3巻 2章 6話
解脱の門の近くに到着した。
キャンピングカーで、みなフードのついた白いローブに着替え、犬達には白いタンクトップを着せた。
クラウンは車を降りて早速チョコのイカロスを使った。チョコからプリズムが出て、マップにはマーキングポイントが1つ付き、小夜の知り合いのエルフがいる事がわかった。解脱の門の受付へ進む。
小夜は母の入会書を提示した。
7人と2匹分の祈念料を支払った。
真っ白い大きな門をくぐった。
白い壁に囲われた、幅の広い白い参道。谷の勾配に合わせてうねった道は、龍の背中の様だ。中腹には池があり、周りのベンチで信者達がくつろいでいる。その先に神殿があり、大勢の信者が祈念に来ている。
池の先には美しい庭園があり、クラウンは抱えたチョコをローブで隠し歩いた。マーキングポイントに近づいた。クラウンは庭仕事をしている一人のエルフを指差し小夜を見た。
小夜はうなずき、緊張気味に声をかけた。「アリーヤ?アリーヤじゃない?」
「ん?」庭仕事の道具を置いて、エルフは顔を上げ、小夜を見た。
「あ!まさか小夜?小夜なの?無事だったの?久しぶりね。」アリーヤは驚いた顔から、くしゃっと優しい笑顔で小夜の両腕を掴んだ。
「アリーヤ、覚えててくれて嬉しい。アリーヤも無事で良かった。」小夜はそのままアリーヤを抱きしめた。
アリーヤはキョロキョロして小夜の手を引いた。「こっちに来て。」
デザインされ整った背の高い生垣の間にベンチとテーブルがあり、周りからの視線が気にならない場所にみな座った。
アリーヤは黒髪を編み込んだブレーズヘアを束ねて話し出した。「ここならゆっくり話せるわ。小夜の村は全滅したって村長に聞いたのよ。そのすぐ後、私の村もテロリストに襲われたの。抵抗した家族は殺されて、若いエルフは人身売買で捕まって、弓の腕が良い者の中には、実入りがいいからってテロリストの手先になったやつもいたのよ。」
小夜は真剣な顔でアリーヤに聞いた。
「それからどうやってここに辿り着いたの?」
「テロリストが村を制圧した後、エルフたちが車に乗せられて行ったわ。人身売買の業者に引き渡すって言ってた。車が戻ってきたら、次は私の番だった。車が戻る前に警察が駆けつけて、私は難民になった。けどね、私、難民キャンプに行くのが嫌だったの。その時村にいた信者に誘われてここに来たの。ひどい暮らしを選ぶより、私はここの信者になって、幸せに暮らしたかった。」
「今、幸せ?」小夜は眉をさげて優しく聞いた。
「わからない。不幸でもないけど、幸せでもない。入信してからここの良くない噂も聞いたから。」
「アリーヤ、幸せになりたかったら、私のところに来て。エーデルワイス砦で一緒にコーヒー豆を育てたり、弓の腕も役にたつわ。子供の頃、部族で暮らしてた感じに似てて落ち着くわ。そこにいるハニに自尊心って言葉を教えてもらったの。受け売りだけど、自尊心が育つ所よ。」
ハニは気恥ずかしそうにペコっと会釈した。
「自尊心、、部族の暮らしに戻れるのが幸せ?、、私は便利な物にふれすぎちゃったのかな。いつも楽をしたいって、そればかり考えちゃう。」
「いつでもいいの。来たくなったら、来て。ね!これ、私のコード。また収穫祭に焚き火を囲んで踊ろ。」
「はあー。踊りたいね。小夜、ありがとう。」
小夜とアリーヤはハグをした。
クラウンは話しかけるタイミングがわからなくて、もじもじ落ち着きがない。
それをみたスノーは促した。
「シシッ。今聞けって。」
「アリーヤさん、シャーマンは最近来ましたか?」
「先月来たわ。今年になって初めてよ。信者を集めて吉方位に旅立ったわ。」
「キッポウイってなんですか?」ブラストはアリーヤに聞いた。
「その方位へ出かけるだけで幸運に導いてくれる方位の事よ。それぞれ出身地の違う民族を一度宇宙船スカラベに集めて、1週間滞在させて、そこから吉方位に向かわせるのよ。帰ってこない者は人身売買されてるって噂。吉方位に向かって、ずっと旅をしてるって言うけど、、噂で帰らざる門って言われるゆえんね。」
ギルドのみなはうなずいた。
「母もそれを信じて、3カ月毎に移動してたな。私は側にいて欲しかった。」肩を落とす小夜の肩をアリーヤは優しくさすった。
「ねぇ、小夜の仲間ってギルドなの?ローブの下から見た事あるアーマーが見えて。」
「そうなの。私がテロリストに捕まった時に助けてもらって、今いる所も紹介してもらったの。信じていい人達よ。シャーマンの居場所を探してるの。」
「そっか。じゃあ、神殿の3階に図書室があって、そこまでは誰でも入れるわ。その奥にシャーマンが来た時に使う部屋がある。そこのモニターで今、宇宙船スカラベが、どこにいるか見れるわ。けど、セキュリティが厳しいから見つかったら危ないけど。」
「どんなセキュリティ?」ヴァルはアリーヤに聞いた。
「神殿はどのフロアも監視カメラがあるわ。3階のシャーマンの部屋にはロックがかかってる。部屋の中にエレベーターがあって、地下1階から4階まで専用通路を行き来できる構造よ。4階の儀式のホールはシャーマンが許可した信者しか入れないし、そのまま外のスペースポートに出て、信者をシャトルに乗せてスカラベに行けるのよ。」
「専用通路の1階から外に出れますか?」スノーはアリーヤに聞いた。
「出れるわ。1階でエレベーターを降りて目の前の扉から外に出れる。扉は中からしか開かないからね。その先に裏門があって、そこから森に繋がってる。けど、見つかったら全ての外壁と門が一斉に閉まるからね。」
ギルドのみなは話合って、3階で宇宙船スカラベの行方を探ってみる事にした。
アリーヤは他人の振りをして、3階の図書室まで案内してくれた。
「ありがとうございました。」みなはアリーヤに仰々しくお辞儀して、図書室に入った。
大きな図書室の奥に扉が見える。カウンターに事務員が2人、離れて本を読む信者が4人座っている。
みな、棚に分かれて入っていき、本を探すふりをしながら、静かに奥に進む。
5分後、みな奥の本棚に集合した。
ヴァルが片手を監視カメラに向けて、もう片手を扉に向かって構え、小声で言った。
「スピリット」
カチャ。扉のロックが外れ、音を立てずにみな部屋に入った。
ブラストがPCにハッキングモジュールを差し込んだ。
「ヴァルOK。」
「スピリット。」
ーインストール。コピー完了まで残り2分ーとモジュールに表示された。
スノーとハニはモニターのマップやリスト情報などをログにおさめている。
「ヴァルってさ〜クールダウンの時間いらないって、スタミナ半端ないね。」クラウンが小声で話しかけた。
「まあね〜って、レベル20達成の時にスタミナ拡張してるし、クールダウンが早いのはヒューマノイドの特権?みたいな。」
「へえ。そんな事もできるんだ。すごいわね。」小夜は関心した。虎徹も深くうなずいた。
ヴァルは照れながら足をクロスして腕組みしたまま、ゆらゆら体を揺らした。
その時、館内放送が繰り返し流れた。
ーセキュリティに問題が発生しました。信者の皆様は2階の祭壇ホールに速やかにお集まり下さいー
「ヤベ!バレたぞ。」スノーがブラストを見た。
「あと20秒、早くー!」ブラストは四つん這いでモジュールをのぞいた。
「エレベーター開けて待ってるよ〜。」ヴァルはスピリットでエレベーターを呼び、扉を開けたまま待った。
次々にエレベーターに乗り込み、最後のブラストを待った。みなハラハラして息をのんだ。
館内放送がまた流れた。
ーセキュリティ復旧まで外壁と門を閉鎖します。復旧までしばらくお待ち下さい。ー
ブラストはコピー完了したモジュールを引き抜き、ダッシュでエレベーターに飛び乗った。エレベーターの中でみなワッペンを合わせ大きく息を吐き、呼吸を整えた。
1階に着くと、エレベーターの反対側の扉が開いた。ヴァルはスピリットを使い、目の前の扉のロックを解除した。
6m程先にある外壁の門のシャッターが閉まり始めた。みな猛ダッシュした。犬達は駆け抜け、シャッターは門の半分まで降りている。
「シェル!」スノーは硬化しながら走り、シャッターの下に入り体をストッパーにした。クラウンとハニが通り抜け、虎徹と小夜は身をかがめて通り抜けた。
ヴァルとブラストは少しずつ沈むシャッターの隙間をスライディングで滑り込んだ。
「シシーッ!」スノーはシャッターの下から離れ、肩をトントンと上下させた。「シシッ!森に逃げるぞ。走れ!」
解脱の神殿からサイレンが鳴った。
ウーーー!
ウーーー!
みな一斉に走り出した。
4階から10人程の警備員が弓を構えて放った。
後方を走るブラストは振り返り、手を上に向けた。「弓が来るぞ!ストーム!」
スノーは小夜を抱え、スピードを上げた。
ゴー!バキバキ!
ブラストの放った竜巻は、飛んでくる矢を空中で散り散りにした。
「シシッ。いいぞ!ブラストー!小夜も頑張って走れ!」スノーは小夜を下ろした。
「うん!」小夜は頑張ってスピードを落とさない様に力を振り絞って走る。
5〜6頭の犬が放たれ、吠えながらどんどん近づいて来る。
みな息が上がり苦しいが、必死に走る。
バウ!
バウバウ!
ヴァルが登り坂の手前で足を止めて振り返り構えた。「スピリット!帰れ〜!」
荒ぶる犬達の目は紫色のグラデーションになり、くるっと振り返って走り出した。
ヴァルはまぶたがトロンと落ちた。「あ〜こんなにスタミナ使ったの久しぶり〜。」
クラウンとハニは、ゆっくり坂を登ってくるヴァルに手を伸ばして、土手の上まで引き上げた。
「先導して。小夜さん。」クラウンは森に詳しい小夜に頼んだ。
15分ほど歩いたところで、大きな木の上に登り、静かに待つ様に小夜は言った。大きな木の下には湧き水が湧いている。
みな小夜のアドバイス通り、喋らずに木の上で森がいつも通りに戻るのを待った。
数分後、解脱の神殿の警報が止まった。
風が爽やかに吹き抜け、虫が鳴き始めた。
しばらくしてグンディ達が水を飲みにやって来た。グンディ達は重なり合ったり、毛繕いをしている。クラウンはにこやかにログに撮った。
グンディ達が立ち去ると小夜は言った。「もう降りて大丈夫よ。ここから北に町があるから歩きましょ。1時間くらいで着くわ。」
小夜の言った通り、1時間で小さな酒場町が見えた。
その時、イノセント刑事からスノーにコール。
「おい、無事か?」
「大丈夫っス。面白い物手に入れました。シシッ。」
「そうか。今、南エリアの警察が現場に呼ばれて不審者の対応をしている。それと仲間が君達の車を確保した。今どこにいる?車を届けてあげよう。」
「ありがとうございます!助かります。えっと、、どこって言えばいい?」スノーは小夜に聞いた。
「あ、えっと『旅人の木』って言う良い宿があって、そこにいます。」小夜は返事した。
「わかった。今夜そこで合流しよう。」イノセント刑事はコールを切った。
ハニは嬉しそうに小夜に言った。「良い宿、楽しみー。」
夜まで旅人の木で休む事にした。
⭐️
続く。
絵:クサビ




