3巻 2章 7話
『旅人の木』という宿に到着した。
宿の横に旅人の木が生えている。大きく葉が開き、巨大な扇子の様だ。旅人の木の前でみなでログを撮った。
フロントで男女1室ずつ部屋を取り、ラウンジのカフェでみな食事をした。小夜のオススメのウガリは蒸しパンに似ていて、肉や魚のおかずと一緒にお腹いっぱい食べた。夜までそれぞれの部屋で休む事にした。ハニと小夜はおしゃべりしながら、食後のティータイムを楽しんだ。
クラウン、ブラスト、ヴァルはソファーでゲームを楽しみ、スノーと虎徹はベッドで仮眠を取った。犬達も一緒に丸まって寝た。
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その夜、イノセント刑事が回収した車を届けに来てくれた。
みなクラウン達の部屋に集まった。
ブラストは車に置いてあったPCとモジュールを繋ぎ、アクセスしてみた。
イノセント刑事とブラストは相談しながら警戒して検索をする。
宇宙船スカラベはケンタウリb、c、dの吉方位ルートを周回している様だ。
また、スノーとハニがログに残したファイル名から、人身売買や武器売買のリストを見つけた。
イノセント刑事は大量の証拠が見つかって大喜びし、ブラストの手を取ってダンスした。ブラストはされるがままだったが少し嬉しそうだった。犬達もテンションが上がりベッドで飛び跳ねた。
「持ち帰って、宇宙船スカラベ捜査の作戦会議をする。君達も協力頼む。」みな力強く返事した。
「私は、、弓が使えるのここだけだから、みんなの無事を祈ってる。」小夜は小声で言った。
「そうだな。アルテミス白書の条約に従って当然だ。今回の協力にとても感謝している。今度、警察からエーデルワイス砦に礼を届ける。」イノセント刑事と小夜は握手した。
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宿のレストランでイノセント刑事が夕食をご馳走してくれた。
三角形がかわいいタジン鍋、スペシャルシーフードクスクス、バナナのフライ、ピーナッツスープとフフ、美味しい食事を囲み、一時なごみの時間を過ごした。
食後のコーヒーを飲みながらイノセント刑事は渋い顔でため息をついた。
「はあ。実際シャーマンを捕まえるとなると、呪いが、、恐ろしいな。」
「とっても勇気がいると思うわ。」小夜は頬杖をついたまま言った。
「なんだ急に、シシッ。重たい感じ出して。」スノーは椅子に座り直した。
「聞いた事ないか?シャーマンに手を出すと呪われるんだぞ。警察の誇りにかけて捕まえるがな。」イノセント刑事はコーヒーカップを両手で包んだ。
「どんな呪いなの?」クラウンは小夜に聞いた。
「部族の間での噂だけど、昔、シャーマンを追い出した村人達は叫び出して気が狂ったそうよ。」クラウンは信じられず、うすら笑いしたが、ギルドのみなはゴクっと息を飲んだ。
続けてイノセント刑事は低い声で言った。
「仲間の話では、捜査を担当していた刑事は笑いながら走って崖から飛び降りたらしい。」
クラウンの顔も引きつった。賑やかなレストランの音だけ聞こえた。
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1週間後。
警察のシャトル10隻と、ギルドのシャトル、サイプレス号で、宇宙船スカラベの逮捕に向かった。
サイプレス号のモニターでイノセント刑事と最終確認をしている。
「私達は3陣だ。数時間で到着する。作戦はさっき伝えた通り。何か質問はあるか?」イノセント刑事が聞いた。
クラウンはスノーとブラストの間に入り、モニターに近づいて聞いた。
「イノセント刑事のスペーススーツ姿、初めて見た。いっぱい首に着けてるの何ですか?」
「ん?これか?全部魔除けだ。」イノセント刑事は真面目な顔で言った。紺色のスペーススーツの上からカラフルなビーズや羽が付いたネックレスを幾つもしている。
横にいた警察官達も魔除けの大きさや効力について自慢しながら次々と見せて来た。
クラウンとブラストはクスクスしながらイノセント刑事達をログに撮った。
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数時間後。
黒く平べったい二等辺三角形の巨大な宇宙船スカラベが見えた。大型のショッピングモール程の大きさだ。
イノセント刑事から合図が来た。クラウンはチョコのイカロスを使った。マーキングポイントがたくさん付き、シャーマンも発見した。チョコからプリズムがでた。
「イノセント刑事、シャーマンもいます!」クラウンの横でチョコはくるんと回った。
「よし!作戦実行する。」イノセント刑事が力強く言った。
ーエリアを封鎖、エリアを封鎖します。これより呼びかけます。ー
早朝、警察は呼びかけた。
ーエリアを封鎖し包囲した。シャーマン、大人しく投降しろ。ー
警察の呼びかけが続き、スカラベ内のマーキングポイントは慌ただしく動きまわる。
10分後、二等辺三角形の底辺のハッチが上下に分かれて開いた。
底辺の着陸エリアには階段や着陸用の連結機器が見えるが誰もいない。しばらく様子を見守ったが、誰一人投降してこない。
偵察を終えた警察ロボからのコールが繰り返し流れた。
「武装している可能性が高い。警戒しながら進め。」
警察の1陣が階段を上がりスカラベ内に入って行く。
警察官からのコール。
「船員は武装している。地下1階で交戦中。2陣は配置につけ。」
約10分間、船員との交戦が続いた。
警察の2陣からコール。
「1階のホールを制圧した。シャッターで封鎖されたルート発見。マップに気をつけて3陣は配置につけ。」
ギルドのみなはワッペンを合わせた。
イノセント刑事達とクラウン達の3陣はスカラベに入った。
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1階ホールは制圧できたが、2階のロフトから武装した船員達の銃撃が休みなく続く。
イノセント刑事は雷弾を投げ入れ、船員達の動きを封じながら、2階の階段の側まで進んだ。
イノセント刑事からコール。
「ギルドは反対側の階段から進め。援護に付いて行け。」
警察官2人は盾を使い、身をかがめながら2階の廊下を壁沿いに歩く。クラウン達も警戒しながら続く。反対側の階段へ到着すると、警察官達は雷弾を投げ込んだ。
「うわー!」「あー!」「ぐお!」
バリバリー!
ビリビリビリ!
階段の上、すぐ近くから雷撃に苦しむ数人の声が聞こえる中、スノーが振り返って言った。
「クラウンはシャーマンから目を離すなよ。シャッターが閉まってルートが変更になったからチョコに案内させつつ、安全確認しながら進むぞ。行くぞ!」
「うん!」「うっす!」「おう!」「OK!」「OK〜!」みな気合い十分だ。
上の階が静かになった。
盾を持った警察官達が階段を上がって行く。
チョコは3階を無視して4階へ上がって行く。
警察官のコール。
「3階はシャッターで封鎖されている。シャッター前で待機。ギルドは4階へ進め。4陣配置につけ。」
4階の部屋にたどり着くと、柱や棚、コンテナの陰から武装した船員達が待ち構え、撃って来た。
マップのマーキングポイントを見ながら、クラウンとブラストはしゃがんでコンテナに身を潜めた。
船員が2人、銃を撃ちながら向かってくる。銃声が止んだ瞬間、ブラストはコンテナから顔と手を出した。
「ショックウェーブ!」
ドバーン!
銃を持っていた2人を、棚やコンテナごと吹き飛ばした。棚に隠れて居た船員があらわになり、慌てて銃を構えようとした時。
「ロージー!」
バン!
クラウンの火の玉は船員に命中した。
クラウンとブラストはコンテナに身を隠しグータッチした。
奥から3人、ショットガンを連射して近づいて来る。
スノーはクラウンと虎徹に合図してから近くのコンテナを持ち上げ、船員3人が近づいたタイミングで投げつけた。
クラウンと虎徹、チョコは壁づたいに素早く前進した。
船員3人は狭くなった場所で避けきれず、スノーの投げたコンテナが大当たりし倒れた。
ガン!ガコン。
立ち上がろうとする船員にクラウンと虎徹はパワーを放った。
「ロージー!」「飛翔!」
体がプリズムで光り、眩い炎で横一文字に斬った。立ち上がれず側にいた船員2人も炎の斬撃に吹き飛ばされ、部屋の隅に倒れた。
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部屋の奥まで進むと、大きなホールに出た。電気は消されキッチンカウンターにあるドリンクサーバーがチカチカ点灯している。部屋の入り口には食堂と書いてあり、机やイス、コンテナが多数積まれている。マップをみるとマーキングポイントが次々と向かって来ている。
イノセント刑事からコール。
「そっちに近接武器を持ったヤツらが向かってるぞ!今、応援を送る。5陣至急、4階食堂エリアに向かえ。持ち堪えろよ!」
「シシッ!雷弾頼んます!」スノーのコールに警察官達は答えた。
「了解!」
薄暗い食堂の中央でクラウンとブラスト、チョコは机を横に倒し隠れ、位置についた。
食堂の奥の左右の扉から船員達が侵入してきた。暗視ゴーグルをつけた船員は手に曲刀や槍を携え、両側から中央に近づいて来る。
机のバリケードからプリズムの光が飛び出し、辺りは輝き大爆発した。
ドカーーン!!
クラウン、ブラスト、チョコの爆発攻撃で、暗視ゴーグルの船員達は目が眩み吹き飛んだ。
2人と1匹は素早く仲間の後ろまで下がった。
左右の扉から船員が3人、入って来た。船員たちはスノーめがけて長槍を振り下ろした。
「シェル!」
バキ!ボキ!バキ!
岩肌に硬化したスノーに当たった長槍は全て折れた。
「ガルルルー!」
ゴーストが船員の足首や腕に噛みつき攻撃し、船員達は姿勢を崩した。スノーは岩の拳で船員達の頭や腹を殴打した。
曲刀を持った船員3人は虎徹に襲いかかる。
突き刺し攻撃をかわし、虎徹は船員の手首を蹴り上げた。曲刀が宙に舞った。残りの2人は曲刀を大きく振り下ろす。虎徹は高く飛び上がって宙に浮いた曲刀を掴み、振り返りながら二刀で2人斬った。
曲刀を取られた船員は腰が抜け、尻を擦りながら後退りした。虎徹は曲刀を船員の足の間に投げた。虎徹は斬り合いを続けるつもりだったが、船員は声を上げて逃げ出した。
みなが戦っている間、ヴァルは中央の扉をロックし、ハニとキッチンに入って調理ロボを発見した。クラウンとブラストも合流し、ロボに包丁やブレンダーのブレードパーツを持たせて武装を手伝い、一斉に調理ロボを送り出した。
「スピリット!」ヴァルの声で調理ロボが6台、左右の扉に分かれて進み、船員達を追いかけ、足止めに向かった。
ドンドンドン!
中央の扉から大勢の叩く音や怒鳴り声が響いた。
ドンドン!
「誰もキー持ってないのか?!」
「いーからぶっ壊せ!」
ガン!ガンガン!
ドカ!ドカ!
バキー!
片方の扉が壊された。
倒れた船員を踏み越えて、武装した船員達が雪崩込んで来た。
ハニ以外はキッチンカウンターに入って見守った。
ハニはキッチンカウンターから出て、中央の扉に向かって歩いて行く。
「タクシス!」
ハニは両手の平を大きく開いて、上下に振り続けた。
雪崩混んだ船員達は黄緑色のオーラに包まれ体が浮き、天井と床に何度も全身をぶつけた。
「うわー!」「ぎゃー!」「武器が俺の腹にー!」
警察の5陣が雷弾を持って到着したが、首を上下に数回動かし、雷弾を投げるタイミングを待った。
ハニのパワーは時間切れとなり、一斉に船員達は床に落ちた。全員気絶していた。
「食堂クリア!」警察のコール。
「よし!いいぞ!5陣はそのまま食堂の配置につけ。」イノセント刑事からコール。
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チョコはプリズムを出したまま、中央の壊れた扉の先に行きたがった。
その先は長い廊下になっている。クラウンは廊下の様子をのぞいた。
「何だろ、笑い声?聞こえない?」クラウンは耳を澄ました。
「破損した音じゃない?シューシューって音は聞こえるけど。」ハニは答えた。
「いや、拙者もうめき声なのか声が聞こえる。」虎徹も耳を澄ました。
廊下の様子を見に少し歩くと、シャッターが閉まった部屋が4つ並んでいる。
「あ!シャーマンもこっちに近づいてる!来た!」クラウンは廊下の奥を見た。犬達は吠え、みな警戒した。
突然、4部屋のシャッターが一斉に上がり、部屋の中が窓ガラス越しに見えた。人身売買の為に囚われた人々がギルドを見つけ、叫んだ。
「ここを開けてくれー!」
「お願い!ここから出して!」
大勢が窓ガラスを叩いて助けを求めた。
「ヴァル!こっちに来て!」クラウンは一つ目の部屋の前でヴァルを呼んだ。
「クラウン!次の部屋の機械のところ!シャーマンだ!」駆けつけたヴァルは指差した。
クラウンは走りながらシャーマンに放った。
「ロージー!」バン!
窓ガラスに黒いすすがついた。振り返ったシャーマンはすすの横から顔を出した。
牛の頭蓋骨の仮面をつけ、黒い皮と骨をあしらったローブに緑色の玉がついたネックレスをしている。爪のアクセサリーがついた長い人差し指で、首を横になぞってクラウンを威嚇した。
シャーマンはネックレスを千切り、機械に放り込み、スイッチを叩いて機械室から逃げた。ヴァルは2つ目の部屋に手を当ててパワーを使ったが、こちら側に扉は無かった。
囚われた人々がいる3つの部屋に、緑色の煙がシューシューと音をたて充満し、囚われた人々はうめいたり、笑い出したり、正気を失っていった。
ヴァルは悔しそうに後退りした。その時、ブザーが鳴り、3つの部屋の扉が開いて、狂気に支配された人々が一斉にクラウンとヴァル、チョコに襲いかかってきた。
⭐️
続く。
絵:クサビ




