3巻 3章 2話
スノーは猟銃を持った男に駆け寄り、挨拶した。「ササ、今日C棟借りました。」
「おお、ササ。ギルドがこんなとこまで何しに来たんだ。」男はテンガロンハットを脱いで、パタパタ仰いだ。肩まであるシルバーの髪、デニムのウエスタンシャツ、ジーンズにカウボーイブーツを履いている。
「ポレポレというシャーマンに力を借りにきました。」
「ふーん。今日は朝から山に行ってるから昼過ぎないと帰ってこねーぞ。」
「そうすっか。ありがとうございます。」スノーはみなに軽く手を挙げた。
「おーよ。一緒にいるのは仲間か?」男も軽く手を挙げて言った。みな、離れたまま軽く会釈した。
「はい。シシッ。ここの管理人ですか?」
「そんなもんだ。俺はハンターのエイムスだ。もう行っていいぞ。」
「じゃ、失礼します。」スノーはそう言ってみなの所に戻った。
クラウンとブラストは心配した顔で言った。「何か言われた?」
「大丈夫だった?」
「シシッ。ハンターのエイムスだって。管理してるから呼び止めたんだろ。行こーぜ。」
すれ違う時、ハニと小夜はエイムスを近くで見て声が揃った。「イケオジー。」「イケオジ。」
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数十分後。
ナオミ刑事がC棟に車で到着し、荷下ろしをして、くじ引きでベッドを決めた。10名まで宿泊できるコンドミニアムは十分な広さがあり、夏のサバンナでも快適な温度で過ごせそうだ。
「え?!イケオジがいたの?後で挨拶に行こうかな〜。あはは。」ナオミ刑事の声が少し高くなった。同じ部屋を選んだハニ、小夜もキャッキャッと騒いだ。
「イケオジとは何の事だ?」虎徹は同室になったヴァルとブラストに聞いた。「イケてる叔父さんの事だよ〜。」「エイムスさんがカッコイイって事。」
「その様な事を言っていたのだな。」虎徹はみなと過ごす中で新しい言葉をたくさん覚えた。
クラウンとスノーは一緒の部屋を選び、窓辺の横の日陰が涼しい所に犬達のベッドを作ってあげた。クラウンはチョコのベッドを整えながら言った。「ポレポレさんは午後にしか戻らないんだ。チョコと探しに行ってこようか?」
「あと数時間だから、帰って来たらでいいんじゃねーか?ハンターのいる知らない山に勝手に入るのもリスキーだ。」
「そっか。じゃさーゲームしよーよ。」
「おう、次は負けねー。シシッ。」
みなコンドミニアムでくつろぎ、広いキッチンでハニとヴァルがランチを作り、ポレポレの帰りを待った。ランチから数時間後、チョコがむくっと起き上がり、クラウンにポレポレの帰宅を知らせた。
「あ、プリズム!ポレポレさん帰って来たみたい!よしよーし!行く?」クラウンはチョコをなでた。
「そうね、私一人じゃアレだから、みんなも来てよ。」ナオミ刑事は言った。
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みなでB棟を訪ねた。
ピンポーン。
ナオミ刑事はインターホンを押した。
「はあい。どなた?」若い女性の声が聞こえた。
「刑事のナオミです。ポレポレさんのお力をお借りしたくて来ました。」
扉が開いた。
そこにはスレンダーな黒人女性が、小さなアフロヘアーにウエスタンシャツ、赤茶色のサルエルパンツ姿で、驚き立っていた。
「刑事さんに、おや、ギルドの方々も。あんら、ワンちゃんまで、こっちおいで。散らかってるけど、テキトーに座って。」ポレポレは玄関にしゃがんでチョコとゴーストをなでた。
「お邪魔しますー。」ナオミ刑事に続いて、みな部屋に入った。大きな円形のリビングには、所狭しとドライフラワーや乾燥した植物、昆虫、爬虫類の瓶が棚にぎっしりならび、骨や、皮、角も色んな種類がぶら下がっている。巨大なサボテンも数種類、育てている。
「よっこいしょー!ここも座っていーよ。」木の皮や植物片をベンチからどかし、みなぎゅうぎゅうで座った。
「あなた大きいから、こっちに座りな。」ベッドの傍の床に動物の皮とクッションを並べて、スノーと犬達はそこに座り、落ち着いた。
「こんな大勢が来る事ないから、これで勘弁しておくれ。何の力を借りたいんだい?」
ナオミ刑事が今回の事件の大筋を話し、なぜシャーマンの力が必要か小夜がフォローしながら話した。
「だいたいはわかった。なるべく早い方がいいね。材料もたくさん集めなきゃならないよ。こんな大仕事を私ひとりにやらせるつもりかい?」
みなお互いの顔を見合わせた。「僕らも手伝います。」クラウンが言うと、みなもうなずいた。
「なら一緒に行こう。材料を集めたりするから、それも手伝ってもらうよ。明日の朝にまたおいで。」ポレポレはバスケットから植物の蔦をぐるぐる巻き取りながら承諾した。
挨拶をしてみな外にでた。
「手伝ってもらって悪いわね。そんなつもりで連れてきた訳じゃないんだけど、助かる。行政からクエスト出すから、お願いするわね。小夜もフォローしてくれてありがとう。おかげで話がスムーズにまとまったわ。」ナオミ刑事はクエストにサインした。
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翌朝。
ナオミ刑事は朝食後のはみが木しながら窓の外をボーッと眺めている。
窓ガラスをコンコン!とエイムスがノックしてB棟の方に指2本を揃えて指差し、ウインクして通り過ぎた。
「マジでイケオジー。」ナオミ刑事は口をすすいだ。「みんな、準備できた?行くよー!」みなでB棟のポレポレを訪ねた。
玄関ポーチの前で山積みされたバスケットをエイムスが一輪車に積んでいる。
「ササ!」ナオミ刑事が声をかけた。
エイムスは軽く手をあげた。「ササー。この中で銃使える者は?」ナオミ刑事が手をあげた。
「名前は?」エイムスが聞く。
「ナオミです。」ナオミ刑事は照れながら答えた。
「ナオミね、じゃあ俺の隣に座って。」
ナオミ刑事は喜んだ。
「弓持ってる子、名前は?」
「小夜です。」小夜も同じリアクションだ。
「小夜、ナオミの後ろに座って。」
「ギルドで飛び道具使える者はいない?」
クラウンが手をあげた。
「名前は?てか年いくつ?」エイムスが聞く。
「クラウンです。15歳です。」なぜか同じく照れていた。
「若っ!クラウンは俺の後ろに座れ。いいか、襲われたら容赦なく撃てよ。」
「え?!」クラウンは楽しいキノコ狩りくらいに考えていたので、驚いた。
エイムスはスノーに「運転頼めるか?」と聞き、スノーが「いけます!」と答えると鍵の付いたマイクロバスのキーホルダーを投げた。「他のみんなも名前教えて。」残りのみなもエイムスに自己紹介した。
ポレポレが玄関から出て来て鍵を閉めた。
「ササ。揃ってるね。ここの山には生えてないキノコだから、エイムスに護衛頼んで、取りに行くよ。準備はいいかい?」
みなバスケットなど荷物を持ってマイクロバスに乗り込み、スノーは運転席へ、横には虎徹、続いてエイムスの決めた席順に座った。クラウンの後ろにブラスト、ヴァル、小夜の後ろにハニ、ポレポレ、最後尾は犬達となった。
カーキ色のイカつい動物避けバンパーの付いた、頑丈そうなマイクロバスをスノーは一目で気に入った。
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プロテア砦を出て30分後。
エイムスが足元の銃を手に取った。
「そろそろ構えろ。スノー、農場跡の赤い看板まで止まらず走りきってくれ。俺の私有地だ、襲ってくる者は跳ね飛ばしたっていい。」
「ウッス!シシッ。」スノーはハンドルを握り直した。
ポレポレはシートベルトをきつく締め直し祈り始めた。
岩の谷間を抜けると、緩やかな登りカーブが続き、荒れ果てた農道が見えた。
ガン!ガン!
車の屋根に石か何か当たった音がする。
エイムスが窓を半分スライドして開け、銃口を出し草むらに向かって撃った。
バーン!
草むらからマダラデビルが飛び上がった。エイムスは着地する前にもう一発撃ち、マダラデビルを仕留めた。
マダラデビル族は同じアナグマ種のハニーアナグマ族より小さく俊敏で、爪には毒がある。
クラウンも窓を半分開け、草むらから大きな石を両手で持ち上げたマダラデビルに向かって撃った。
「ロージー!」バン!
クラウンより一回り小さいマダラデビルは吹っ飛んだ。
「ナーイス!ドンドン行けー!」エイムスはクラウンを鼓舞した。
マイクロバスには石や短い石槍が次々と飛んで来た。ガンガン!バキーン!
大きなカーブでマイクロバスが傾く中、小夜は片足を椅子に押し当て、石槍を構えたマダラデビル2人の肩に早撃ち連射した。
ナオミ刑事は、石のついた投げ縄を振り回して向かってくるマダラデビルの足を撃って追跡不可能にした。
エイムスがリロードしながら言った。「みんなやるねー。クラウン、あの木の根本を撃ってみろ!」
「うん、ロージー!」バン!
枯れ草が一気に燃え、マダラデビル5人が木の下の茂みから火を払いながら慌てて飛び出した。
「ハッハー!」エイムスが逃げ出すマダラデビルを見て笑った。
次の大きなカーブの岩の上から、石を結んだ投げ縄を構えた3人のマダラデビルを見つけたブラストは、窓を開け、放った。
「ショックウェーブ!」ドン!
衝撃波で、投げるはずの縄に3人とも絡まり高い岩の上から落ちていった。
「いいねー!最高。」エイムスは、にやりとしながら銃を構え、木の上から火炎瓶を投げて来たマダラデビルを撃ち落とした。
クラウンはエイムスのリロード中、坂の上から2人で油缶を転がすマダラデビルに火の玉を撃ち、油缶は大きく炎上した。
車の後ろからドン!と音がした。犬達が後方で吠えた。後ろのバンパーに体当たりして、よじ登り、石鎚を叩きつけて来たマダラデビルに、ヴァルが駆け寄った。「スピリット!」マダラデビルは白目になって目眩を起こし、地面に落ち転がり続けた。
ナオミ刑事、小夜も早撃ち、連射でマイクロバスを守った。
「スノー殿、赤い看板が見えた!」虎徹が指を差した。「オイ!地雷エリアって書いてあるぞ!」スノーが減速しながら大きな声で言った。
「嘘看板だ。そのままゲートの中まで進んで問題ない。」エイムスが銃を下ろして言った。
マイクロバスのキーホルダーがピッピッー!と鳴りゲートが開いて、マダラデビル族から逃げ切った。みな安堵の息をついた。
「その先に廃屋があるから、そこに停めてくれ。」エイムスがスノーに言った。
「ここで待ってろ。」とエイムスが外に出てフェンスの鍵を開け、スノーに入れの合図をした。
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ナオミ刑事は警察に連絡し、後処理をする事になった。
ポレポレは祈りをやめ「やれやれ。」と言いながらバスケットを持って車から降りた。
エイムスは廃屋から椅子を出し、いつもの様に座った。マイクロバスの警護をする様だ。
「エイムスさんは来ないの?」クラウンがたずねた。
「俺?もう出番は終わったから、ゆっくり散策しておいで。」エイムスはタバコに火をつけ美味そうにふかした。
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続く。
絵:クサビ




