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15話

どうする!?どうするどうする!?

格好つけて、戦闘を始めたはいいものの、頭の中にあるのはもはやそれだけだった。

コンディションは完璧から程遠く、救援も望めない。

状況としては絶望的だ。

追い詰められた考えられるのはどう勝つかではなく、どう凌ぐかくらいしかない。


現状、唯一ともいえる希望、それは――


こいつ、確実に弱ってる!


化け物は弱っていた。体は満身創痍、スピードを担保していた下半身を失い天井トラップのダメージも抜けきっていないのだろう。

鎌の威力は見る影もなく、ボロボロの俺でも何とか流しを続けられる程度の速度。

初遭遇時のスピードもパワーも見る影もなく、駄々をこねるように両手の鎌を振り回すばかり。

本当に殺意のみでこちらに向かってきているのが分かるほどだ。


しかし――だから何だ、と現実は突きつけてくる。

どれだけ攻撃をしのいで時間を稼ぎ、隙を作りだしたとしても、ダメージを与える手段を持ち合わせていなかった。

こちらから有効な攻撃手段はなく、相手からの攻撃は弱っているとはいえ当たれば死ぬ。


決め手が全くない!


仲間がいれば、メイスがあれば、せめて右腕が使えれば、もっと攻撃手段を用意して、魔法だって無理してでも覚えに行っていれば!

今になって、無数のたらればが押し寄せてくる。


――ッ!無いものねだりしても、状況は好転変わらない!少しでも長く生き延びて何か、何か!


<<やめてやめてやめて!!もう逃げてぇ!!>><<無理!無理!見てらんないわ!>><<あぁ、神様――


鎌をいなすたびに、視界をコメントがかすめていく。

騒いでいるやつ、怒っているやつ、祈っているやつ。

唐突に目の前で始まった死地に視聴者も混乱の渦中のようだ。

冷静なのは無機質な視線を俺に向ける使い魔くらい。


化け物の鎌が振るわれる。


一合、二合。攻撃をいなす事にすべてを注ぐ


手数に押さえつけられるのを避けるように、基本的に流し、時に受け、時に回避する。

視界が狭まりそうなほどの集中。

時間が間延びしていく死線の刹那、違和感に気が付く。


『エェアァァァアアアア!』


縦振りの一撃を脚部に身体強化を集中して回避する。


おかしい。


俺の残り魔力は少ない。右腕に吸われてるせいか、サフィのポーションの効果をもってしても回復が鈍い。

節約しながらとはいえ、戦闘機動で身体強化を維持してる現状。本来なら、もうとっくに息切れしていてもおかしくない。


なのに――


むしろ魔力が、ちょっと増えてる?なんでだ?……気のせいか?いや――確かに回復しとる!


原因なんかわからない。違和感を打ち消す余裕なんてものもない。

けれど、それでも、生き残れるかもしれない――

そんな、かすかな光が心に差し込んでいた。


絶望の底に、かすかに差し込んだ光にすがる。

くじけそうになる心に踏ん張る力がわいてくる。


さらに一撃、二撃――三、四、五。再度、息を吐くようにいなし続ける。


雑な一撃を大きくはじき、距離をとる。

ジワリ、ジワリと魔力が回復していく。攻撃手段がない現状狙える作戦は一点だけだ。


睨みあった一瞬。できるだけ馬鹿にしたトーンで化け物を嗤う。


「随分と軽い鎌ですねぇ。そんなにボロボロなら、私なんか追っかけずに巣に帰っていた方が良かったんじゃないですかぁ。今なら、見逃してあげますよぅ」


化け物の顔がゆがむ。

言葉だけでなく、ニュアンスすら理解しているだろう知性に寒気が沸き起こる。


<<煽らないで!!>>

<<すっご……>>

<<なんで凌げてんの>>

<<この隙に誰かいけないの!?>>


我慢の限界に達したのか、化け物は目を血走らせ、突然地を蹴った。


『エアエエエエエアアアア!!!!』


咆哮とともに、巨体が爆発的な加速でこちらへ向かってくる。

加速しながら頭部を振り下ろし、両腕を振りかぶる――幾度となく繰り出された、こいつの必殺技

衝撃波すら起こしそうな勢いで、突進とともにその刃が振るわれた。


――来た!


半端な知性と、絶大な殺意が繰り出させる一撃。

欲しかったのは、まさにこれだ。

勢いに任せた大振りの突進横凪ぎ――こちらが、誘導した通りの動き!

いける……!


受け流し、転倒させ、逃走する。

再びその一手に、すべてを賭ける。


跳ね上がる鼓動を押さえつけながら、俺は滑るように前へ踏み込む。


瞬時に盾を構え、鎌の軌道を読み切る。その軌道上、前進と盾を使い空気の道を作るように刃をいなす――!


流した……! 逃げ――


――瞬間、背筋が泡立った。


咄嗟に振り返る――その視線の先。

化け物の体表。無数の目と口が歪む。

勝ち誇るように。こっちの動きを、すべて見透かしていたかのように。

勝った気でいた浅はかな俺を、心底楽しそうに――嗤っていた。


誘われた――!?


『ゲ、エェアァアアアア!!』


あざ笑うように、残された体幹から、もう一振り。

体が、防御、攻撃、逃走でのどれでもない。

そんな絶妙なタイミングで鎌が俺へ襲い掛かる。


防げない。

避けきれない。

死に体から次の体勢へ、切り替えるには――


間に合わない!


「――ッ!」


悲鳴すら上げる間もなく、世界がぶれる。

衝撃とともに体が宙に浮いたかと思えば、次の瞬間には壁にたたきつけられた。


骨がきしみ。肺が押し潰される。

何が起きたのか、体が認識するより早く、視界の端でコメント欄が揺れ動いていた。


<<え?アルカちゃん?>>

<<やばくない?>>

<<うそ……嘘でしょ……?>>

<<無理無理無理無理!!>>

<<……やめてやめてほんとに死なないで!!>>


意識はまだ、ある。


「っ、……いき、てる?」


正直――死んだと思った。

痛む体を引きずって起き上がる。

化け物も殺したと思っていたのか、不思議そうに――いや不機嫌そうにこちらを睨みつけていた。

じんじんと未だに衝撃の残る部位を見ると、右腕にわずかな傷跡が残っている。


偶然右腕で防ぐ形になったのだろうか。


「……硬すぎやろ、怖」


思わずつぶやく。あの一撃を受け、わずかな傷跡しかついていないってどういうことだよ。

だが、右腕のおかげで、鎌で真っ二つという事態は防げたようだ。さすがに、衝撃は殺しきれずこのざまだが。


痛む体に鞭打って、盾を構えなおす。

額に流れるのは汗だろうか、それとも血だろうか。

不意に揺れる視界とふらつく足が、ダメージをいやおうなしにつきつけてくる。

状況を理解し、沸き上がったのは自分への怒りだ。


「……ほんま、何やってんねんっ」

かすれた声で、誰にでもなく吐き捨てる。

あぁもう!完全にしてやられた!化け物に知性があることはわかってただろこのマヌケ!


『エエェ……ァァアアアア!!』


なお悪くなった状況、猛然と化け物が迫る。

残された道は、化け物の体力が尽きるのを待つくらいか。

何か手は?何かないんか!?


視線が部屋中を走る。衝撃で崩れた瓦礫、天井の割れ目、盾の金属音、血のにおい。

見落としてるものはないか?罠は?道具は?他の脱出経路は?

――ない。ない。ない。

分かったのは袋小路の現実だけ。目の前の怪物と、もう後がない自分だけというリアルだ。


そうして、起死回生の手段も思いつかないまま。再度地獄の消耗戦が始まった。


流す、流す、流す。

流す流す流す――


「ッ!」


撃ち合って何合目だろうか。流しきれず、盾に衝撃が襲い掛かる。

続けざまに、二度、三度と"いいの"をもらってしまう。

……攻撃の速度があがってる?

徐々に、だが確実にその攻撃は苛烈さを増していた。


「ッチ!」


潜り込むように攻撃を回避、わずかに稼いだ時間で化け物を観察する。

肉体を引きちぎり、満身創痍だった化け物。

相も変わらず失った下半身は内臓を引きずり、謎の液を残している。

しかし、多量の出血があったはずのその体は徐々に傷がふさがり始めていた。

裏付けるように次の刃の一撃はさらに強く、そして早くなっていっている。


「嘘やろお前……」


ちょっと前まで、確かに弱っていた。下半身も失い、大質量の天井トラップも直撃、傷だらけに息も絶え絶えで――

じゅうっと何かが焼けるような音と共に、小さな傷口がふさがっていく。

やっぱりこいつ、回復してやがる!

この期に及んでゾンビみたいなチート能力持ち!?なんだそれアホか!?バランスを考えろ!!バランスを!!


「ボスに継続回復かかってるのはクソゲーやろ!」

『アア、アアア――……エェアアアアァァア!!』


それはもはや怒声ではなかった。歓喜にも似た、飢えた獣の咆哮。

自分の優位を確信した化け物は見せつけるように両手の鎌を大きく持ち上げる。

その体。醜悪な肉塊がじくじくと膨張し、わずかな煙を上げ再生していく。


<<え、ウソでしょ……コイツ再生してない!?>><<再生持ち!?何処の上級ボスよ!?>><<ちょ、ちょっとまって、まって!>><<いや、もうこれは無理でしょ>>


コメントがざわめき始める。

一瞬見えた好機が遠のき、絶望が増していく。


「……っち!ほんっと。最悪ですねぇ。僕の考えた最強のモンスターですかぁ?趣味悪ぅ」


ひきつった笑いでそう皮肉る。

叫びだして発狂したくなる衝動を何とか抑え、盾を構えた。


<<お願い助かって!>><<祈ってる、ほんとに祈ってるから……>><<光神様でも何でもいい、誰か……!>><<お願いお願いお願いお願い――!>><<虚狐様寝てんの!?起きてぇぇぇ>>


視界の端をかすめる祈りのコメントが、雪だるま式に増えていく。

配信の向こうでは、おそらく本当に多くの視聴者が俺の心配をしてくれている。

本気で祈り、誰か助けてあげてくれ!そう思ってくれている。

だが、残念なことにその祈りは届かないようだ。


一発、神の奇跡でも起こしてくれるかと思いきや、ウチの神さんはノーリアクション。

クソ虚狐、マジで役立たずやんけ!


「ふっ!ほんと、にっ!ウチの虚狐様は、ねぼすけ、です、ねぇ!」


ネタにする余裕すら徐々に失われていく。

右足がふらつき、盾の受けが甘くなる。

関節の余裕も失われ、流しの精度も落ちていく。

化け物の刃が肩を掠め、肉が裂ける。


後どれだけ、持つのか、後どれだけ耐えたらいいのか――耐える意味はあるのか。


――ああ、これはもうだめかもしれない。


あきらめが、盾を下げさせかけたその時だった。


【魔力充填完了――ラギア・コア、起動します】



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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