第六話 感情
…やっぱりこの身体は動きにくい。ドレスを着ているのもあるのだろうが、やっぱりこの感覚は嫌いだ。
「というか、なんか前より目線が高いような…?」
男のときの俺の身長は143cmだったのだが、女の姿になってから150cmくらいある。こう言ったときに辺りを見渡したが、見たくないものまで見えてしまった。
「昔よりもデカくなってやがる… 脂肪の塊め、憎らしい。ヴェルハ、さっさと服を買ってきてくれ…」
広間に入ると、視線が痛い。さっきの素っ裸のときより、視線が痛い。
そんな目で見るな!! そんな稀代の変態を見るような目で見るな!! 俺はこうなりたくなってなったわけじゃないんだから!!
「アルトお兄さん… なの?」
クルーウェルに尋ねられた俺は、少し狼狽えながら肯定した。俺はてっきり、ドン引きされるかと思ったが、クルーウェルは予想外の行動に出た。
「さっきはぶってごめんなさい… これだけ言わせて! …アルトお兄さん、似合ってるの!」
クルーウェルが俺の胸に飛びこんできた。なんか複雑だ。
「アルマ、助けて… くれ…」
「お兄ちゃん!」
アルマがどうにか彼女を引きはがしてくれた。自分にすら余り触らない俺が、他人とスキンシップを取るというのは、慣れない。クルーウェルが嫌なんじゃない。なにかをやらかしそうな自分が嫌なんだ。
「お兄ちゃん、なにがあったの? お兄ちゃんが好き好んでこんなこと、しないでしょ?」
「…」
アルマにありのままを話した。アルマは何も言わず、俺の横で寄り添ってくれた。まあ、こんなこと言われても返す言葉なんてないか。
…少し感傷的になってしまった。これはよくない。そう思っていたとき、やっとあれは帰ってきた。
「ヴェルハ! やっと帰ってきたか!!」
「アルト、とりあえず部屋に戻ろう」
「ああ!」
やっと女体からおさらばだ!! とても晴れやかな気分だ。
部屋に着くとヴェルハはまず服を脱ぐように言った。俺としてもこれを脱げるのは願ったり叶ったりってところだ。俺は嬉々として服を脱ぎ、ヴェルハに放り投げた。
「うお! 急に投げるな!」
「ほら、目を瞑っているから早くしてくれ!!」
合図があり、目を開けて下を見るが、あの憎らしい肉塊はなく、平坦になっている。やっぱり絶壁に限る。実用的だし、かわいいし。
「うへえ…」
「うわ、気持ち悪!!」
うん。俺も言っててそう思った。だが、これは仕方がないことなんだ! 俺がヴェルハに作られたときから、これは変わってないんだ!!
「ほれ、アルト。これは前着てた服だ。とりあえず着ろ」
「ありがとう、ヴェルハ」
ヴェルハが手渡してくれた服は、前とそっくりそのまま同じセーラー服と短パンだった。セーラー服は白に紺の襟で、ネクタイは赤。短パンは紺。違う点を挙げるとすれば、少し前より大きい。恐らく、これから俺が成長したときにぴちぴちにならないようにだろう。その心遣いは、さすがヴェルハだ。
「違う系統の服がいい、と言っていたな。俺様が直々に選んできてやったぞ。どうだ!」
俺が服を着ると、ヴェルハはそう言って真っ白なセーラー服を俺に手渡した。
まじかこいつ。「違う系統の服」って言われて前と同じセーラー服を出してくる奴があるか!! 形まで一緒じゃん… せめて違う形のものとかさあ…
「おい! …でもありがとう」
「まあ、いつか役に立つだろう。そうだ、アルト」
返事をする間もなく、ヴェルハは俺にずっしりと重たい袋を置いてきた。
「は!? なんだこれ!!」
「今の生活のままでは不自由だろう? これがあれば金に困ることはない」
「んだよ… それ」
急にヴェルハがデレた。なにか裏でもあるのだろうか。まあいいや。
「…ありがとう、ヴェルハ。大切に使うよ」
あとがき
アルトは白いセーラー服をいつもの奴との色違いだと思っているが、生地と一部のデザインがちょっと違う。




