“愛”してくれますか
恋は下心で愛は真心という言葉がある。
だから私は、愛してくださいと、付き合った人に言うようにしたいと心に決めていた。
大学1年になるまで、そんな人は私の前には来なかっただけだ。
大学1年になって、下宿を始めた私は、自動的にゼミに配属された。
本格的なゼミではなく、どんな感じかということを知るための簡単なものだ。
そこで、私は彼に出会った。
眼鏡をかけていて、どこにでもいるような青年と言った感じだ。
でも、その横顔に、私は不思議と惹かれた。
どうしてかって言うのは問題じゃない。
問題なのは、彼に惹かれたという事実だ。
週に一回だけのそのゼミは、それからの私にとっての大好きな時間になった。
彼と一緒にいられるというだけで、十分だ。
これからの一歩なんて考えただけで、私と彼の間が壊れそうな気がして踏み出すことができなかった。
でも、しないといけない時もある。
ゼミも終盤に差し掛かったころ、私は彼に聞いた。
「ねえ、そう言えばね、私の友達の話なんだけどね」
「うん」
この日はテストも近くということで、自習という扱いになっていた。
だから、自由に話すことができた。
「好きな人がいて、その人に別の好きな人がいないかっていうことを知りたい時、どうすればいいと思う」
「直接聞いてみたらどうだ。こそこそ周りに聞くよりもそっちの方がよっぽど早いだろ」
彼はそう言った。
「じゃあ、あなたに好きな人っているの?」
「俺にか?」
コクンとうなづく。
「今もいないな。昔から友達にはなるけど、それから先にはならないんだよな。一人ぐらい彼女は作りたいもんだよ」
「じゃあさ、私が彼女になってもいい?」
教室の中は、私たちの会話など気にしていないようだ。
「…いいよ。付き合おう」
「じゃあ、これからたっぷり愛してね」
それを言うために、18年間も待った。
彼はうなづいてくれた。