3巻 1章 4話
「こんなノリだらけの場所、ヴァルがいないと不安だよ。」クラウンは夜の砂漠とは思えない、カラフルなネオンを見て言った。
「ヴァルは何回も来てるから。今日は蟻地獄とか保護生物の世話する日で忙しいんだよ。」ブラストが入場ゲートで、もらった半額クーポンをスキャンした。
ーネオサンドシティにようこそ!ー
「ハニ、ギルドスーツ置いてきたのか?あれ?そのロゴ。」ゲートをくぐりスノーが言った。
「そう!スノーの皮パンとベルトのブランドかっこよくて、レディース買ったんだ。」ハニは身体をねじって、ヒップのロゴを見せた。
ハニは黒のダメージパンツのインナーに編みタイツ、ブラトップでヘソ出し。メッシュの長袖インナーにキャップ、全身黒のコーディネートだ。
「今日のハニかっこいいじゃん。スーツ砂抜きできた?」ブラストはきいた。
「すんごい砂でたよ。みんなもやった方がいいよ。遊びモードに気持ちも切り替えられるよ!」ハニは解放された様に言った。
「拙者もこの様な所なら、着替えてくれば良かった。竪琴の男がいる噴水広場はこっちだな。」虎徹は案内看板を指した。
ブラストはクラウンの横でミュージシャン、パフォーマー、DJ、アートピースを見つけては、はしゃいでいる。
噴水から水が吹き出し、レーザーの美しい光と水がダンスをしている。
噴水をぐるっと周ると、正面のステージ側ではたくさんの観光客が歓声を上げている。
数分間の噴水ショーが終わり、ステージに笛、タブラ、竪琴を持ったミュージシャンが上がり、スノーと虎徹は手を振った。竪琴の男は手を胸に当て、スノー達に向かって一礼した。
20分間の演奏にみな癒された。ギルドのみなはチップを入れにステージに近づいた。
竪琴の男は駆け寄った。「ササ!来てくれたんですね!」
「ササ!みんなで夜遊びに来た。シシッ。」
みなも挨拶した。
「もう色々回りました?」
「いや、これからゲームエリアにみんなで行こうって話しただけで、なんかオススメある?」
「ゲームも面白いですが、クレイジーバギーもオススメです。そこに友人がいるから紹介します。まだワンステージあるから、後で寄って下さい。」
「演奏良かった。な、シシッ!」スノーは虎徹を見た。
「これまでの事が蘇り、しばしの間なごんだ。有難う。」虎徹が言い終わると、竪琴の男は嬉しそうに握手した。
みな手を振ってゲームエリアに向かった。
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ゾンビの館のゲームから、VRゴーグルと銃型のコントローラーを返却してみな出てきた。
「あー!あとちょっとで全クリーっ!惜しかったー。」ブラストはクラウンにもたれかかった。
「ごめーん、ラスボスにテンパってスペシャルウェポン全部前半につかっちゃったー。」ハニは笑いながらも悔しそうだ。
「拙者は手榴弾を使いきれず、最後に全部投げてしまえば良かった。」虎徹は真面目に反省している。
「まだ他のゲームしてるだろ?オレ達、クレイジーバギーに行ってくるから、1時間後にゲートで合流な。」スノーと虎徹はクレイジーバギーに向かった。
「次はカメレオンとアイテム探しのジャングルクルーズに行こうよ!」クラウンはやりたいゲームがたくさんあって嬉しそうだ。クラウン、ブラスト、ハニは次のゲームに向かった。
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クレイジーバギーエリア。
荒野砂漠のコースでは小さな山や大きなバンク、様々なジャンプ台をパワフルなバギーが荒々しく駆け回っている。火山のジャンプ台は両端から火柱があがったり、恐竜の口に飛び込むトンネルなどギミックもある。
「お?これも半額で借りられるのか。アリガテー。」スノーはクレイジーバギーを2台レンタルし、2人は砂漠での運転のコツをどんどん掴んでいった。
40分後。アナウンスが流れた。
「お呼び出しを致します。7号車様、8号車様、クレイジーバギーのロビーにお越し下さい。」
クレイジーバギーのパワフルさに夢中になっていた2人はロビーに向かった。
竪琴の男が飲み物を4つトレーで運んでいるのを見かけ、声をかけた。
竪琴の男はクレイジーバギーの経営者の友人を紹介してくれた。色々話を聞くと地元でも顔が広い様だ。大変な環境下でも地元愛を感じる話にスノーと虎徹は感心した。
その時、パトカーのサイレンが近づいてくるのが聞こえ、クレイジーバギーのコースの外を見ると、パトカーと大型車が数台カーチェイスしている。
スノーと虎徹は立ち上がって見た。「虎徹、行こう。」「スノー殿、車のキーはハニ殿が。」
スノーはディスプレイを出してクラウン達に応援要請を出した。クラウン達のログを見ると、たくさんのカメレオン達とニューレコードの記念撮影をしていた。
「兄ちゃん達、そのバギー乗って行って良いよ。」クレイジーバギーのオーナーは言った。
「マジっすか?!ありがとうございます!」スノーと虎徹は感謝した。
すぐクラウンからコールが来た。
「スノー、こっちはサイレン聞こえないけど、カエサルでゲート前に向かうから待ってて!」
「クラウン!3人で応援要請に直で行ってくれ。オレ達はクレイジーバギーで追う。」
「うん、わかった!」クラウンは返事した。
火山が火柱を上げる。コースを飛び出したスノーと虎徹、夜の砂漠にフルスロットルで追跡に向かった。
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追跡する2台のパトカーが見えてきた。サイレンと同じくらいの音量でド派手な音楽も聞こえてくる。観光バスに装甲車が何度も体当たりしている。バスは避けたり、車体が飛ばされない様にピッタリ車体を押し付けグラグラしながら走る。
もう一台、観光バスに付き添ったバンの回りを、バギーが2台で威嚇している。女達はお揃いの白のハイレグスーツに白いニーハイブーツだ。だんだん北上しながら、東に向かって追い詰め始めた。
スノー達のヘッドライトがパトカーを照らした。パトカーからコール。
「このまま刺激しすぎない様に追跡!先頭のパトカーはロボです。このまま援護をお願いします!」女性警官は力強い声で言った。
「了解!」「了解!」スノーと虎徹は返事した。
装甲車とバスの間に入ろうと、警察ロボを乗せたパトカーが接近。
バギーの女達がアサルトライフルを撃ちながら、パトカーを攻撃。
スノーと虎徹は、バギーの女達を挟みこんだ瞬間、飛び蹴りで女達を蹴り飛ばした。そのまま女達が乗っていたバギーに飛び乗り、お互いのクレイジーバギーに入れ替わる様に飛び乗った。
警察ロボは逮捕に向かい、砂の上でのたうつ女達をテイザーアームで拾い上げ、捕獲ボックスに回収した。
装甲車がバスに車体を当てて右側に押し出しながら走る。
女性警官が乗ったパトカーは先頭を走る2台のSUVの前に雷弾を発射したが、円すい形に窪んだ砂の中に落ち、吸い込まれていった。
元保護区エリアに入った。
右側からカエサルが現れた。
ハニがコール。
「応援に来ました。クラウン、昼間の地形を思い出して運転して。ブラスト手伝って!」
「ハニ、スーツ着てないんだから危ないよ!」クラウンは緊張してハンドルを握った。
「スーツ着てなくてもギルドだから!ブラスト、後ろの砲台にファイバーネット詰めて。」
ハニはテキパキと武器BOXからRPG弾を出して装填した。
ハニとブラストはカエサルの後ろから砲台に出た。ハニは構えて装甲車に向かってRPG弾を撃ち込んだ。シュバーン!!
ドパーン!
装甲車は側面を撃たれ、よろよろとひるんだ隙に、バスは右に逸れながら距離をとった。
1台のSUVが発砲しながらカエサルに近づいてくる。クラウンは銃撃をかわしながら、蟻地獄の巣に落ちない様にハンドルを切る。
「ブラスト、撃てー!」ハニが叫ぶと、ブラストはSUVに砲台を向け発射した。
ドン!!
シュバーン!ゴトゴトゴト。
ファイバーネットで捕らえられたSUVはハンドル制御できなくなり、蟻地獄の巣に落ちた。警察ロボを乗せたパトカーは追いかけ、雷弾を打ち込んだ。
「至急、追加の応援をお願いします!雷弾を受けた黒のSUVを確保して下さい。現在、元保護区を北上中。このまま追跡を続けます。」女性警官はさらに応援要請を出し、観光バスを追う。
「オレと虎徹で先頭のSUVにアタックする!行くぞ!」SUVに近づくと発砲してきた。スノーと虎徹はSUVの真後ろに隠れ、スノーは銃撃が止んだ瞬間に砂の起伏を利用してSUVの屋根に乗る大ジャンプをした。モンスターバギーの大きなタイヤは屋根をぐしゃぐしゃにして降りた。すかさず、虎徹もジャンプして屋根にダイブ、SUVの屋根はへこみ、完全に潰れた。
「いい感じ!バギーはそのまま離れてー!ブラスト撃てー!」ハニはしっかりした声で言った。ブラストは砲台を向けて発射し、命中させた。SUVは派手に横転し、反撃はなかった。
観光バスは装甲車から離れて行く。
元保護区の蟻地獄の群生地跡を走る。
装甲車は観光バスを追うのをやめて、付き添いのバンに向かって発砲した。バンのフロントグリルに銛とワイヤーのついた狩猟砲を撃ち込み、バンを引いたまま強引に走り出した。
ハニはRPGを撃った。シュバーン!!装甲車の足元に当たり、減速した。爆風で蟻地獄のもろくなっていた巣は崩れ落ちた。装甲車は急ハンドルで方向を変え、巣穴に突っ込んで行く。装甲車に引っ張られバンも一緒に落ちて行った。
「ハニ!ブラスト!戻って!追いかける!」クラウンは2人が車内に戻るとハンドルを切って蟻地獄の巣の大きく空いた穴に突撃して行った。
観光バスも蟻地獄の別の巣に落ち、ゆっくり沈んで行く。
スノー、虎徹、そして女性警官のパトカーもクラウンの跡を追い、砂漠に広がる無数の暗闇、蟻地獄の巣の穴に消えた。
夜空にケンタウリb、cが明るく照らした砂漠に静けさが広がった。
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続く。
絵:クサビ