3巻 1章 2話
「おーい!クラウン!」ブラストは叫んだ。
スノー達もテントから駆け出して来た。ヴァルはクラウンが居た辺りにしゃがみ、乾いた地面をじっとみた。
「さらわれてるね。たぶん琥珀蟻に。」ヴァルは5cmほどの蟻の大群の跡を指差した。
「え?蟻?」みな動揺した。
「あ!そこ、でっかい蟻がキャンディー運んでる。」ハニは飴を運ぶ蟻を見つけた。蜜で膨れたお尻は琥珀色に透き通り10cmほどに大きさになっている。
琥珀蟻の跡をつけてみると、700m先の木陰にクラウンの小屋はそのままあった。その下は琥珀蟻の巣になっていた。
スノーが呼びかけたが反応がない。慌てて小屋を開けると、クラウンとチョコは目覚めた。飴の瓶のフタが開いて、レモンキャンディーが溢れていた。敷物の上にはレモンキャンディーを運ぶ琥珀蟻の行列が忙しくしている。
クラウンは飴に群がった蟻に驚き、外に出てさらに驚いた。クラウンは飴の瓶をきちんと閉めた。
みなクスクスしながら、小屋を担いでキャンプ場に戻った。
「このまま朝食にすっか?シシッ。」スノーが朝食を作る準備を始めた。
ヴァルはモナコを誘いにテントを訪れた。
「ササ!モナコさん、朝食も一緒にどう?」
反応は無く、耳を澄ませても寝息も聞こえない。テントの隅が少し開いていたので、ヴァルは悪いと思いつつも、無事か気になって覗いた。中は荒らされ、血飛沫が見えた。
「モナコさん!」ヴァルがジップを開けるとテントの中にモナコはいなかった。
ヴァルはディスプレイを出しコールした。
「誰かモナコさん見た?さらわれてる!」
「また?蟻に?」ブラストが答えた。
「キャンプ場の受付に聞いて来る。」ハニも答えた。
「ハニ頼む。モナコさんのテントが荒らされてて、血もついてる。蟻じゃなさそう。辺りを警戒して。」ヴァルは警戒した。
「僕、探すの得意だから、ハニが戻ってきたら探しに行こう。みんなも戻って来て。」クラウンは答えた。
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みなワッペンを合わせた。
クラウンはフレイヤを呼び出した。
「フレイヤ!モナコさんを探して!」
フレイヤは朝日に高く登り、一回転し東に向かって飛んで行った。
「ナイトメア!」クラウンはチョコを抱えて、サバンナに現れた黒馬ナイトメアに跨り、追いかけた。
虎徹はギルドのヘルメットを装着しバイクのエンジンをかけ、クラウンを追った。
ハニのカエサルにみなも乗り込み、後を追いかけた。
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フレイヤの検索範囲はクラウンのレベルアップに伴い拡大していた。
高く飛んだフレイヤは直線で80km先のモナコの居場所を制限時間内に探しあてた。
みなのマップにも反映され、サバンナの岩場の朽ちた遺跡にマーキングポイントがついた。
丘をいくつか越えて、1時間半で岩場の陰に着いた。
クラウンはチョコのイカロスを使った。マーキングポイントが8つついた。スノーはマップでモナコの位置を確認し、作戦を立てた。
朽ちた遺跡の入り口にオスのライオンを連れたアードウルフが槍を持って見張っている。
ヴァルが草陰に身を潜め構えた。「スピリット」
ライオンの目の色が紫のグラデーションに変わり、横にいるアードウルフに襲いかかった。ライオンの唸り声を聞いた2人が駆け寄り慌てて槍を構えた。ヴァルが念じるとライオンはサバンナに走って逃げ出した。
朽ちた遺跡に屋根は無く、半分しか残っていない2階の下が日陰になっている。襲われたアードウルフは血を流し、2人に抱えられ、朽ちた遺跡の1階の日陰に寝かされ手当を受けた。
みな静かに草むらを進むと、木の檻に3匹のライオンがいた。オス1匹にメスが2匹。虎徹は草むらからジャンプし、一瞬で木の檻の扉を刀で斬った。虎徹はすかさず草むらに姿を隠した。
ライオン達は檻から出て、手当をしている3人に後ろから飛びかかった。
グルァー!グルル。ボアー!グルル。
ひっかき、噛みつき、3匹は暴れてサバンナに逃げ出した。遺跡の奥から、怒号が響いた。
「ライオン逃したやつはお前か!!」
「ちが、ちがう!檻が壊れてて襲われたんだ。」3人とも痛々しい姿で首を振った。
「檻を修理しとけよ!今日引き渡しだったんだぞ!」
傷だらけの3人は檻の修理を言いつけられ、指揮官らしき男は号令をかけた。
「集まれ!集まれ!麻酔銃持って来い!」男は木の棒で遺跡の壁を叩いた。コンコンコン!
「逃げたライオン捕まえてこい。水場にゾウの子供が来るから、ライオンが無理ならゾウの子供だ!トラックに入るやつ狙えよ!」
チーム分けをしている様子を見て、スノーがみなに声をかけた。「集まってる今がチャンスだ。作戦インパクト行くぞ。」
みなうなずき、遺跡の壁際まで身を潜めて進んだ。スノーがカウトダウンした。「3、2、1、GO!」
一斉に草むらから立ち上がり、パワーを発動と同時にジャンプした。みなの体が輝き、8つの炎の岩の塊となって弾け飛んだ。
ボガーン!!
8人は炎の岩の塊をくらい、ふっとんで倒れた。
「ホーウ!吹っ飛んだ〜。」ヴァルは仰向けで手足を伸ばし、身にまとった土を崩して立ち上がった。
スノーも立ち上がり土を払って、ヴァルとハイタッチした。
犬達もぶるぶるっと身を振って、嬉しそうにしっぽを振り、モナコがいる2階に駆け上がった。クラウンとブラストも追いかけた。
スノーは気絶して倒れた男達にスリープスタンプを押し、虎徹とヴァルは男達を拘束した。
ハニは警察ロボを呼び出しログに残すと、捉えた男達は密猟者とテロリストだった。モナコを追いかけ回していたアードウルフはテロリストだった。
モナコは2階の檻の隅で状況がわからず怯えていた。檻に犬達が駆け寄り、モナコは驚いた。「どうしてここに?私を探しに来てくれたのですか?」モナコは檻越しに犬達を撫でた。
クラウンとブラストが朽ちた階段を駆け登った。「モナコさん!」
「嗚呼、何度も助けて頂きありがとうございます!さっき揉め事が起きた後にとんでもない爆発音がして、外は大丈夫ですか?」モナコは嬉しさと動揺で早口でしゃべった。
「僕らが爆発してやっつけたから、もう大丈夫。檻の奥までモナコさん下がって。」クラウンは説明しながら構えた。
「え?皆さんが爆発??」クラウンの説明がモナコを困惑させた。
クラウンは困惑したモナコに当たらない様に構えた。「ロージー!」バン!横から檻の扉に火の玉を当てて扉を吹き飛ばした。
パチパチパチ!モナコは檻の奥でしゃがんだまま拍手した。「これはすごい!そして綺麗な薔薇の様に炎が散って、嗚呼儚い。」
鼻血の痕が痛々しいモナコに、ブラストは手を差し伸べ、無事に救出した。
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下に降りたモナコは倒れて眠っているテロリスト達をみて、再び背筋がゾクゾクした。
警察ロボが来るまでの2時間、サバンナで過ごすのは危険なエリアの為、朽ちた遺跡で待つ事にした。
モナコは徐々に落ち着きを取り戻した。
ブラストがモナコに声をかけた。
「モナコさんって有名人なんですか?テロリストに狙われてたから。」
「有名人かわかりませんが、私は美食家です。宇宙中の美味しい物を食べ歩いて旅をしています。ログもやっています。」モナコはディスプレイを出し、これまで食べ歩いた美味しい物を見せてくれた。
ギルドのみなも興味津々でログを見た。
日が登り気温も上がって来た。
クラウンは美味しそうなログを見てお腹がすき、みなにレモンキャンディーを配った。
「あれ?それ!クラウンさん、キャンディーボトルを見せて下さい。」クラウンはモナコに飴の瓶を渡した。
「限定品ですよね?初めて本物見ました。無限キャンディーは味も美味しいんですね!ありがとうございます!」モナコはクラウンに飴の瓶を返した。
「うん。旅の途中で手に入れたんだ。」クラウンはこぼして少なくなった飴のふたをガリガリ回して、飴が増える所をモナコに見せた。モナコは感動した。
「実はついさっきクラウンもさらわれてたんすよ。蟻に家ごと巣まで連れていかれて、ははっ。」ブラストは思い出し笑いをした。
「クラウンさんも?!」驚くモナコにブラストはログを見せた。
「なんと!琥珀蟻ではないですか?!どこで??」モナコの勢いに、今度はブラストが驚いた。
「私はこれを食べたくてここまで来たんです。」モナコの発言にみなも驚いた。
「ちっちゃい子は甘いから捕まえて、食べる事もあるけど、これが好きな大人もいるんだ〜。」ヴァルは笑った。
「後で場所を教えて下さい!琥珀蟻の巣の奥に琥珀糖があるはずです。本で見ただけですが、それはもう甘露と。独特のシャリシャリ感を一度味わってみたいのです!」浮かれるモナコを見てたスノーは話しかけた。「帰りに巣まで送りますよ。」
「ありがとうございます!」モナコは喜んでスノーに抱きついた。
ヴァルは喜ぶモナコにアドバイスした。「モナコさん、有料だけど警察ロボをレンタルした方が身のためだよ。僕、クーポン券持ってるから使って。またテロリストに狙われない様にさ。それに動物に襲われた時には中に入って身を守れるから。」
「連れて歩くのは恥ずかしかったのですが、サバンナでは人目を気にせずすみますし、レンタルします。」モナコは素直にアドバイスを受け入れた。ヴァルは笑顔でうなずき、クーポン券を使って、警察ロボをメトロポリタンのキャンプ場まで手配した。
クラウン達の旅のログを見たモナコはみなと各星の美食トークを楽しんだ。
警察ロボは時間通りに到着し、拘束した密猟者とテロリスト達を連行した。
「片付いたね。さ、琥珀蟻の所まで行きましょう。」ハニはみなを車に乗せ走り出し、虎徹はバイクで追いかけた。
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琥珀蟻の巣。
モナコは、器用に蟻の巣穴をその辺の棒でほじり、琥珀糖を探し当てた。モナコはギルドのみなに琥珀糖を食べさせた。外はシャリシャリ、中はトロッ、甘さが体の疲れを癒した。モナコも自分の口に運び悶絶した。「んんー!!甘露。」
琥珀蟻の横穴を掘り進めると、茶色の琥珀糖が輝いている。モナコはひとつ掴んで食べた。「アールグレイティー味!んんーー!」
みなも手が自然と伸びた。
シャリシャリ、カリカリ。
カリポリカリポリ。
みな自然と笑顔になった。
「美味しい。どうしてアールグレイティーの味がするの?」ハニはうっとりした顔でモナコに聞いた。
「それはですね、今日のクラウンさんの様に誰かが紅茶飴を落としてしまったのかもしれませんね。今日落としたレモンキャンディーが、来月には蟻の働きで味付きの宝石になるでしょう。食べ尽くしては申し訳ない。土を上から優しく被せて下さい。」
「僕、メロンソーダ味のフレーバーを持ってるよ。それもできるの?」クラウンは目を輝かせた。
「そうですね!色んなフレーバーを与えて、カラフルな食べれる宝石として紹介されたログを見ました。」
ハニは琥珀糖を両手に集めた。
虹色の鳥が飛んで来て、ハニの手首に止まった。
クラウンはログをたくさん撮った。ハニは嬉しそうに、虹色の鳥とポーズを決めた。「ライラックニシブッポウソウ」という、レア生物の様だ。虹色の鳥はハニの手から琥珀糖をひとつ咥えて飛び立った。
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キャンプ場。
キャンプ場に戻ると、受付に警察ロボが到着していた。モナコはギルドのみなにお礼を述べ、お互いの旅の安全を祈った。
テントに戻り、スノーはハムエッグ丼を作った。みな完食し、サバンナへフィールドワークに向かった。
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メトロポリタンのキャンプ場から100km先にあるベースキャンプを目指して走る。ヴァルに研究者の仲間からバッタの大群を見たと連絡が入った。
ブラストはキャンピングカーの上に、宇宙船から持ってきたアンテナを立てて、研究者達の会話を聞いている。
「ヴァル、バッタの群れは北に向かってるって。このまま進めばぶち当たると思う。」
「色は?」
「レッドだって。」
「じゃ、クラウンとブラスト、チョコで行こう!研究者達に殺虫剤の使用をやめる様に言って。」
「うーす。」ブラストは研究者達に伝言し、バッタの群れがやってくるポイントに、自家製のドローンを飛ばした。
ブラストがドローンで見つけたポイントは、突き出た岩が大きな崖になっていて、その下にキャンピングカーとカエサルを待機させた。
崖の上でクラウンとブラスト、チョコは待った。ヴァルはドローン映像や仲間の通信を伝えている。スノー、ハニ、虎徹、ゴーストは窓から外を見た。
「うわ!スゲーの来たぞ!大丈夫か?!」スノーは思わず声が出た。
真っ黒なバッタの大群が固まったり、広がったり、呪いが空を這う様に飛んで向かってくる。
「う〜。スゴ過ぎ。」ハニはバッタの塊が向かって来るのを見てゾクゾクした。
「ヤダヤダ、変な音するー。」「ヤバヤバヤバ!」「アガーッ。」クラウン、ブラスト、チョコはバッタの大群が迫り怯えた。
クラウン達の頭上に振動音を響かせ、バッタの大群が向かって来た。崖の上で構え、チョコも一斉にジャンプし、頭上に放った。
「ロージー!」「ショックウェーブ!」
プリズムが体を包み、大爆発した。
ドーン!!
バッタは炎に包まれ、火だるまになって燃えた。後に続くバッタも炎に突進していく。
火の大波が崖の上から滝の様に流れこみ、辺りに火の雨を降らせた。
シャラシャラシャラ〜!
火の雨が降る中、クラウンとブラストの姿が動いてるのが見えた。崖を滑りキャンピングカーに転がり込んだ。
うごめく炎はやがて燃え尽き、音も静かになった。みな車から出て来て外を見た。
ヴァルはこちらに向かっている研究者達に成功を伝え、研究者達は沸いた。クラウンとブラストはチョコを褒めながら撫でた。ヴァルも嬉しそうに、虫取り網を6本頼んだ。
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数十分後。
研究者達のキャンピングカーが到着した。「ササ!ヴァル君、お待たせ。すんごい大量にこんがり!虫取り網これね。」
みな軽く挨拶して、虫取り網を持ち、群れの後についてくるバッタを採取する事になった。
「網は横にふって〜。音楽をかけるよ。」ヴァルは虫取り網をギルドのみなに配り「Calm Down」をかけた。
みな一生懸命に虫取り網を振って捕まえた。
空を飛ぶ残りの小さな群れを見つけては、虎徹は飛翔を使って高く飛び上がり一網打尽にした。ゴーストはそれをトロッコで運び、走り回った。
チョコは最初に焼け落ちたバッタの群れを見つけ、こんがり焼けたトノサマレッドサバクトビバッタをばくりと食べた。焼け落ちたバッタをほうきで集めていたヴァルとクラウンは思わず声を上げた。
「チョ〜コちゃん!」
「チョコー。うまいのかー?それ。」
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羽根が焼けて、地面を歩くバッタもほうきで集め、回収作業は終わった。
とんでもない量に研究者達はログに納め、虫取り網を持って、みなで記念撮影した。
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ベースキャンプ。
ベースキャンプに到着するとオアシスと小さな街があり、清らかな地下水が湧き出ている。みな、カラフルなスポーツドリンクで喉を潤した。
ヴァルは「バッタの仕分け作業を研究者達としてくるから、のんびりしたり、ワンデイクエストだったらご自由にどうぞ〜。クエストのサインも僕がもらっとくから安心してね。」と言って研究者達の作業に加わった。
「ヴァル君、ログみたらレッドが凄まじく燃えてたね。殺虫剤をたくさん使用せずに助かったよ。ギルドのみなさん!お疲れ様でした。」研究者達は手を振った。
クラウン達は嬉しくて手を振りかえし見送った。「これからバッタ油の資源活用と研究用と、えーとっ、、」クラウンは思い出せず言葉に詰まった。
「家畜のエサな。今日のフィールドワークは終わっちまったな。何かないかクエスト見てみよ。」スノーはディスプレイを立ち上げた。
「オアシスベースキャンプのクエストあった。シシッ!取り返して欲しい物、噴水広場にいるな。誰か行くか?」
「拙者も行く。」虎徹は手を挙げた。
「僕はレア生物探して、この辺うろつきたいからパス。」クラウンは言った。
「オレはドローンとかアンテナとかメンテしてる。なんかあったら呼んで。」ブラストは残った。
「えー、私もクラウンについて行こうかな。今日は私がディナー作るから、夕方にはここに戻ってくるね。」ハニは言った。
「おしっ、ハニ車借りるぞ。オレら行ってくるな。」
スノーと虎徹を見送った。
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続く。
絵:クサビ