3巻 1章 5話
車が落ちた先。
元保護区、蟻地獄の群生地跡、地下道。
装甲車は飛び降り、引きずっているバンは、すごい衝撃で着地した。ドカン!ドカン!そのまま走り去って行く。
クラウンの運転したカエサルは砂の山に埋まり、上から砂の滝が白糸の様だ。穴の空いた天井から星明かりが差し、スポットライトの様に暗い巣の底を照らした。
斜めに傾いたままクラウンは声をかけた。「みんな大丈夫?ごめん、埋まっちゃった。」
「大丈夫!クラウンも大丈夫か?」ブラストは答えた。
「うん。」
「私も大丈夫。」
3人とも無事だった。
右斜め前の巣穴から、ゆっくり砂に流された観光バスが、砂山に降りてきた。
美しい地層の柱の向こうに、モンスターバギーが飛び降り、そのまま荒々しく着地し、猛スピードでバンを追いかけた。
クラウン達と観光バスの乗客らは、慌てて車の外に出た。
女性警官のパトカーは砂山をドリフトして降りて来た。クラウン達や観光バスの乗客と合流した。
「刑事のナオミよ。協力に感謝します。」目鼻立ちがくっきりした、ホットパンツ姿の黒人の女性警察は挨拶し、すぐディスプレイに話しかけた。
「観光バスの乗客と合流。その先は国境付近よ!山を越える事は許されないわ!略奪団を追うのは国境まで、」ナオミ刑事が言い終わる前に、空から大きな鳴き声が響いた。
キョーーーーン!!!
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クレイジーバギーは唸りをあげて装甲車に近づいて行く。
虎徹はワイヤーを切り落とそうと、刀に手をかけた。スノーが装甲車にシェルで突撃のタイミングを考えていた、その時。
キョーーーーン!!!
鳴き声がすぐそばで響き、天井の穴から巨大な恐竜の様な3本爪が、装甲車を踏みつけた。
ドシャーー!!バキバキバキ!
その爆砂風でクレイジーバギーから吹き飛ばされ、暗闇の砂山にスノーと虎徹は放り出された。クレイジーバギーはそのまま走り去って行く。
巨大な恐竜は、手で押さえ、巨大な口ばしで装甲車の窓を突き破り、略奪団を喰った。4人あっという間に喰われてしまった。
「シー、シー。プテラノドンみたいなやつだったな。」
「拙者も恐竜の類いに見えた。」
「おい、オレらは無事だ。略奪団は全員喰われた。これからバンの様子を見てくる。」
スノーが天井の穴を見上げて、何度か覗き込み様子を伺った。なんの音も反応も感じなかった。スノーは横転したバンに駆け寄り窓から覗くと、全員亡くなっていた。覗くスノーの背中に暗闇が押し寄せ、3本爪の斬撃が襲いかかった。虎徹が抜刀し飛び上がる。ザリッ!3本爪を斬り落とした。
ピューー!!
爪を切り落とされ、甲高い声で鳴きながら恐竜はスノーから手を引いた。再び、辺りに星明かりが戻る。
「虎徹、暗闇に隠れろ!」スノーと虎徹は柱に身を潜めた。
「おい、ここやべー奴いんぞ。」スノーは小声で言った。
「クラウン殿、何者かわかるか?」虎徹が聞いた。
クラウンは食い入る様にログを見てぶつぶつ言っている。「グリフィンでもない、、バジリスクでもない、、神話にもなってる、あれ、なんだっけー。えーと。」
「刑事のナオミよ。たぶんカルラ様よ。国境付近を守っているの。バッタの群生相を越境させない為にいるけど、実際は何でも食べるわ。弱肉強食令もあるし、隣国の守神には手出しできないから、応援もここまでは来れないわ。自力でここを抜けるしかないわね。一度、合流しましょう。」
ナオミ刑事の指示した合流地点に向かう。
クラウンはブラストに話しかけた。
「襲ってくるけど手出し無用って無理ゲーじゃん。」
「マジ無理。」ブラストは不貞腐れている。
「ちょっとお二人!そんなにすたすた先を行かないで下さい。私達はディスプレイを持っていないんです。貴方方の鎧のわずかな光が頼りなんです。」観光バスの乗客の中年男性が訴えた。
「え?ディスプレイも持たずに観光?」クラウン達は驚いた。
「いいえ、私達は難民です。住んでいた地域が紛争に巻き込まれて、叔父の観光バス会社の車でなんとか逃げ延びてきました。襲われるなんて。」難民の女性は肩を落として言った。
「難民を受け入れてる、緑豊かなコロニーが北東にあると聞いて来たんです。」他の難民達も話だした。
「残念ながら、その噂のコロニーはもう無いわ。バッタの大群に食い荒らされ、略奪団にコロニーは焼き払われたの。」ナオミ刑事は悲しい顔で話した。
難民達はざわついた。
「静かに、静かに一回落ち着いて。この先、二手に別れて進もうと思う。」クラウンはマップをみながら別れ道の前で足を止めた。
「待って、合流するまでは一緒にいて。守りきれないわ。それに、ここは元保護区。最近、蟻地獄の目撃情報もあるし、砂の違法採掘で地盤沈下も進んでいる危ない所なのよ。」ナオミ刑事は真剣な顔で言った。
「昼間に僕らでそのはぐれ蟻地獄は保護したから、もういないよ。合流するまで二手に別れた方が生存率高くなるよ。」クラウンが話し終わると、ナオミ刑事は納得した顔でマップを出し、東の山道に抜けるルートを指し、周辺情報を教えてくれた。
ナオミ刑事とクラウン、ブラスト、ハニはチーム分けを話し合った。
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クラウンの赤い光を先頭に、難民、後方にナオミ刑事のチーム。
ブラストの青い光を先頭に、難民、ハニ、警察ロボチーム。
逃げ場のない別れ道の先、クラウンはカルラの気を引くため構えた。「ロージー!」バン!クラウンの放った火の玉に、カルラの3本爪は空振りした。
「ブラスト行って!」クラウンが合図した。
クラウンはロージーを撃つ。バン!
口ばしも空振りし、カルラは地団駄を踏んだ。地響き、砂煙が舞う。
ブラストチームは穴の下を駆け抜けた。
「OK!みんな渡れたよ。」ブラストのコール。
ナオミ刑事の顔から笑みがこぼれる。
ナオミ刑事はパトカーを操作。パトランプが付き、サイレンを大音量で鳴らした。カルラは砂埃をあげて、パトカーの落下地点に向かって行った。
「今だ!全員走れ!」ナオミ刑事のコール。
クラウンチームもブラストチームも合流地点まで全力で走った。
スノーと虎徹も合流し、みな無事に合流地点で会えた。
スノーとクラウンがハグした瞬間。
ドシャーン!バキバキ!
キェーーー!
サイレンが止み、カルラはパトカーを大破した様だ。再会の喜びは一瞬で恐怖に静まり、地下道にカルラの鳴き声が響いた。
「ふー。合流できたわね。」ナオミ刑事は安堵の表情だ。
「あの!バンに乗ってたみんなは?」難民の女性がスノーと虎徹に向かって質問した。
スノーは首を横に振ってから静かに答えた。
「バンの人達は全員亡くなっていた。」
難民達は涙を流し、肩を抱き合い、悲しんだ。
悲しみの中、クラウンはマップをみつめて、逃げるルートを探し続けている。
バスの運転をしていた観光会社の社長は、みなを励まし、まずはここを出る事に集中しようと、なだめた。
みなも、荷物を抱えて立ち上がる。スノー、虎徹、ハニは難民の荷物を背負った。
観光バス会社の社長はスノー達にお礼を言った。
スノーはなんて声をかければいいか迷いながら言葉を選んだ。「バスの運転、うまいですね。おかげでみなさん生き残れた。行きましょう。」
社長はスノーと虎徹の背中に軽くポンポンと手を添えて、うなずいた。
また穴の空いた天井が続く道。
クラウンは2つ先の穴に向かってロージーを撃つも、カルラは一番近い穴から3本爪で地面を探る。
クラウンはフレイヤを呼び出した。
火の塊から炎の女神が現れた。
難民達は不思議そうにフレイヤを見た。
「フレイヤ、なるべく僕らからカルラ様を遠ざけて。」
「ふふふ、遊んできてやるよ!」なぜかフレイヤは笑いながら飛んでいった。
「よう!私の方が素早く飛べるな!」フレイヤはカルラの頭上で煽った。
「ふはははー。」フレイヤは3本爪の斬撃をかわし、夜空を泳ぐ様にバク転、斜め回転しながらカルラと天高く登って行く。
クラウン達は一斉に天井の穴を1つ、2つ、3つ駆け抜けた。山道と繋がった洞窟に逃げ込む。
カルラは口から眩い光を放ち、穴の空いた砂漠にむかって迦楼羅炎を放った。
フレイヤは迦楼羅炎に飲み込まれ消えた。ゴウゴウと天井から炎が波の様に押し寄せた。
ブラストは最後方に駆け出しショックウェーブを放った。
バゴーン!ガラガラ。
すぐそばの柱が崩落し、石の壁となった。
クラウン、スノー、虎徹は難民達、ハニ、ナオミ刑事を奥に逃し、みなを無事に守りきった。
ナオミ刑事は全員の無事を確認している。
クラウンはマップを見て言った。「はあ、はあ、この先の、山道にでたら、救助呼んでいいんだよね?」
「ええ。2時間くらいで行けると思うわ。今から出口付近に救助を呼ぶつもりよ。」
「待って。一回、休憩しよ。傷の手当したりさ、朝になったら救助を呼ぼうよ。」
「なんで今からだとダメなの?」
「ルートマップで見たら洞窟の途中で岩壁を渡ったり、外に出る道があったよ。荷物もあるし、夜中に20人以上は危ない。で、明るくなったら、山の中伏にでる崖があるから、そこに出て、救助を呼べば、みんな安全、安心。」クラウンは呼吸を整えながら話した。
「ふむ。いい読みね。ここ広いし、そうしましょ。皆さん!しばらく休憩しましょう。連絡してくるわ。」ナオミ刑事はクラウンにウィンクした。
みなで傷の手当てをしていると、飢えと疲れで老人や子供がぐったりしはじめた。
ブラストがポケットから昼間のパンケーキを取り出し、ジップ袋を開け、差し出した。「これ、こげてるけど、今日焼いたやつだから、良かったらいりますか?」
老人と子供は焦げた所をちぎり取りながら、美味しい、美味しいと一口ごとに言って食べた。
「これ、良かったら僕のもどうぞ。」クラウンも焦げたパンケーキを夫婦に渡した。夫婦は見つめ合ってにっこりした。
スノーもポケットを探った。「あとでゴーストにやるつもりだったけど、もしこんなんでも良ければ。」
ハニは立ち上がってキョロキョロしている。
男性達も喜んで焦げたパンケーキを受け取り、虎徹は何もいわずに、横で見ていた女性達に手渡した。みな嫌な顔をせず受け取ってくれた。
ハニは腰に手を当てて独り言。「複雑な気分よ。」
ナオミ刑事はなんとなく察して笑った。
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難民はとりあえずの飢えをしのぎ、疲れきって眠った。
ナオミ刑事とギルドメンバーはそれぞれに連絡をした。
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朝日が昇る。
ナオミ刑事が声をかけ、出発した。
40分ほど薄明かりが差す洞窟を上に、上に登っていき、出口の崖から森が見えた。
子供達は笑みを浮かべ出口に走った。クラウンとブラストも一緒に走って外に出た。一面の森、朝もや、朝日、美しい自然が広がる。
クラウン達はハイタッチして、ヴァルが大型のヘリで向かってくる方向を指差した。
大人達も崖の外に出て来て、絶景を眺めた。クラウンは振り返った瞬間、全身がビクーッ!ビックリして体が硬直した。
出口の上の起伏にカルラがいる。
ヒー!キャー!みな悲鳴をあげて驚いた。
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続く。
絵:クサビ