3巻 1章 1話
サイプレス号は銀河を旅している。
サイプレス号。
クラウンの部屋。
「あ〜クラウンの部屋、懐かしい。」ヴァルはトロフィーが並ぶ棚を見ている。
「さっき言ってた本体ってどんな感じ?本人に聞くのも変かな。」クラウンはヴァルの本体がどんな感じなのか気になってドキドキした。
「それは会ってからのお楽しみだよ。ヒューマノイドをロボって言う人もいるけど、僕は僕だ。それに僕はヒューマンタイプで生まれたけど、病気してヒューマノイドになった。交渉が得意な僕はギルドになって稼いで、念願のもう一体、この体を手にいれたんだ。」
「高そー。」
「めちゃ高い。まだローン終わってないし。僕自身はグリーンプラネットを救う為、動けないから、この体は宇宙にでてギルドクエストで稼ぐのにも最高なんだ。」
「そっか。ヴァルみたいに、楽しくクエスト続けられたらいいな。」
「ノッて生きて行こ〜ぜ!」
「う、うーん。僕は考え過ぎちゃってノッてくのが苦手だよ。」
「大丈夫!」ヴァルはクラウンの背中を優しく押して言った。「ハニの部屋に行こ〜。」
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ハニの部屋。
虎徹がバイクの部品を溶接している。
「ハニの部屋は相変わらずハードだね〜。」ヴァルはガレージや武器庫みたいなハニの部屋をうろうろ。
ハニはハードBOXを空にしたり、クーラーBOXを出して、次のクエストの準備をしていた。
「あった方がいいよね?」ハニはクーラーBOXを見せた。
「サバンナで冷たい飲み物があるの最高。」ヴァルはハニにグッドサインをした。
「次、ブラストの部屋行こ〜。」ヴァルはクラウンの背中を押して連れて行く。
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ブラストの部屋。
ロックが流れ、機材の山の中からブラストは顔を出した。
「これ終わったらゲームやろうよ。」ブラストはアンテナや絡まったコード、機材を引っ張り出した。
「いいね!僕らゲームのセッティングしてるね〜。」ヴァルは馴染むのが早いというか、ずっと一緒だったみたいに溶け込むのがうまかった。
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モニターの前に飲み物やお菓子を出して、クラウン、ヴァル、スノーでゲームを始めて遊んでいると、後からブラストが来た。しばらくしてハニと虎徹も来て、6人と2匹は楽しく賑やかに過ごした。
明後日にはヴァルの故郷の星に到着する。
クラウンはログ収集したいレア動物がたくさんいる事も楽しみで、胸が高鳴った。
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「トレモロ3」
ーまもなくグリーンプラネット・ステーションに到着予定ですーサイプレス号のモニターにテロップが流れた。
陽気なレゲエがサイプレス号に流れる。
「ササ!これが挨拶だ。挨拶は大事だよ。もうグリプラが見えてるよ。」ヴァルの陽気な館内放送で、みな目覚めた。
「どこがグリーンプラネットだよ。」サイプレス号の椅子に座り、窓の外を見たブラストがつっこんだ。
黄土色の大地が広大に広がっていた。
「バッタに緑を食いつくされて、年々、被害が増して、このままじゃヤバい。みんな頼んだよ!」ヴァルは館内放送のまま返事をした。
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グリーンプラネット・ステーションに到着した。6人と2匹はドックに降り立った。
「まずは僕の待つキャピタル動植物園に向かって、買い出しもしよう。」
みな、ハニの車に乗り込んだ。ゲートを出る時に荷物チェックを通過したはずのカカオの実が全部没収されてしまった。
「そんな事、書いてた?なんで?」ハニは運転席で悲しい顔でアピールしたが没収された。虎徹はカエサルの空きスペースに積んだバイクを心配そうに眺めている。
ヴァルは隣からチップを渡したが、チップだけ取られて、カカオの実は戻って来なかった。
「チップが少なかったかな。それか、どうしても食べたかったのかもな〜。」ヴァルは全く気にしなかった。
「食糧危機の余波ね。行きましょ。」ハニはアクセルを踏み、キャピタルを目指した。
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グリーンプラネット・ステーションのある西側から南下した。
キャピタルにはオアシスを囲む大都会があり、運河を引いた周りには緑も農作物もあった。
大きなクリスタルのドームが見え、関係者入り口から中に入ると、ジャングルになっていた。川にはクルーズ船が見え、動物は放し飼いで自然な姿にみな興奮した。
キャピタル動植物園の中を進み、研究ラボの前で車を降りた。みな少し緊張して、本物のヴァルがいる扉をノックして開けた。ゴーグルを外し、コントローラを置き、儗体とそっくりのヴァルが駆け寄った。「みなよく来たね!リアルで会いたかったよ。」
みなハグをして、ここまで一緒だった儗体のヴァルはzoneに自動で入って行った。
「何ニヤけてるの?」ハニがクラウンに聞いた。
「勝手に違う感じなのかなー?って、別人を想像してたから。ははっ。」クラウンは照れ笑いした。
「オレも。シシッ。」
「拙者も。」
スノーと虎徹も続くと、ヴァルは「本物もイイ男でしょ?」と、しなやかな動きをして見せ、みな笑った。
「買い物に行こっか。フィールドワーク用にキャンピングカーも借りたから結構積めるよ。」ヴァルは話しながらギルドスーツをzoneから取り出し、着替えた。
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キャピタルの大型スーパー店内。
「粉末のスポーツドリンクあったよ。」ブラストはカラフルなパッケージを抱え、スノーが押すカートに入れた。スノーもウォータータンクをカートに積んでいる。
「これカワイイ!南国の香りだって。」ハニは嬉しそうに体を洗うジェルを持って来た。
ヴァルがカートの側で中身をチェックしている。「ハニ、これ残念だけど、いい匂い過ぎてダメだ。」
「えー。いい匂い過ぎちゃダメなの?」ハニは少し拗ねた。
「動物に匂いをたどられて、テント襲われるよ。」
「そうなの?じゃ戻してくる。無香料ならいい?」ハニはジェル売り場に戻って行った。
ドサドサドサ。
クラウンはスナック菓子やキャンディーのフレーバーの詰め替えを買い込んだ。
「シシッ。クラウンは甘い菓子好きだなー。あ!歯ブラシ買わねーと。」スノーはカートを押し歩きだす。
「歯ブラシは次のメトロポリタンでいいのがあるんだ。はみが木って木があって、歯のホワイトニングもできるのが格安であるんだよ。」ヴァルは言った。
「へー!さすがグリプラ。珍しいのがあるな。」スノーは歯磨き売り場をスルーして食材売り場に向かった。
虎徹が大袋を抱え、カートに入れた。
「シシッ。米あって良かったな。」
「拙者、久しぶりに米が食いたい。」
「僕はパスタ取って来よ〜。」ヴァルが向きを変えると、紳士がカートの中を除き込んで来た。
「貴方達はギルドの方ですか?」
スノー、虎徹、ヴァルはうなずいた。
紳士は小声で話出した。
「棚の影から見てる男、ずっと私をつけてくるんです。」
3人は紳士越しに棚を見た。
目の奥まで暗闇で、目の周りも黒い。フードを被り、腕や足はラインの入った毛並みが見える。じっとこっちを見ている。
「アードウルフ族か。何かトラブルありました?」ヴァルは紳士に聞いたが、紳士はこの国に来て初めてみる種族に戸惑っていた。
「わかりません。気がついたら、こうして立ち寄った店までつけてくるんです。あの目が怖くて。」紳士は怯えた。
「一緒に買い物、回りましょう。店の外までついて来たら声かけてみます。」ヴァルは紳士に言った。
紳士の顔がパッと明るくなった。「ありがとうございます!」
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会計を済ませると、アードウルフの男は道の向こうに停めた車に乗った。
「ありがとうございました!助かりました。」紳士はお礼を言った。
「待たれ。車で待機している。またつけられるやもしれん。」虎徹とゴーストは警戒した。
「困りました。メトロポリタンに向かう道中、交番はないエリアですよね。」紳士が肩を落として言うと、ヴァルは「僕らもメトロポリタンに向かうので、一緒に行きませんか?」と誘った。
「いいんですか?ギルドの方と一緒に旅が出来て光栄です!」紳士はローカルバスに乗って旅をしていた所だった。
「おーい!待ってよ〜。」クラウンとブラスト、ハニ、チョコが会計を済ませ、慌てて追いかけて来た。
「ん?誰?」クラウンは紳士を見た。
「モナコ・グランプリといいます。メトロポリタンまで、ご一緒させて頂きます。どうぞよろしくお願い致します。」モナコは丁寧に挨拶した。
スノーが事情を話して、みなも心配した。
ヴァルのキャンピングカーにモナコ、スノー、虎徹、ゴーストが乗り、ハニのカエサルにクラウンとブラスト、チョコが乗り、さらに南のメトロポリタンを目指した。
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赤い砂漠を越えて、サバンナに入るとバオバブの大きな幹が点々と生えている。その先に大きなクリスタルドームがいくつか見えた。メトロポリタン動植物園だ。遺跡や宮殿の跡地に動物達が生活している。ドームとの間にあるオアシスにはフラミンゴが水浴びしている。車が近づくとフラミンゴが飛び立つ様子が美しい。
メトロポリタンのドームの外にある、コンビニに到着した。
コンビニの外観はエレファントグラスという、長い植物で建てられている。
軒先の下ではエレファントグラスを編んだ敷物の上で、商人がはみが木を束ねたり、専用の削り機にセットして木の先端を細かく割っていた。
ヴァルはたくさん買うから安くしてと交渉を成功させた。みなは食材など買って店をでると、スーパーでみた車が現れた。
「モナコさん、あれ?あいつ?」ブラストがアードウルフの男を指差した。
「へ?うわ!そーです。また居るー。はあ。」モナコは大きなため息をついた。
「モナコさんもメトロポリタンでキャンプするって言うから、一緒に行こう。まだ見張ってないと。」スノーがアードウルフを睨んだ。
「皆様にまで、ご迷惑かけて、すみません。お昼ご飯くらいご馳走させて下さい。ここのダボダボバーガーは名店です。行きませんか?」モナコがランチに誘った。
「ダボダボバーガー絶品だよね〜。ラッキー!行こうよ!」ヴァルは大喜びした。
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ダボダボバーガー店内。
アードウルフの男は、モナコが見張れる所に車を停め、ダボダボバーガーをテイクアウトして食べている。
みなダボダボバーガーにかぶりつき、滴る肉汁が口いっぱいに広がり、夢中になって食べた。
「これ毎日食える。」ブラストは口の周りにソースをつけたままモナコを見た。モナコはお目当てのバーガーなのに、あまり進んでない様子だ。
ヴァルが手を拭きながら立ち上がった。「落ち着かないよね。ちょっとパワーで追っ払ってくるわ。最近アードウルフ族のテロリストや密猟者が増えてるから。」
ヴァルは店を出て、キャンピングカーに戻るふりをして、アードウルフの車の後ろに回り構えた。「スピリット。」
アードウルフの男はバーガーをボトっと落とし、真っ直ぐ前を見て車で走り去った。
ヴァルはモナコにグッドサインをして、店内に戻って来た。
「どーなったの?」クラウンは聞いた。モナコも興味深々だ。
「あのまま車でしばらく走ったら、正気に戻ると思う。本人は意味がわかんないだろうけど。」みなヴァルとグータッチした。モナコも安心してバーガーを美味しそうに食べ切り、熱心にログを残していた。
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メトロポリタンのキャンプ場。
キャンプ場で受付を済ませた。
「今日は各自テントを立てておしまい。夜はみんなでご飯作って食べよう。モナコさんも一緒にどうですか?」ヴァルはモナコを誘った。
「是非!あの、材料から察するに日本食でしょうか?」
「そーなるかな?虎徹が米食べたいって言ってたから。あ、アレルギーとかあります?」
「いえ、ないです。材料を見ただけですが、私は一度アースを旅した時に忘れられない味に出逢ったのです。肉を揚げて、卵と出汁でとじて、ご飯にかけた、あれ?名前なんだったでしょうか。思い出せなくて、嗚呼、悔しい。」
「カツ丼ですか?」虎徹がモナコに聞いた。
「そ、それです!作って頂けるのですか?!」モナコは前のめりになって虎徹に言った。
「それなら今日、カツ丼作ろうかな。」虎徹はモナコの圧に負けた。
「嗚呼、旅の途中でカツ丼に再び会えるなんて、私にも手伝わせてください。お願いします!」
「ディナーは虎徹のカツ丼?で決まり。テント建て終わったら、みんなでセッティングやろうね。」ヴァルはみなにテントの位置を指示して解散となった。
それぞれテントを建てる事になった。
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テントをそれぞれ建てた。
クラウンはエレファントグラスの囲いや屋根、敷物に座って、小さな我が家でチョコとくつろいでいた。
ヴァルが様子を見に来た。
「上手くできたね。あ!クラウン地面に腰を下ろすのは危険だよ。毒虫や毒蛇がいるからね。簡易ベッドの上で必ず寝て、夜はキャンプエリアから出ちゃダメだよ。」
ヴァルは隣のブラストのテントに向かったので、クラウンもついていった。
ブラストは三角テント、ハニはドームテントにハンモック、スノー、虎徹、ヴァルはエレファントグラスの小屋タイプとそれぞれのテントが並んだ。
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日が暮れ、虎徹が米を炊き、出汁や卵をとじた。モナコは豚肉を揚げ、虎徹のアドバイスを熱心に聞き、ログに残した。
クラウン達はテーブルの周りにランタンやキャンドルを並べた。野外での夕食は雰囲気も特別だ。
テーブルにカツ丼が並び、モナコは祈った。
顔を上げるとモナコは目を輝かせ、香りを楽しみ、器用に箸でつかみ、頬張った。
「うーーん!これ、これです!麗しのカツ丼。サクサク、じゅわじゅわがたまりません!」
モナコは感動をログに残した。
みなも夢中で食べた。
「グーッド!今までこの存在を黙っていられたなんて、虎徹、信じられないよ〜。」ヴァルはスプーンが止まらない。
虎徹はみなの食べっぷりに大満足した。
お腹いっぱい、チェアにもたれかかると、星空も綺麗に見え、嬉しさが込み上げた。
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翌朝。
ブラストは目覚め、テントから出てはみが木を使った。シャカシャカ。
「はー。朝のサバンナもキレー。見晴らし最高〜。」
シャカシャカ。「ん?」
ブラストは辺りを見回した。斜め後ろにハニのテントはある。斜め前のクラウンの小屋がない。
「いない?うそだろ。みんなー起きて!クラウンがいなくなってるー!」
ブラストは、はみが木を口からポロッと落として、クラウンを探した。
⭐️
続く。
絵:クサビ