1.10
買い物に行くと云う目的は、早苗に一つの疑問を与えた。
どうして今夜に限って疑問を覚えたのか。それは、今夜彼女の元にメリーがいることが理由だ。メリーの存在が疑問を覚えさせた。そして疑問は、メリーの存在に関する物だ。
果たして、メリーは誰彼にでも見える物だろうか。
早苗が抱く疑問は、これだ。
もしも認識される物ならば、顔を合わせた相手を殺すと云う特性は実現されるのだろうか。そもそもどう実現されるかさえ知らされてはおらず、故に早苗はメリーを買い物に連れていくべきではないと考える。
それでは、メリーが認識をされない場合はどうだろう。
どちらにせよ、早苗はメリーを連れて行こうとは思えないのであった。
財布を手に取りながら早苗は言う。
「留守番をお願いするよ、メリー」
「私を連れて行っては貰えない?」
「良いことが起こりそうにはないからね」
悪いことばかりが想像されることに、早苗は嘆息する。
不満げな声が向けられる。子供が駄々を捏ねるように、メリーは自らを連れていけと言う。
「正直に言うよ。私はね、悪いことが起こると思うから連れて行きたくない」
「大丈夫よ。問題は起こらないし、起こさない」
「その気になれば起こせるのかい。それは是非留守を頼みたいね」
「嫌よ。連れて行かないと言うならそうね、この部屋を荒らしてしまおうかしら。トイレットペーパーを引き裂き、お風呂場の電球を割ってしまう。クーラーを壊してしまうことだって出来るのよ。それでも構わない?」
「それで暮らし辛くなるのは君も同じだろう」
「む、貴方だけが困る嫌がらせもあるのよ」
「そうかい。例えば?」
「そうね、下着をベランダからばら撒いてしまおうかしら」
「……いちいち規模が小さいね」
「嫌なことに違いはないでしょう?」
メリーは笑い、そして早苗は苦笑する。
「兎も角ね、私を連れていくと良いわ」
「連れて行けと言うならね、一つ頼みがある」
「なあに?」
「君を連れて行くことで誰か死ぬことになるのは御免だ。そこを保障して欲しい」
「心配性ね。それは起こり得ないことよ。安心して頂戴」
仕方なしと頷き、早苗は玄関に向かう。
玄関には、早苗の靴の他にもう一足置いてある。メリーの靴だ。早苗の物よりも幾分か小さな靴は、早苗の靴の隣でつま先を扉に向けている。
散乱せずに置かれた靴に、視線を落とした。
青を基調とした靴は少女らしく、古臭い印象は与えない。
それならば服装はどうなっているのだろうか。やはり年頃の少女らしく、そして人間らしい服を着ているのだろうか。早苗はまた疑問を覚える。確かめる術はない。部屋に視線を向けたところで視界に映る物はなく、不思議そうな声が届くのみだ。
「早く行こう?」
急かす声に、早苗は頷く。




