3巻 2章 2話
西の難民キャンプ。
クラウン達は支援物資のクエストも受け、物資を届けた。ナオミ刑事も同行した。
エレファントグラスで作った高床式の小屋が並ぶキャンプ。隣国の受け入れを待つ者、行くあてがない者、とりあえずいる者、みないろんな事情を抱えている。
支援物資を配り、コンテナは空になった。一緒に蟻地獄の巣を抜けた難民達にも再会できた。
ナオミ刑事とハニは難民達に丁寧にスカウトの話をしている。他のギルドメンバーと犬達は子供達とサッカーをして遊んでいる。
観光バス会社の社長は快く地雷除去の為のドライバーとコーヒー農園長を引き受けてくれた。再会した難民達もエーデルワイス砦で働きたいと、前向きな意思を見せてくれた。
しかし他の難民達の中には今のままが良いと言う者も多く、思っていたより働き手は集まらなかった。
ナオミ刑事がハニに声をかけた。「今回は20人ね。また新しい難民がここに来る予定だから、定期的に呼びかけて、少しずつ理解してもらいましょ。根気強く声をかければ心変わりする事もあるでしょ。」
「そうね。まずは一歩前進ね。」ハニはナオミ刑事に笑顔を見せた。
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エーデルワイス砦の復興作業と動植物園での保護活動を、クラウン達は交代で行った。
1週間後。
エーデルワイス砦への移住が始まった。
久しぶりの晴天だ。最後のコンテナを空にしたナオミ刑事とハニは、ラグを広げ、木陰でピクニックを楽しんだ。
「社長、明日から地雷除去の運転お願いね。」ハニはコーヒーをみなに回した。
「任せとけ。何回でも運んでやるよ。久しぶりに腕が鳴るよ。」社長はコーヒーを1つとって、横の子供に渡した。
「おじさん、今度から農園長になるの?」
「そうだな。みんなで難民から農家になったんだ。一緒にがんばろうな。」
みな笑顔でうなずいた。
「ここ、いい所ね〜。子供達もコーヒー豆の育て方を夢中で見てるわ。」
和やかな雰囲気とコーヒーの香りにハニ達は幸せを感じた。
「ん?」ナオミ刑事はコーヒーにハチミツを入れながら違和感を覚え、外を見た。
砂埃をあげ、爆音で音楽を流しながら十数台の武装した車が向かって来る。
「皆さん!砦に避難して!さ、早く!」ナオミ刑事が立ち上がった。
社長は農園長になったばかりの慣れない手つきで操作した。「第1ゲートロック、第2ゲートロック!」
「まだ撃って来ないわね。応援要請お願いします!武装車両が10〜15はいます。」ナオミ刑事は子供達を逃しながら言った。
ハニは空のコンテナに隠れながら、外の様子を見た。
スピーカーをつけたバギーが第1ゲートの前で止まった。
「オイ!物資を残して立ち去れー!10分で出ていかねーと火の雨を降らすぞー!ガウガー!」
車から大鎌や三又槍を持ったアードウルフ族やハニーアナグマ族がぞろぞろと下りてきた。族はフェンスに手をかけ、カウントダウンをしながらフェンスを揺らした。
「10分前〜!ウーラーララー!ウララーラ!」
ナオミ刑事のコール。
「みんな砦に避難したわ。地下のシェルターに移動するから、ハニも危なくなったら来て!」
「ハニ!大丈夫?」「ヘリで20分で着くよ!」「ハニ!そいつらはテロリストだ!」クラウン達から次々とコールが入る。
「8分前〜!ウーラーララー!ウララーラ!」フェンスが大きく揺さぶられ、だんだん前倒しになって行く。
ガシャーン。
ガシャーン。
「わかった、わかった。少し集中するわ。」ハニはマイクの音量を下げ、音楽の音量を上げた。深呼吸を3回して息を吐き切り、ゆっくり吸い始めた時、目の前の光景に息が止まった。
フェンスが前に傾き、ハニーアナグマ族達がアードウルフの子供を担ぎあげ、第1ゲート内に放り投げた。
10代のアードウルフの子供はハーフパンツにタクティカルベストを着て立っている。
「5分前〜!ウーラーララー!ウララーラ!」テロリスト達は興奮してさらにフェンスが大きく揺れる。
ハニは悲哀の顔になった。
「ナオミ刑事、私が良いって言うまで、子供達は来ちゃダメだからね。」ハニは唇を固く結んだ。
「ハニ!その子に近づかないで!爆弾ベストを着てる!」ナオミ刑事は言った。
「コールオフ。タクシス!」ハニは構えた。
黄緑色に発光したハニは浮きあがり、コンテナより高い所から手をかざした。
アードウルフの子供の体は黄緑色に包まれ浮いた。
ハニは右手を前に出し、軽く握り、手を空に伸ばした。
タクティカルベストだけがアードウルフの子供から離れ上昇する。
ハニは開いた左手の指を折り、引き寄せた。アードウルフの子供はハニの方へ飛んだ。
ハニは右手を強く握り締めると、タクティカルベストは爆発した。
ドカーン!!
「ウララー!」「ガウガー!」テロリスト達は爆破のダメージを受けた。
フェンス前列は大混乱になり、後列の者達がそのまま第1ゲートを薙ぎ倒した。
雄叫びをあげ第2ゲートを壊し始めた。
ハニはアードウルフの子供を農具庫の屋根にそっと乗せた。アードウルフの子供は遠い目をして、じっとしている。
ハニは振り返りながら、両手を開くと、空のコンテナ2つが浮いた。ハニはゆっくり息を吐きながら、両手を頭の上で反時計回りに動かした。
コンテナはフェンスの中に落ち、テロリスト達に迫る。2つのコンテナを引きずる音が、地鳴りの様に響く。大地のリズムでテロリスト達を巻き込む。
ゴトン、ドン、ドン。
ゴトン、ドン、ドン、
ハニは呼吸を最大限に深くした。大鎌や三俣槍がテロリスト達を切り裂き、深く突き刺さったまま回る。
キョーーーン!!
カルラが飛んで来た。
ゲート上空を周りながらテロリスト達にカルラ炎を吐いた。
ハニはゆっくり両手を回し続けた。
コンテナをそのままフェンスの外に放り投げ、両手を下からゆっくり回し上げ、手首を頭の上でクロスにして捻った。
第1ゲートの剥がれたフェンスでテロリスト達をひとまとめに捕らえた。
ハニはゆっくり屋根に降りた。
アードウルフの子供は瞬きもせず、ただ座って見ていた。
カルラが見張り台の屋根に止まった。
「スヴァーハー。破壊者よ。好物は頂いて行く。」カルラは低空飛行し、フェンスの塊を掴んでテロリスト達を連れ去った。
太陽に消えて行くカルラは眩しかった。
「ナオミ刑事、もう大丈夫よ。子供達も来て良いよ。ふうー。」ハニは大きく息を吐いた。
「ハニ、ありがとう。今はしごを持って行くわ。待ってて。」
「防衛完了。カルラ様が来てくれた。」ハニのコール。
「見てたよ!炎の中で踊ってるみたいだった。」クラウンのコール。
ギルドのみなはハニを労った。
⭐️
続く。
絵:クサビ




