3巻 1章 3話
スノーと虎徹、ゴーストはカエサルに乗って、噴水広場に来た。
到着の連絡をして待っていると、依頼主が来た。カラフルな服装の若い男で、黒い肌に白い歯が爽やかだ。挨拶を交わした。
「依頼を見てくれてありがとうございます。昨日の夜、砂漠の近くでキャンプしてたら狼の群れに襲われて、竪琴を置いて来てしまいました。その時は逃げるのに必死で、朝になって探しに行ったら竪琴や食べ物、鞄も全部なくなっていました。探して欲しい竪琴はこれです。」
男はディスプレイを出して、竪琴のログを見せた。竪琴の表面は滑らかで木目が美しく、彫刻をあしらっている。
「わざわざ依頼を出したって事は大切な竪琴なのか?」スノーは男を見た。
「死んだ父に貰った大切な竪琴なんです。みつかるまでこのオアシスから離れられない。」男は静かに力強く言った。
「形見というわけか。」虎徹はそう言って、スノーと顔を見合って納得した。
「探しに行ってこよう。キャンプした場所を教えてくれ。」スノーはディスプレイを出して、クエストを受けた。
「この辺りです。狼の遠吠えがかなりの数、聞こえたので気をつけてください。」と言い、男は険しい顔でマップをタップした。
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砂漠とサバンナの合間。
スノー達は男がキャンプしていた場所に着いた。ゴーストは狼の足跡を嗅ぎながら辿って行く。何かを引きずった跡も複数同じ方向に伸びていた。
ゴーストを先頭に10分ほど歩いて追跡すると、ヤギやガゼルが喰われた残骸が残っていた。
ゴーストがクゥーン、クゥーンと鳴き、スノーの前でウロウロ回り出した。小さな山に狼の巣穴を見つけた。ゴーストは両耳をペタっと下げた。
スノーと虎徹はゴーストを撫でた。「大丈夫だゴースト。シシッ!時々ビビリになるんだよな。」「珍しい。確かに狼の群れは恐ろしいな。スノー殿どうする?」虎徹はスノーに聞いた。
「オレらで取ってくるから、虎徹は巣穴の前で車で待っててくれるか?」
「承知した。」虎徹は返事し、みなで車を取りに戻った。
車は巣穴の見えるギリギリ近くまで進む。
狼達は警戒して吠え始めた。
ワオーン!ワオーーン!
バウ!バウ!
ガルルルル。
「けっこーいるな。シシッ。行ってくる!」
スノーは車のドアを開けて出ると、狼達は身構え、さらに吠えまくった。
「シェル!ゴースト来いっ。」スノーは岩肌になり両手を広げた。ゴーストは耳を下げたままスノーにすっと近づいた。スノーはゴーストを抱えてドシドシ坂道を上がり巣穴に入っていった。
「ちょっとお邪魔しますよー。」狼達はスノーの尻や太ももに牙を剥き飛びかかるが、石肌のスノーに歯が立たない。
ガブガブ。
ガジガジ。
狼も食らいつき、スノーは狼を引きずったまま巣穴の奥に進む。
「あった。フリーズ!」スノーはゴーストのパワーを使った。狼達はスローモーションになり、身動きが取れない。スノーは狼の間をよけて竪琴を拾い上げた。スノーの体の硬化は時間切れとなり、岩や土がボトボト落ち始めた。
「オエー。とんでもない物が山ほどあるな。」スノーは巣穴から出た。
虎徹が車の扉を開けた。
「スノー殿、あったか?」
「歯形がついてるけど、ちゃんとあったぞ!」スノーが坂道を下り始めた時、スローモーションの効果が切れた。狼の群れが一斉に巣穴から追いかけて来た。
「虎徹、車出して!」スノーは駆け寄り、竪琴とゴーストを先に車の中に入れ、車のステップに足をかけてグリップを掴んだ。車はドアを開けたまま走り出す。
狼達は牙を剥き出し、次々に飛びかかってくる。虎徹は狼達をひき殺さない様に、ハンドルを大きくきって、ドリフトターンした。
砂埃が舞う中、スノーは足で狼を制しながら、ゴーストも車内に入ってこられない様に吠えて威嚇した。車はそのまま走り出し、スノーは扉を閉め、カエサルの大砲の側に立ち、砂漠を走った。
狼達を無事に撒いた。
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オアシス噴水広場。
「ありがとう!ありがとう!父の竪琴を取り戻してくれて。あー、歯形がくっきり。う、獣臭も強烈。」
スノーと虎徹はうなずいて笑った。
スノーはログを見せて言った。「ここから拾い上げたから綺麗にしてやってくれ。」
「おう!おう!これはすごいな。これ以上はみたくないや。サインさせて。」男は焦った。
スノーはディスプレイを出してサインをもらった。
「竪琴のお礼に、さっきの砂漠がここでしょ。その先の砂漠はサンドウィンドサーフィンやクレイジーバギーで遊べるから夜でも楽しいよ。友達が経営してるから半額クーポンあげるよ。ここでも竪琴の演奏してるから。」
「ありがとう!」「かたじけない。」男とハグして別れ、スノー達はキャンプ場に向かった。
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オアシスのキャンプ場。
ハニが煮込み料理を作っている。クラウンとブラスト、ヴァルはお菓子を食べてゲームしている。ゴーストが走って来て、チョコと嬉しそうにクルクル回った。
「おかえり〜。どうだった?」ハニはお玉を振った。
「余裕ー。シシッ。」スノーはハニにログを見せた。「きゃっ!」
クラウン達が集まって見ようとするとハニはディスプレイを閉じた。「もう〜食事前にやめてよー。グロ過ぎ。」
クラウン達はスノー達に「何?何?」と嬉しそうに聞いた。
「指輪の付いたままの手とか、襲われた残骸の山がいくつもな。」
「ちょっとスノー!みんなも、もうすぐご飯できるからお菓子も終わり!はい、テーブルの用意してっ。」ハニは仕切った。
「はーい。」みな返事をして手を洗い、夕食のセッティングを始めた。
ハニはトマトと豆のスープや、サラダとフルーツをカットして皿に並べ、茹でたマカロニパスタにソースを絡めた。
みなで大皿を回し、よそって食べた。
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翌朝。
クラウンの小屋の前でヴァルはチョコを応援している。
「チョコちゃん良い子ですね〜。立派なのが出ましたよ〜。よ〜しよしよし。」ヴァルはカラカラになったトノサマレッドサバクトビバッタを容器に入れて、チョコをなでて喜んだ。チョコもしっぽを振って喜んだ。
「初めて会った時も保管してたねー。」クラウンは、はみが木しながらヴァルを見た。
「ペットロボが食べるって事は色んなエネルギーに変換できるって事なんだけど、まだ研究の結果がでないらしいんだ。群れのリーダーを捕まえるの難しいから、チョコちゃんは賢いですね〜。」チョコは仰向けでクネクネ体をよじった。ヴァルは嬉しそうになでた。
ブラストは昨日ハニが作ったトマトのスープに、ライスと溶き卵を入れて朝ごはんを作った。
みなで朝食を食べているとラジオからニュースが流れた。
「オアシス地区で狼の群れの大量殺害がありました。犯人らは狼数頭と巣の中の金品を狙った様です。地元の警察はゴールデンウルフを狙った密猟者達を追っています。近隣のみなさんは外出の際には十分にお気をつけて下さい。」
「む?まさか昨日の狼か?」虎徹は眉をひそめた。
スノーはご飯をかきこみテーブルにボウルを置いた。「虎徹、昨日の依頼主に会いに行くか?」
「そうだな。皆よいか?」虎徹はみなを見て言った。
クラウン達は快諾した。
スノー達は一足先にでて、クラウン達はフィールドワークの準備をし、後から合流する事にした。
スノーが依頼主に連絡すると、男は噴水広場にカラフルな服で現れた。
「ササ!ニュース見ましたか?」男は気まずそうな顔をした。
「ササ。そうだ。狼達は酷い目に遭った。心当たりはあるか?」スノーは言った。
「いいえ。聞いて下さい。竪琴が戻って来たのが嬉しくて、その話を竪琴の修理屋、夜はバーで友人に自慢してしまった。それだけです。私は捕まりますか?」
「いや。話しただけなら大丈夫だろう。その話を密猟者が知る機会があったんだろ。」スノーはディスプレイを出した虎徹を見た。
「今し方、ギルドの犯罪専門家からメッセージが来た。警察に行って話してくる。今の話もさせてもらうぞ。警察からの連絡にも協力できそうか?」虎徹は男を見た。
「もちろんだよ。ふー。」男は大きく息を吐いた。
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警察署。
スノー、虎徹、ゴーストが署内の部屋で待っていると刑事と警察官が数人来た。
「ようこそ。来て下さり感謝申し上げます。刑事のイノセントです。」礼儀正しい黒人男性達。
スノーと虎徹はログを見ながら事情を話した。
イノセント刑事は電子タバコを吸いながら話し始めた。「異星から来たなら、知らないかもしれないが、昔からここらを牛耳ってる一家がいる。最近じゃ、テロリストを抱き込んだり、密猟者と取引したり、略奪団を引き連れたり、頭同士が一家と繋がって凶悪化してきてる。」
「んー。ならず者が集まって凶暴化。バッタの群生相みたいだな。」スノーは相槌して言った。
「バッタと同じくらいタチが悪い。この辺一帯はズタボロだ。巣穴に手首がたくさんあったろ?なんでかわかるか?」
「喰いちぎった痕でなく、綺麗に切り落とされていたな。」虎徹は考えながら呟いた。
「まさにそれだ。最近の略奪団は盗むのが面倒になったら、切り落としたり、殺して奪っている。それを持ってうろついている所を、血の匂いを嗅ぎつけられて狼達に奪われたり、殺されたり、遺体と宝飾品の山の完成だ。」
「あれはやべーな。」スノーは虎徹を見てうなずいた。
「君達ギルドに選択権があるのは知っている。ここに滞在する間、どこかで犯罪を見かけたら、可能な限り協力して欲しい。実績報酬になってすまないが、どうだろう?」
イノセント刑事はまっすぐ2人を見た。
「虎徹、やるよな?」
「異論なし。」
イノセント刑事は分厚くて暖かみのある手を伸ばし握手した。
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車に戻ったスノー達はクラウン達の元へ向かう。
車中、メタルやハードロックを聴きながら、砂漠を北上中。
スノーはディスプレイでクラウンと会話している。
「シシッ。簡単に言うとだな、この一帯やばい一家がいるってゆー話。」
「へえー。どこもそんなんばっかだね。」クラウンはフィールドワーク先で米粉のパンケーキをひっくり返した。
「うまそうだな。」虎徹の顔がほころんだ。
「私達も焼いてるよー。」ハニとブラストも一緒に作っている。
「ハニが下手でさー、何回やっても焦がし、、」ブラストが割り込み、ハニが手で押し除けた。
「じゃ、パンケーキ焼いて待ってるよー。」クラウンは手を振ってディスプレイを閉じた。
「クラウン、上手じゃないか!」
「ウルド博士!ササー。」
ウルド博士は嬉しそうに積み重なったパンケーキを見た。
「ブラスト、ちょっといいかな?」
ブラストは手を拭き、ウルド博士の元に立った。
「クラウンのアイデアも面白いし、ブラストの発明もいけると思う。予算どれくらいとれるか相談してから、また返事するから協力してくれるね?君達が何より楽しそうで嬉しいよ。砂漠できつい仕事だからね。」
「ウルド博士、オレ、調達も得意なんで、欲しい機材とかあったらリスト下さい。無いものは作ります。」ブラストは目を輝かせて言った。
「ほんとかい?助かるよ!ありがとう!春の産卵期後でバッタの駆除が大変な時期なんだ。梅雨前が勝負だから、よろしく頼むよ。ヴァルの友人達は心強いな!」ブラストはウルド博士とガッチリ握手した。
「ブラストー。僕さー、ご飯食べたらハニと珍獣ログ撮りに行っていい?」
「いいよ。オレここで博士に頼まれたの作ってる。」
「あー!クラウン、ハニ、昆虫保護のクエストもよろしくね!」ウルド博士はクラウンとハニともガッチリ握手した。
「ウルド博士、蟻地獄は捕まえたらヴァルに渡せばいいの?」クラウンはたずねた。
「そうだね。そのまま出発した方が蟻地獄に負担が掛からなくていいね。ヴァルがいれば研究もはかどるよ。」
パンケーキを食べながら、クラウンは珍獣の情報をウルド博士にたくさん教わった。
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「じゃ、ヴァル、捕まえたらコールするね。」クラウンは手を振って、ハニが運転するキャンピングカーで出発した。チョコはクラウンの膝の上に乗り、窓から顔を出した。ヴァルは手を振って見送った。
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クラウンはオルタナティブロックをかけて、ワクワクした。
視界の先が砂漠一面になっていく。
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「クラウン起きて。着いたよ。」ハニに声をかけられ、クラウンは目覚めた。
「着いた?うーん、はあ。運転ありがとう。」クラウンは伸びをして目を覚ました。
クラウンはマップを見ながら、砂漠の上を歩く。足が深く沈み、滑らかだ。
「あー、足重い〜。もうギリまで来てるけどー。」
「うかつに巣にも入れないよね。」ハニは横に少し逸れて歩き出す。
「ハニそっち、砂の粒の大きさが違う。危ない。」クラウンが慌てて声をかけた。
「うわっ。本当だ。ここから罠が始まってる。見て、あれ。」ハニは一面の砂漠の所々に、砂の粒の大きさが違う円すい形をいくつか指さした。
「うわー、結構あるな。でっかー。あそこの間だったら歩けるかなー?」
「間も狭い所は危なそうじゃない?」ハニは振り返った。
2人と1匹の足元の砂がサラサラと後ろの方へ、引き潮の様に流れて行く。
「来た、来た、来たー。ハニこっち。」クラウンは小声で、ハニの手を引いて砂山に身を潜めた。
クラウンはヴァルにコールした。
「ヴァル、こっち来て。蟻地獄出た。」
「了解〜。どんくらい?」
クラウンとハニの上に影ができ、砂から蟻地獄が現れた。
「5mくらい砂から見えてるから、全部で7〜8mかなー。」
「ほうっ!大型で向かいま〜す。5分くらいで着くから、足取られんなよ〜。」ヴァルは上機嫌でコールを切った。
「最高。」クラウンは趣味のログを撮り始めた。「ハニ、撮るよ。」ハニは怯えながらもポーズを取った。
「すごいの撮れた。」クラウンはハニに見せた。ハニは喜んだ。
束の間、蟻地獄が砂に潜って行った。「あー。潜っちゃった。」ハニは残念がった。
「これ見て。」クラウンはポーチの中を探した。
「いい香りのジェル。」スーパーでハニが欲しがったいい香りのボディーソープの小瓶を取り出した。
「えー?私に?」ハニはニヤけた。
「違うよ。これで誘き寄せるんだ。ハニが使ったら、蟻地獄に狙われるよ。」
「うう。」ハニは身震いした。
クラウンは紐にハンドタオルを丸めて縛り、ヴァルが来るのを待った。
「あ、ヘリ来た。」クラウンは立ち上がって、ジェルをたっぷり塗って、ハンドタオルを円すいに向かって投げた。
ジェルに砂がくっついて下に転がり、紐が伸びて行く。
砂が流れ始めた。
蟻地獄がすぐそばの円すいから現れた。
「来たー!ハニ出番です。」クラウンは紐を手繰り寄せた。
ハニは笑いながら構えた。「出番ですって何?ふふ。タクシス!」
蟻地獄は黄緑色に包まれ、砂から少しずつ引きずり出された。
大型の捕獲ヘリからロープ降下で檻に乗ったヴァルが降りて来た。
「ナ〜イス!スピリット。」ヴァルがいい声で構えた。
蟻地獄の目は紫色のグラデーションになり、自らゲージに入り眠った。
「お疲れっ!」ハニとクラウンとヴァルはハイタッチした。
「このまま保護センターに送って、僕そのまま研究チーム手伝うから。またよろしくね。」ヴァルはロープ上昇して行った。
「ハニ、これ残りいる?ヴァルには内緒ね。あと、フィールドワークの日はマジで使わない方が安全だよ。」クラウンは小瓶をハニに差し出した。
「ありがとう!」ハニは受け取り、飛び跳ねる様に砂の上を歩いた。
⭐️
続く。
絵:クサビ
参考文献
『バッタを倒しにアフリカへ』
前野ウルド浩太郎
光文社新書
ジョーです。
蝗害、バッタやフィールドワークの参考にした本です。思わず声を出して笑ってしまう面白い本です。すごい博士です。表紙から違います。グリーンのバッタが目印です。ちなみにこちらの本は研究中の執筆です。その後が最近発売されております。2匹のバッタが目印です。興味ある方はぜひ。