ヌヴェル46 パレイドリアの模様 梓の場合
梓は、博物館の受付嬢である。
歴史ある重厚な建物の中の特別な空間にいる仕事に彼女は満足している。
気にかかることは、ただ一つ。
背後の大理石の壁。
大理石が織りなす無秩序な模様の一部が、梓には人の顔に見えるのだ。
苦痛の叫びをあげているような人の顔に。
この建物は呪われているのではないだろうかと、その模様を見るたびに梓は気味悪くなる。
同僚の香織に相談しても、気のせいだと言う。
パレイドリア効果といって、ある模様が人や動物の顔に見えてしまうという心理現象だという。
でも何度見ても、苦しんでいる人の顔に見えるのと言っても、一度そう見えたら何度見てもそう見えるのが、この現象の特徴であり、脳の特異なところなのとはぐらかされてしまう。
ある日、二人の老人が受付の前で会話をしていた。
「この博物館の建っているところ、昔は無縁墓地やったらしいで」
「ほんまか」
「あぁ、せやから怨念が滲み出てるようやろ。ほら、あの壁とか」
「ほんまや、なんか苦しそうな人の顔に見えるな」
老人二人は、梓の背後の壁を見た。
梓と香織は互いの顔を見合った。
それから数カ月後。
梓と香織は、博物館新館の受付にいた。
今までいた旧館は地震対策の工事に入っていた。
新館は旧館の北側にあるが、十分陽ざしの入る明るい建物だ。
受付の背後は杉の板材に覆われている。
梓は、大理石の人の顔を見なくて済むと喜んだ。
ある日、二人の老人が受付の前で会話をしていた。
「博物館が建つ前は無縁墓地やったという話をしてたやろ?」
「あぁ、あの旧館のことやな」
「それが旧館の建っているところとは違ったみたいや」
「どこなんや?」
「旧館の北側の土地らしいで」
「せやったら、この新館のところやないか」
老人二人は、梓の背後の壁を見た。
つられるように、梓と香織も。
杉板の杢目が、苦しんでいる人の顔に見えた。




