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第五章 王子の疑念
王太子オーギャストは、不思議とステリアに興味を持っていた。
何故、あんなに人々に嫌われているのに王城に残っている?
何故、一度も弁明しない?
と。
そのうち彼は彼女の行動を観察し始める。
夜更けに城を抜け出すその姿。
地下への秘密の通路。
そして、戻ってきた彼女の唇に血がついている事に気が付く。
ある日、彼は尾行した。
そして、地下牢で見た光景に言葉を失う。
鎖に繋がれた黒い影。
その前に跪き、自らの血を捧げるステリア。
「……何をしている?」
ステリアは驚いたように振り返り、オーギャストを見た。
「……私はこの国を守っているだけです」
「この国を……守る?」
「でも、誰も信じてくれません……」
彼女は初めて涙を他人に見せた。