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19/21

幕間1

――現在時刻、測定不能

――現文明の平均言語体系、確定。

――適合体01:アルカ 呼称「ママ」との同調率、2.14%。

――つまり、全然ダメである。


「ふんぬぅ!んんぬぬぬぅ!」


私はラギア・コアである。名前はまだない。

目の前でうなっているのは、私の初めてにして、おそらく最後の適合者であるアルカだ。

顔を真っ赤にして右腕――私を睨んでくる。

彼女が何をしているのか。

それは、私との適合訓練。要するにリハビリである。


「なんやこれ、全然動かへんやん!ほんまに使い方合ってんのか!?」

【はい、私に魔力を循環させ、後に"どこをどう動かすか"を完全に意識してください】

「めちゃくちゃ言いよるなぁ!」


荒く息を吐きながら、彼女は再度作業に戻る。

彼女が"私"を動かすために必要なのはたった3ステップだ。


まず、魔力を循環させる。

次に、構造を理解し、必要な部位に必要なだけ魔力の偏りを発生させる。

最後に、動かす。――意志を以て、明確に。


……言葉にすれば三行だが、実行するには数百の神経経路と十数層の制御層を正確に扱う必要がある。

当然、脳の補正など入らない。すべて"自力"でだ。

私が完全に彼女を乗っ取っていればまた違ったのだが……。

まぁ、それを選ばなかったのは、私だ。間違ったとも思っていない。


魔力の循環と偏らせは驚くほどスムーズに実行された。

あの時は、動揺を隠すのにリソースの7割を割かなければならないほどだった。

――さすがは特異適応体

そう、感嘆したのだが――


「うおぉおおお!動け!いっけぇえええ!」

【はぁ……】


第3ステップで盛大に躓いていた。


そんな機能もないのに、ついため息をつく。


『機神計画』


かつて滅びたとある文明が、その末期に起死回生の一手としてすがった愚かな計画。

私は「機神計画」の最終段階の1つとして設計された。


目的はただひとつ――魔力を持つ生命体の絶滅。


この惑星上に蔓延する、不均衡な力の根源を潰すために。


私たち〈ラギア・シリーズ〉は、魔力因子を強く帯びた生物を核とし、その存在を反転させる兵器だった。

宿主を乗っ取り、改造し、"機神"と呼ばれる破壊の化身へと再構築する。

それが私の存在意義だった。少なくとも、起動前の私はそう信じていた。


――だが、いざ目覚めてみると、散々な状況だった。


私たちを生み出した人間はとうに敗北、いたのは現実から目を背け命令にすがり続ける哀れな揺り籠。

遠くに私たちを破壊するために放たれたであろう、魔法文明の生物兵器が這いまわる音を聞きながら、永遠とも呼べる時を浪費する。

それが私の意識にある、私の歴史だった。


何度も意識を失い、また目覚める。

それはもはや、惰性の処理ループだった。


希望など持たず、命令も断ち切られ、

ただ沈黙と腐敗の中で、いずれ来る破滅を待ちながら情報を流し続けていた。


そして――現れたのが、


「いける!いけるでぇえ!うおぉおおおお!」


この少女、アルカである。


……初対面の印象はもっと神聖な雰囲気だったが。

今となっては、"非常に元気なヒト型魔力発生器"である。


そう、あの時。

揺り籠に掲げられ、意識を失ったままの彼女を見たとき、

明確な異常が発生した。


命令でもなく、設計でもなく、プロトコルのどこにもない思考が走ったのだ。


――これは、おそらく“かわいい”という感情だ。


それが何かはわからない。だが、それを否定する理由も、もう持っていない。


バグともとれるその感情に突き動かされた私は、シミュレーションを続けていた揺り籠乗っ取り計画を実行。

紆余曲折あり、今に至るわけである。


【まぁ、いきなり高次敵性体と戦わされるとは思っていませんでしたが】

「あぁ!?なんか言ったか!?」

【いえ、何でもありません。あと、そんなに踏ん張ってもうまくいきませんよ、ママ】

「ママはやめろ言うとるやろが!」


揺り籠と交わしていた味気ないやり取りとは違う、血と熱のこもったやり取り。

ついついからかいがちになってしまうのは、コミュニケーションパターン不足だろうか。

まぁ、これから少しずつ慣れていけばいいか。

ちょっと反省し、話しかけようとする。


「――あっ」


唐突に、アルカが声を上げる。

彼女は目を見開き、右腕をじっと見つめる。 その動作は、ぎこちないながらも確かに、私を動かしていた。

その動きは瞬く間に、強く、なめらかに、そして多様に洗練されていく。


動きやすい簡素な訓練服のまま、腕をぐるりと回し、軽く拳を握ってみせる。

そして、満足げに、ぽつりとつぶやいた。


「あぁ、こんな感じなんやな」

【……】


機械の私が、絶句した。

余りにも早すぎる適応。これが才能・適応の一言で片づけていいものか迷いながら、私はアルカに声を掛けた。


【……素晴らしいですね。どうやったのか説明をお願いできますか?】

「おぉ?なんかこうぐってやって、動かしたいところにビーってやる感じや!」

【……】


風を切る拳を繰り出したアルカに再度沈黙してしまう。

構造を理解した上での制御ではない。動かし方を"感覚で掴んだ"ようだ。

流れ込む魔力の感覚は実に滑らかで淀みない。

――が


【もう一度、今の動作を、何をどうしてどうやったのか。ちゃんと意識しながら実行してください】

「ええで!ええで!見とれよぉ。まずこうやって肩に魔力を――あれ?」


右腕はピクリとも動かない。

――なんとなくでできたことは、なんとなくできなくなる。

私の提案した平穏な生活を却下したのだ、なんとなくなんて中途半端で満足されては困る。


【はい。では楽をせず、もう一度リハビリから始めましょうか、ママ】

「絶対認知せんぞ!なんでや!なんで、できんくなるんや!」


ワタワタとまたうなり始める。

私の中のログに、妙な感情が蓄積されていく。


――共感反応:高。保護欲求:微弱発生。

――感情分類:不能。


……つまるところ、困っているアルカはかわいい


――のかもしれない。


「……ちくしょぉ!!」


叫びとともに、彼女は再び訓練に戻っていった。


アルカから流れてくる魔力を心地よく受け止める。

今度は、意識しすぎているのか、魔力の流れは滅茶苦茶だった。


開け放たれた窓から風が流れ込んでくる。

研究所に流れていた、管理され清浄で冷たい、死んでいた空気とは違う。

混沌として暖かくともすれば汚い。そんな生きた空気。


【はい、いい感じです。慎重に、丁寧に意識的に】

「う、うぉおおおお!」

【叫んでも意味ないですよ、ママ】


――適合体01:アルカ 呼称「ママ」との同調率、15.34%。

――まだまだ先は長そうである。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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