。そして、メリーに手出しできるのは早苗のみ。これは、解決できるのが早苗のみと云うことを示している。誰かに頼り、例えば押し付けることは出来ない。
どうして面倒なことになってしまうのだろうか。早苗が嘆息を漏らすと、女性が何かと首を傾げた。息を吐き、嘆息まで漏らした。何か合ったのかと気遣いを見せる女性に対し、早苗は首を振るう。
「疲れているのでしょう」
他人ごとにそう言う。
或いは憑かれているのか。
在り来たりな文句だが、しかし現実に口に出来る状況になることはまずないだろう。しかし早苗は珍しい一例となっている。そのことを喜ぶわけでもなく、早苗は顔を顰める。
「このひとは嫌い。だからね、行きましょう?」
返事の代わりに小さく首を引き、早苗は別れを告げる。
「先輩、お休みなさい」
有無を言わせずにただ別れを告げると、ようやく二人はコンビニに向けて歩き出す。




