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4話

3日ほどかかった遠征依頼を終え、ホームである交易都市“ヴァルク”へ戻ってきていた。

未開拓地域の多い辺境にありながら、良質な港を有し、国内だけでなく他国との交易も盛んな港町ヴァルク。

ここには名誉、栄光、スリルといった“何か”を求めて多くの探索者が集まってくる。


港町特有の潮の匂いが鼻腔をくすぐる。初めの頃はつい顔をしかめてしまっていたそれも、今ではすっかり馴染みの匂いだ。


帰ってきた実感とともに探索者協会のドアをくぐる。

その瞬間、パッと明るい声がかけられた。


「あ!アルカちゃん!お帰りなさい!どうだった?こっち!こっちだよ!」


探索者協会内、その受付カウンターから乗り出すように少女が手を振っている。

表情豊かで愛嬌のある彼女はシエナ。押しも押されぬ看板受付嬢の一人である。

その明るい声とどこかコミカルな動きは依頼後の疲れた体に“効く”と評判だ。

呼ばれるがままにそちらに向かい、背負った背嚢から依頼の品を取り出していく。


「ただいま。無事、依頼達成やで。精算よろしく――あと、“ちゃん”はホンマに勘弁してや」

下手したら俺の方が倍は生きている可能性があるのだ。何故かだましているような後ろめたさにちょっと心が痛む。


輝く笑顔に少し申し訳ない気持ちが募る。カウンターの木目に視線を移して罪悪感をごまかした。


「相変わらずつれないねぇ。初めての遠征依頼だったし、お姉さん心配してたんだよ?大丈夫だった?」

「誰がお姉さんやねん……。まぁ、配信ではちょっとトラブったけど、おおむね大丈夫やったわ。」


重ねてしまった黒歴史を思い出し、少し眉間にしわが寄るのが分かる。――気付けば、尻尾が勝手に不機嫌に揺れていた。

俺の様子を見てか、顎に手を当て、考えるそぶりをするシエナ。


「んー。今回の配信はまだ確認してないんだよねぇ。アルカちゃんは配信6か月目……配信環境は……あ、使い魔が不調だったとか?」


「……当たらずとも遠からずといったところやな。」


完全にビンゴである。さすがというかなんというか。

……なんでバレるんだろうか。


そんな内心を見抜いたようにニヤッと笑った後、シエナはそのまま小悪魔的にウインクしてみせる。

「ふふふ、相変わらずアルカちゃんは楽禍神の加護が厚いよねぇ。」

「それって、ただ運悪がちってこやろ」

「そうともいうねぇ」


――楽禍神の加護が厚い。つまりはトラブルメーカーという意味らしい。

失礼なことを言いつつ、シエナは依頼の品を検品に回し依頼の精算処理を始めた。


「アルカちゃんは探索者としても配信者としても若手期待の星なのに、ちょーっと脇が甘いところがあるからね。“アドバイザー”として後で配信は確認するよ!」

「……今回はええんちゃう?ちょーっと失敗してもうてな?」

「だーめ。神回も炎上回も黒歴史回も全部配信者の歴史なんだから。」


ニコニコと手続きを進めるシエナ。

何を隠そう、俺に配信者として活動するノウハウを教えたのはこのシエナだ。乏しい予算内で配信を始められたのも彼女の人脈や教えに助けられたところがかなり大きい。


見えないようにひとつため息をつく。

旅に疲れた体に安物の防具が少し食い込む。

大盾と物騒なメイスもずっしりとした重量感を疲労とともに伝えてきていた。


「はーい。査定完了!魔石の状態もOK! 余分な討伐も高評価!依頼期限もばっちり!評価“良”!今回も頑張りましたね!」


笑顔で結果を告げながら、手元の用紙に結果を書き連ねていくシエナ。

今回の査定結果もよさそうだ。諸経費を引いてもようやく一息――


使い魔の修理代


ぱーんと頭の中で弾かれたそろばん。あまりの世の無常さに見慣れた天井を仰ぐ。


「それでは、探索者様。査定内容に異論がなければ端末をどうぞ。」


さっきまでコミカルだったシエナが、急に“やり手受付嬢”の顔に戻る。

『動』から『静』への緩急。ぐっと引き付けられるその変化に内心舌を巻いてしまう。


彼女のファンたちは、このギャップがたまらないと酒場で騒いでいた。

配信者としては見習うべきだろう。


「異論なしや。決済頼むわ。」

『動』一辺倒な自分の配信を反省しつつ、ポーチから“魔導端末”を取り出す。

魔導端末――蒼く澄んだ、手のひらより少し大きな水晶版。

ひらたく言ってしまえば異世界スマホである。


地球のスマホとは勝手が違い、最初は苦労したが今では変わらず必需品だ。


受け取ったシエナは、机上の用紙――契約書、査定書とか呼ばれている――の上に端末を載せて手をかざす。


「はい、確かに。それでは――刻印術式起動」


魔法陣が淡く光を放ち、端末が反応する。宙に浮かび上がった魔導文字が形を変え端末に取り込まれていく。

淡い光がシエナの顔を淡く照らし、いっそうその神秘性を高めていく。


「第二級裁定官権限により評価決定。刻印、転写――契約内容、確定!」


光が収まっていく。最後の一文字が端末に吸い込まれるとともに、完全に術式は終了した。


いい汗かいたとばかりに額をぬぐったシエナはまた、輝く笑顔に戻った。


「はい!おっけーです!今回も頑張りましたねアルカちゃん!報酬はどうする?結構あるけど」

「あー。半分現金で頼むわ。この後、師匠んとこに月謝払いがあんねん。あとは貯金で」

「あぁ、バストンさんとこの。あの人現金派だもんねぇ。魔導端末とか嫌いらしいし。」

「使い切れんから嫌っとるだけっぽいけどな」


俺の盾の師匠、バストン。魔導端末は“魂吸われる石板”とか言うくらいには偏屈な爺さんである。


手元の魔導具をひとしきりいじっていたシエナが顔を上げ、机上に硬貨を並べていく。

金貨が少し、銀貨がそこそこ。

自分より若い子(当社比)に月謝の額を把握されているのも情けない限りだ。

報酬をまとめながら、シエナが口をとがらせる。


「私としてはアルカちゃんにはもっと安全な“役割”をとってほしいんだけどなー。魔術系はどう?派手で配信も映えるし。師匠とか紹介できるよ?」

「魔術系は費用がなぁ……。どうしてもお金持ち、上流向けっちゅうか。一般人には厳しい額やで?」

「アルカちゃんの稼ぎならぎりぎり、行けなくも……せっかく魔力量は多そうなのに」

「シエナさんや。爪に火を点す生活のことを“行ける”と判断するのはちょっと違うと思うんやけど?」


シエナはことあるごとにこの話をしてくる。“役割”、つまり戦闘における個々人の立ち位置、戦闘傾向のことだ。

前衛で剣を主体に戦う戦士は“前衛:剣”、魔法を扱う後衛は“後衛:魔”、罠の看破・索敵などを主体とするのは“遊撃:斥”といった感じの区分けがあり、なんとこの役割、それぞれ資格制である。

新人探索者はまずこの役割を一つ取得するのがルーキー脱出の第一歩だ。


異世界で、魔法もあるのだがジョブとかスキルといった感じではないらしい。

日本でのゲームなどとの差異に思いをはせていると、どんどんシエナがヒートアップしていく。


「そうなんだよねぇ。私が教える方の資格をとれたらいいんだけど、まだちょっとかかるし……。

それでもなんで“盾”なのぉ?一番危ないでしょ!階級もどんどん上げちゃうし!“弓”とか、せめて“槍”とか“斥候”でもいいじゃない!」


そう、“前衛:盾”。最も人気がなく、その特性上最も危険な立ち位置。それが俺の唯一の役割だった。


「意地がわるいでシエナ。俺の武器の下手さ、知っとるやろ?」


なだめながら答える。俺だって最初は華麗な剣技!とか冴えわたる槍術!にあこがれたもんだったが、試しに使ってみて、その才能のなさに愕然とした。

剣を振れば刃筋が立てられず、槍を突けば明後日の方向だ。弓なんて言うまでもない。

なまじ盾の扱いに才能があった分「あ、これじゃないんだな」というのがひしひしとわかってしまったのもつらいところである。

だから、盾で隙を作って振り下ろし、当てさえすれば仕事をしてくれるメイスを武器にしているわけで。


「う~。意地悪で言ってるわけじゃないけど!」


もどかしいとばかりに地団駄を踏むシエナに苦笑しながら、盾使いのいいところも告げていく。


「それに“盾”は数が少ないやろ。臨時メンバーに選ばれる機会も増えて、稼ぎやすいんよ。」


希少かつ需要が高いとなると、それだけ儲けの機会も増える。事実、俺が探索者として生活できる程稼げている理由の一つがそれである。


「まぁ、そういう側面もあるけどさぁ……。なんで数が少ないかも考えてほしいなぁ!」


ため息交じりにシエナが愚痴る。実際、盾役の死亡率はほかの役割と比べ非常に高い。

攻撃を一手に受けるのが“役割”だ。事故率が高いのは推して知るべしだろう。


「それに、ちゃんと固定のパーティーを組んでっていつも言ってるでしょ。配信OKのところも結構あるよ?」

「パーティーなぁ」

「そそ、これ見てよ。ぜぇんぶアルカちゃん宛てのスカウト」


ズラリと書類が受付に広げられる。

駆け出しのペーペーから、俺でも名前を知っている中堅まで幅広い。


貴重な盾職、そして、何より見た目が美少女だ。必然的に引く手あまたである。うっはうはだ。


実際、同じ相手と組んで仕事をするのは非常にメリットが多い。

戦闘の連携も磨かれ、より危険な仕事なんかも受けやすくなっていく。


「あ、これとこれとこれはダメ―。あ、ここも評判悪いからダメ」


シエナがいくつかの書類を片付ける。


『鋼鉄の結束』「全員、前衛:盾!集え、盾マニア!」

――いや、バランス悪!


『暁の灯火』「暁閨神の教えに共に帰依しませんか?改宗受付中」

――いや、怖いわ!


『疾風ナイトフィーバー』「初心者も女の子も大歓迎!活動は週1、ゆるいダンジョン探索と、毎週末の飲み会!お仕事も紹介可能!」

――いや、これ絶対ヤリサーやろ!


《エターナルラブ探索隊》「活動条件:必ずペアで参加。仲良くなったら即結婚を前提に!」

――……???逆になんで探索者を名乗れとるんやこれ。


次々とスカウトの書類が消えていく。よく言えば多様。悪く言えば混沌としている。

明らかにヤバめのもの以外にも、ぱっと見普通そうなやつも次々と没になっていく。


「あー、と。シエナさん?どういう基準なんでしょうか?」

「宗教はダメ。あと結婚前提はダメ。あと盾しかいないのは……趣味が偏りすぎてダメ。……で、最後に言っとくけど――男だけはダメ。」

「それだけで、半分以上アウトやんけ!」


そう言い切ったシエナは手を止め、仕方ないなぁとでも言わんばかりの態度で俺に言う。


「アルカちゃんは何回言っても無防備なところがあるからね!狼の群れに飛び込んでいくのはお姉さんが許しませーん!」

「そ、そんなことないわ。……それに、誰がお姉さんやねん!」


苦し紛れにそうつぶやく。

やれやれと言わんばかりに肩をすくめ選別作業に戻ったシエナが恨めしい。


くっそ!実際何度か問題を起こした身としては反論できない!


過去のやらかしが脳裏をよぎる。

近すぎた距離、うかつな接触、不用意な笑顔。

――今の自分の見た目を理解できていなさすぎるが故の数々の失敗。

思い出したくない思い出が羞恥をあおる。


――もうちょっとうまく立ち回れるようにならないとこの身体に申し訳ない気すらしてくる。


ぺらりと手元にあった1枚をめくる


《永遠の友人》「入団時に“友情刻印”を授与!一生友達!死んでも友達!」

――……これ合法か?日本だったら通報案件やろ


「はい、狂人の集団もダメ」

「まともなんはないんか?」

「残ってるのは大丈夫なところだよ」


受付の上、随分減ってしまったリストに目を通す。

さっきまでの怪しげものとは異なり、内容は纏められ、随分とまともそうだ。


『月華の乙女団』全員女子/有望株/新進気鋭/配信:可。むしろ推奨。

『風来の翼』男女混合/中堅手前/地元中心に高い評価/配信:要相談

『潮騒の夢』男女混合/新人/全員地元出身/配信:何それおいしいの?

 等々


駆け出し~中堅手前、それも女の子が多いパーティーばかり。


「ほら、こことかどう?『幻獣の園』!獣人系の女の子だけのパーティーなんだけど、品行方正・将来有望で配信可!それにリーダーがなんと龍人って噂が――」


――ちょっとだけ、心が揺れる。意識が空想に飛んでいく。


未来ある若い仲間との冒険、安定した稼ぎ、笑い合う姿。そうして少しずつ、でも確実に成り上がっていく。

配信もきっと一人でやるよりも、華やかになるだろう。

……まぁ、俺のボロが倍速でバレるかもしれないが、それもネタにできそうだ。


――けど、無理だな


いやぁ!だって俺、三十路のおっさんなんよなぁ!


狐耳と尻尾でごまかしながら若者集団、それも女子多めに混ざるおっさん。


「――あかん、犯罪や」

「え?どうしたのアルカちゃん」


何でもないと答え、心の中で涙を流しながら。シエナには軽く返す。


「まぁ、ソロが気楽でええんよ。ほら、配信もええ感じに映えるやろ?」


へらへらと小言を回避しつつ硬貨を回収する。


「……気楽を優先して、亡くなった探索者も多いよ?」

「……ひぃ」

「はぁ……」


納得していませんけど!と言わんばかりのため息。

ごめんね!難しいことはおいおい考えるから!

現実から目を逸らすように、受付に背を向けた。


「探索者様。探索者協会一同、またのご利用をお待ちしております。」

凛とした声に、自然と背筋が伸びる。


これが、ギャップ……!


格好つけて手のひらをひらひらと振って逃げるように協会を後にした。


次の目的地へと足を運ぶ。


楽しい精算タイムはここまで。

次に向かうのは、笑えない相手のところだ。


「……胃が痛い。」


ため息をひとつ。

身を危険にさらして、乗り越えて、稼ぐ。少し重くなった財布が、異世界になじめている証のようだった。


◆◆◆


ヴァルクには、探索者向けの施設が多数ある。

ここ、バストン盾術道場もその一つだ。平たく言うと盾の使い方を教えてくれる教室、といったところだろうか。

異世界で俺が生き残る技術をくれたこの道場だが――今日の空気はいつにも増して、張り詰めていた。

師匠は俺から月謝を受け取るなり、適当に隅に放り「盾を見せろ」とだけ言った。

そして、差し出された盾を静かに、まるで儀式かのような手つきで受け取った。

何も言わず、盾の表面をゆっくり指でなぞる。

師匠はいつも寡黙だが、今日はその沈黙が、いつも以上に重く感じられた。


「……また、やったな」


低い声でそう呟くと、さらに盾の傷をなぞり、一つ一つ内容を指摘してくる。


「――この傷は棍棒。今回の相手はゴブリン、だな?……お前、また“受け”だけで満足したな」


思わず耳が伏せてしまう。尻尾もまるで隠れるかのように、しゅんと小さくなっているのを感じる。


盾についた傷を見ただけで、何と戦った、どんな攻撃を受けた、そしてどうやって防いだかまで見抜かれる。

――言いつけを破って“楽”をしたこともバレてる!


「し、師匠!いうても今回もノーダメやったで!傷一つ負ってへん!全部受け止めて――」

「……。」


師匠は何も言わず、ただ俺をじっと見る。その視線が、何よりも痛かった。


「はい。すんません……」


師匠の名前は、バストン――かつて“不倒”と呼ばれた幻銀級の盾使い。

巨漢でもなく、男にしては小柄な細身の男。しかし、その腕にかかれば、どんな攻撃も一歩も通さない“本物”だった――らしい。

本人に聞いたら、めちゃくちゃいやそうな顔をするが。


「……アルカ」

「ひゃい」

「我が流派は“流し”と“止め”、その両方の振れ幅にこそ真髄がある。相手の一撃を楽に受けるな。壁のごとく完全に受け止め、風のように完全に受け流せ。」


師匠に師事してしばらく。幾度となく言われてきた流派の極意。

――受け流しと受け止めを織り交ぜ、相手の虚をつく。盾一枚で相手をコントロールしきる攻めの盾術。


それが師匠の盾術だ。


――頭では理解している。

しかし、本番になると、受け止める方向に流れてしまう。なまじ身体強化で相手より力で上回れる分、その傾向が顕著だった。


ぐるぐると俺が考え込んでいるのを見て、師匠はため息をつきながら諫める。


「はぁ……。良いか、お前には天賦がある。類まれなセンス、柔軟な肉体、強力な身体強化。だが、同時に持っていないものがある。」


俺の目をしっかりと見据え、言い含めるように刻むように師匠は続けた。

「……そうだ、大きな体だ。儂と同じくな。ある程度は無茶も通せようが、受けきれない格上と当たったら――返って来るのは盾だけになるぞ。」


そう告げながら、師匠は俺に盾を返した。手の中のいつもの盾が何倍にも重く感じられる。

ぞわり、背筋に悪寒が走る。

日本での生活で出てくる“死”とは違う、あまりにも身近すぎる死の機会。

師匠は明確なビジョンを持って、俺がこのままでは死ぬと告げていた。

耳が痛い。ペタンと伏せ、情けなさが増していた。


「……今日も稽古をつけてやる。構えろ」

「……わかりました。ほな、お願いします。」


手早く荷物を道場の隅にまとめ、盾を持って師匠の前に立つ。

道場の土の床。ここで何度、ぶったたかれてきただろうか。


「……まずは基本からだ。1本目、受け!」


いつにも増して、気迫のこもった師匠の声。

踏み込んできた師匠の木剣が容赦なく振るわれる。


その一撃を盾で受け止め――次の瞬間には俺は地面に転がっていた。


◆◆◆


小一時間しばかれ続けた。


「……もっと肘を締めろ。盾は振るな、回すな。“受け”でも“流し”でも、最初の一歩を間違えるな」

「ひゃい」


低い声が耳に刺さる。時間は短めだったが、気合いが乗っていたこともあり、すっかり疲労困憊である。


「……多少は良くなったな。だが、楽する癖が抜けていない。常に意識しろ、アルカ」

……わかっとる……つもりなんやけどな。


頭で分かってることと体で染み込むことは違う。

何度も同じ注意を受けては、反省して、それでも次の戦いでは楽な方に頼ってしまう。


「……今日はここまでだ――死ぬなよ」

その言葉だけを残して、師匠は背を向ける。

小柄な背中が不思議と巨大な壁に見えた。


後ろ姿に頭を下げ、荷物をまとめる。道場の門を出ると、太陽はすでに中天を回っていた。

汗ばんだ体を潮風が柔らかく冷やす。


予定外の訓練だったが、まだ時間は残っている。


次は――使い魔の修理か。

大きな出費に頭が痛くなるが、あれがないと配信が続けられない。


行きつけの魔導具店のことを思い出し、少し足取りが重くなる。

サービスも良く、結構無理も聞いてくれる良店だ。だが――

とにかく怪しいのだ。それも悪い意味で。


とはいっても世話になっているし、背に腹は代えられない。

よし、と気合を一つ入れ、目的地である魔導具店へ足を向けた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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