三人の集結
お風呂から上がり、しばらく彼女と雑談を交わす。
気がつくと、いつの間にかリアルでは夕方になっていた。
「じゃあ、一旦ログアウトしようかな。ご飯食べたらまた来るよ」
「そうですね。夜に三人でイベント行きましょう」
「だね。じゃあまた後で」
彼女に別れを告げ、ログアウトする。
CABの蓋が開くと、窓から差し込む夕日が部屋を赤く染めていた。
「ゲームは届いたのか?」
夕食の最中、突然父さんが口を開いた。
「あ、うんうん。叔父さんが午前中に持って来てくれたよ」
「クレーン車まで来たから、お母さんもビックリしたわ。家にあるからってあんまりゲームばっかりしてちゃダメよ、若いんだから外にも遊びに行きなさい」
「はーい。でも外で遊ぶって言ってもすること無いんだよね。子供みたいに走り回る訳にもいかないし」
実際、この歳になると外で遊ぶって事が良く分からない。
スポーツは苦手じゃないけど、授業で十分。
休みの日まで汗を流すほど体育会系じゃない。
「そうねぇ、アキラ友達多そうじゃないもんね」
うっ、母親のセリフじゃないぞそれは。
もっと気を使ってくれてもいいんじゃないか?
確かに僕は友達が少ない。
でも悲壮感漂う高校生活を送っているわけじゃないんだ。
「母さん、友人は数より質だよ」
ドヤ顔でそう言ってはみたものの。
「あら、そんな仲の良い友達がいるの? 高校に入ってから友達なんて殆ど連れて来ないじゃない」
返答のしようもございません。
中学時代はそれなりにあった交友関係。
高校入学と同時に、めっきり少なくなったのも事実。
仲良かった友達が別の高校に行ったってのもあるんだ。
「友達は少ないけど、しっかり女の子は掴まえちゃうんだもんね。まるでどこかの誰かさんみたい」
――どこかの誰か。
そう言った母さんの言葉に、父さんの箸が一瞬止まったのが、その誰かを物語ってる気がした。
「掴まえるって、二人はそんなんじゃないよ」
考えてみると、僕は両親の過去を知らない。
二人はどんな青春時代を過ごし、どうやって出会ったのか。
それは僕のルーツ、とも言えるだろう。
何だか気になるな。
「で、どっちが好きなの?」
「なっ!? 何言うのさ突然!?」
味噌汁のわかめが、鼻から生えてくるんじゃないかと思った程。
家族団欒の夕食。母親とする会話のキャッチボール。
変化球など一切ない、豪速球でストレートな質問をぶつけてきた。
「だって気になるじゃない。どっちもタイプは違うけど素敵な子だし、アキラはどっちがいいのかなって」
容姿端麗、明快闊達。
スラリと伸びた手足と、手に納まりきらない程のおっぱ――これは蛇足だった。
元気で明るく、大人の魅力を持つ諒子さん。
窈窕淑女、純情可憐。
力を入れたら手折れてしまう花の様に儚げな、小さな身体。
ルミエスタでは現実の諒子さんをも凌駕する、たわわに実ったおっ――蛇足だ。
年上なのに守ってあげたくなる様な若葉さん。
確かにタイプは全然違う。太陽と月、みたいな。
正直二人とも魅力的な女性だ。
「別に二人はそういうのじゃないし、友達だよただの」
「そっか。でも気をつけなさいよ『二兎を追うもの一兎も得ず』って言うでしょ」
「だから友達だし、どっちかを追うとかないよ」
「もったいないわねぇ、あんな素敵な子達なのに」
確かにどっちも魅力的だし、あんな人と付き合えたりしたらいいなって思う。
でも僕には高値の花って言うか、遠い存在だ。
「二兎を追うからいかんのだ」
僕と母さんの会話を、黙って聞いていた父さんが口を挟んだ。
「二兎を追ったら逃がすのは当たり前。だが、向こうからやって来る時は遠慮なく二兎捕まえればいい」
「もう! アキラに変な事言わないで下さいよ! ケンジさんみたいになったらどうするんですか!」
咳払いを一つして、何事も無かった様にビールに口をつける。
二兎捕まえろだなんて、欲張りにも程があるじゃないか。
父さんみたいに、って一体何の事だろう。
ますます気になる、この人達の過去。
今度梶田さんにこっそり聞いてみよう。
「ごちそうさま!」
そう思いながら、僕は部屋に戻った。
部屋に入ると、着信を知らせる、スマホのLEDが点滅していた。
見てみると、差出人は[諒子さん]
どうやら仕事が終わって帰宅したらしい。
ルミエスタで待ってるよ、みたいな内容だった。
これで、やっと三人が揃う。
ワクワクしながら、僕はCABに乗り込んだ。
――始まりの丘――
ログインして、丘に着いた時にはもう二人が待っていた。
「おまん遅いぜよ。それにしても、まっこと久しぶりじゃな。イゾウ」
日の光にキラキラと輝く、一本結いの金色の髪。
あの日と同じ場所で、リョウマが笑う。
「ゴメンゴメン。久しぶりだな、リョウマ」
「これで三人揃いましたね。この時をどれだけ待った事か、私嬉しくて泣きそうです」
「うんうん。アタシもグッと来るものがあるよ……。長かったね、ここまで」
二人がしんみりした顔で言う。
「ちょ、ちょっとそんな、大げさですよ。諒子さんも口調が戻ってますし」
「あ、まっことぜよ」
「それ『本当だ』って言おうとしたんですか? 口に出すまでおかしいと思いませんでしたか?」
笑い声が丘に響く。
あの日、それぞれと過ごした時間は一生忘れない思い出。
これからは、三人で思い出を作っていくんだ。
「じゃあ改めて、ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい」
ルミエスタの思い出の場所で、初めて三人揃った瞬間だった。
「そう言えば、イゾウは新イベントの事知っちょらんのやろう?」
「ああ、僕も全然分からないから楽しみだよ」
「何か公式見た感じでは、ちょっと怖そうなイベントでしたね」
「裏切りの館って書いちょったのう。まぁ、どんなもんか早速突撃ぜよ!」
「おー!」
リョウマの言葉を合図に、僕達はイベントフィードに向かった。
着いた僕達が見たもの、それは異様な光景だった。