第一話「目覚めの棺」
目を開けた瞬間、眩しさに瞼が焼けた。
……いや、光など差し込んでいない。
室内は薄暗く、重いカーテンが窓を遮っている。
それでも、僕の脳裏には鮮烈な「光の残像」が焼き付いていた。
――燃え盛る火。肌を裂く熱。皮膚が焼ける音。
子どもの泣き声。あの人の声。そして──僕自身の絶叫。
「……っ、ぅ……は……っ……」
喉の奥が乾いてひりついた。
苦しい。けれど、生きている。
それが、恐ろしかった。
寝台の感触が、あまりに柔らかすぎる。
焦げた布のざらつきも、縄の締め付けも、もうどこにもなかった。
僕は恐る恐る視線を上げた。
見上げた天井に、金の飾り縁。
白漆喰のなめらかな模様。
そして、その中央──ひときわ大きな、薔薇のレリーフ。
それは、間違いなく。
僕が、生まれてから十八年間見上げ続けてきた、「自室」の天井だった。
脳が現実に追いつかない。
どれだけ瞬きをしても、記憶の景色は変わらなかった。
(……あれは……夢だった……?いや、でも……)
指を見た。動いた。
爪も、皮膚も、すべてきれいなままだ。
僕の体は、すでに死んだはずだった。
剥がれた皮膚も、焼け爛れた腹も、膨らんだ命も。
あの地獄は、確かに“経験した”。現実だった。
扉の向こうで足音がした。
このリズム、この重さ、この距離の詰め方……覚えている。
何百回も聞いた、あの人の足音だ。
扉が、音を立てて開いた。
「坊ちゃま……起きていらっしゃいますか?」
――ヴィンセント。
屋敷付きの侍従長。
子どもの頃、僕を叱りながら手を引いてくれた、あの人。
処刑されたはずの、僕の家族同然の人。
白髪に満ちたその笑顔が、部屋の中に差し込む。
「具合がすぐれないのですか?いつもより遅くまで眠っておいででしたから……」
僕は、しばらく言葉が出なかった。
ただその姿を見つめていた。まるで幽霊でも見ているかのように。
(戻った……?いや、そんなはずは……でも……じゃあこれは……何だ?)
目の奥が痛む。
喉の奥が熱い。
混乱も、否定も、すべてを乗り越えて、僕は気づいてしまった。
――この世界は、「死んだはずの僕」が、再び目を覚ました場所だった。
これは夢でも幻でもない。
奇跡でも、赦しでも、慈悲でもない。
あれほど捧げて、すべて失って、
ようやく辿り着いた“終わり”すら、与えられなかった。
なら、これはもう──罰だ。
天が、もしこの僕に何かを与えたというのなら。
それは、「復讐の猶予」。
“すべてを取り戻すための、時間”だけだった。
次の更新は本日(10月8日)の21:30です。




