たまご探偵物語 〜 たまごの管理人と別荘の番 〜
────私はたまごの探偵である。とある地方の雪山にあるという別荘へと向かっている所だ。
ん? 何だねその顔は。開口一番、日本語がおかしいと文句を言うのかね?
確かにたまごの探偵では、私というものを表現する言葉として相応しくなかったようだ。ご指摘、感謝するとしよう。
では、改めて私の自己紹介が必要だな。私は──たまごの管理人だ。
⋯⋯待て、諸君。話を聞け。雪玉に石を詰めて投げるな。たまごだけに割れやすいのだぞ。それに間違いではないのだよ。たまごの管理人⋯⋯それが今回の依頼で私が取るべき姿なのだから。
雪山に積もり始める雪が細やかになり始める頃、私は地方都市に到着した。以前この町で依頼を受けた時と同じく、雪山に関する仕事だ。もちろん依頼の内容は別である。今回の目的地は雪山の中にある別荘。
私へ依頼を出したお嬢は大金持ちで、たまごの探偵事務所の出資者でもある。その彼女からたまごの管理人として、別荘の番をするように依頼が入ったわけだ。
どうやらタチの悪い連中が留守の別荘に入り込み、金目の物を根こそぎ奪って行くらしい。盗られてもお嬢自身は痛くはない。だがムカつくから調べて、捕まえて欲しいそうだ。
空き別荘の留守番など探偵の仕事ではないのだが、日頃から世話になっているお嬢の頼みは断れない。
それに考えてみたまえ。盗っ人どもがやって来ようにも、いついつ行きますと、あちらから御丁寧に連絡する事はない。普段は家の保持のため、正しい管理人が住んでいる。
セキュリティも万全、管理人も常在。そんな別荘に吹雪の雪山へ盗みに入るのはリスクが大きいと思うだろう。
────つまりだ。この依頼は日頃何かと忙しい私へ「ゆっくりしたまえ」と言う、お嬢からのご褒美なのだよ。
ツンデレなお嬢の事だから素直に目玉焼きを頼めずスクランブルエッグにして、後悔するのだ。もっとも私の今日のおすすめはオムレツだがな。
────暖炉に火を起こし、ロッキンチェアに揺られながら、燻らす煙草の味は格別だ。
なに、それではたまごだけに、燻製になるんじゃないかって?
ハッハッハッ、心配症だな君達は。私の肌はそんなにやわではないのだよ。たまごだけにタマゴ肌なのさ。何より時代は半熟ではなく固茹でたまごなのさ。そう、寒い冬にはおでんが欠かせないからだ。
────フワぁ〜⋯⋯それにしても眠い。冬場の暖炉の暖かさと来たらふわふわのオムレツのような柔らかな温かさじゃないか。流石私がおすすめしただけの事はあるな。
何より、年季の入った暖炉のなせる業でもあるだろうな。
⋯⋯たまごの管理人をしている私は、退屈に押しつぶされそうになりながら欠伸をする。
固いとは言ったが、そこはたまごだからね。押しつぶすにも、丁重に扱うように頼むよ退屈君。
この別荘には自家用の温泉も引かれている。食料も保存食メインだが、たっぷりあるので吹雪の酷い日は別荘に籠もっていられる。暖炉に使う薪だって、ひと冬過ごせるだけの量が薪置き小屋にたっぷりと乾かされて積まれていた。
別荘内を調べて回った限り、セキュリティも万全。故障した様子もないようだ。停電対策に温泉の地熱を利用した発電と、ソーラー発電が組み込まれていて、防犯センサーが侵入者を捉えるようになっていた。
他にも色々あるのだが、それは秘密だ。手の内を全てさらけ出すわけにいかないからな。
何より辺り一面の雪景色。吹雪の明けた後、雪山の別荘に窃盗団がやって来ようとも、足跡を消すのが難しいこともある。
吹雪の中で犯行に及ぶとも考えられるが……冬の雪山、舐めてかかれば生命という対価が必要になる。先ほども言ったが、リスクをかけるくらいなら町中で留守宅を狙うだろう。
それにしても山賊共の現れる気配が全くない。盗っ人は金のたまごに目がないはずなのだが。
まあ、ここは雲の上ではなく雪山。白さは似たようなものだが、大男もめんどりもいないお嬢の別荘。現代では強盗は罪、殺人は重罪だ。
お嬢に危険が及ぶ可能性も考慮し、奴らを返り討ちにしてやるつもりだったが⋯⋯私に恐れを成したのだろうな。
結局犯行は未然に防ぐ事が出来た。たまごの管理人として、私が何事もなくひと冬過ごした事により、以前の管理人の犯行が確定したようだな。
なに簡単な事だよ。どんなセキュリティも、管理次第で突破されるというのが証明される。正規の管理人ならば、カメラの死角、抜け道も知っているからな。それにスイッチを切るなり映像を入れ替えるなりする事で犯行を隠すのも可能だろう。
────諸君。私ものんびり寛いで遊んでいたわけではなかったのだなと、わかったかね。
ジャックと豆の木も、そのまま読めばただの強盗殺人と、犯人家族のサイコパスな幸せを見せつけられて終わる。
だが変に修正し、理屈に合わない蛇足を加えるよりも、時代背景を踏まえた幸せの道への皮肉や、警鐘と言う考察の方が私は好きだ。
────ああ待て。蛇年だからと、蛇足などと抜かすのは良くなかった。私にとって、たまごを丸呑みにする蛇はタブーなのだよ。
みたまえ。雪のように真っ白な蛇神さまがたまごなわたしを狙っている────
お読みいただきありがとうございました。