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7,琥珀の目と無彩色な恋

2307字

木漏れ日の芝生の中。俺は木にもたれるように座り込んでお友達ポケットを見ていた。『家族一覧』と『ナハツェーラ』の項目を何度も読み返している。

俺を含め今生きてる家族は九人しかいないとのことだった。実際家族一覧の項目は数十ページに(わた)って記載があったが、俺の知る九人を除いた家族はみんな名前に横線が引かれていた。きっと自殺かナハツェーラ化した人達だろう。

一方ナハツェーラの項目は倍のページ数があった。メイが言っていたが、ナハツェーラは二種類ある。エリカによって生み出されたナハツェーラと、脚本の再現が完了できなかった人間の成れの果ての二種類だと。きっとそれで、こんなにナハツェーラの記載も多いのだろう。しかしノートに書かれているナハツェーラも『家族一覧』同様ほとんど線が引かれていた。討伐済み……ってことか?全てのナハツェーラ情報に危険度レベルという項目があって……。

「何見てるの?」

木の裏からアメリアが無邪気に顔を伸ばす。いつからいたのだろうか。

「ああ、アメリア。ノートを見てた。あんまりじっくり読むことなかったから。」

「ナハツェーラのところ見てるの?なんか多種多様で面白いよね。線が引かれてる知らないナハツェーラも、かつて私が知らないところで()()()()んだって想像するの。」

「生きてた……。まるで、人間みたいだ。」


「私が思うに、彼らは人間よ。苦しみの伝え方が不器用なだけの人間!」

木の裏から出てきて、近くの木に俺と同じ様にもたれて座った。

言い忘れてたがここはアメリアの拠点らしい。時計塔の横に位置し、低木に囲まれた領域には芝生が生い茂っている。木々の隙間を掻い潜って差し込む木漏れ日が、絨毯のような芝生に模様を落とす。時計塔の真横だから昼の鐘がめちゃくちゃうるさいのは難点だが、それ以外は居心地のいい場所だ。遊園地のあのbgmも、遊具施設の音も随分小さく聞こえる。

「アメリアは……ここに来て、どのくらいになるの?」

「もう覚えてない。でも、ハルモニア歴はあなたの次に若いのよ。後輩クンが出来て嬉しいわ!」

俺の顔を犬みたいに揉みまわすアメリアは、相変わらず笑顔だった。俺はかつてこの笑顔を守れなかった過去がある。変な形での再会になったが、今度こそは彼女を守り切ると心に誓っていた。

ハルモニアに来る以前の記憶、もっというと俺とアメリアの真の関係性は、俺とオダマキ以外知らない。改まってアメリアに訊かれたこともあるが、まだ言うべきではないと判断して喋っていない。記憶のない彼女に、妹の演技をさせてしまうのは申し訳ないと思うし。

「あ、そういえばアメリアの脚本って何なんだ?俺のは前見せたろ。」

「えー。私秘密主義だから。ヒミツ。」

後ろに下がって、不敵な笑みを浮かべる。空気が澄んでいた。その時、俺はアメリアのもたれる木の幹に何か書かれているのを見つけた。

「アメリア。その後ろの木の幹……何か描いてる。」

「ん!あ、これ?これね、私がここに居座り始めた時から描かれてたの。ずっと昔に誰かが描いたんだと思う。」

アメリアが、絵が俺によく見えるよう首を傾ける。木の幹には傷をつける様にしてハッキリと小さな絵が描かれていた。二人の人の絵。棒や点だけで描かれた、極めて抽象的な絵だが分かった。しかし不思議なのは、その二人の間に深い溝があったことだ。木の幹が自然に割れたものなのか、或いは誰かが切りつけたのか……。

「二人の人?」

「多分。ボイジャーのみんなとリコリスに見られたことがあるんだけど、みんなも知らないって言ってた。もしかしたら先人が書き残したものかも。」

()()という言葉が頭に引っかかる。楽し気な雰囲気に包まれた自称楽園には相応しくない言葉だろう。

「まあ目立たないし、放っといてもいいかもね。」

アメリアがそう言い放って俺を見た。その時。

「っ……」

思わず目を背けてしまう。何かを察してアメリアも照れくさそうに体を揺らした。彼女の左目のことだ。この拠点に来てからというもの、俺はあの琥珀のような瞳とはなるべく目を合わせないように気を付けていた。いつか訊こうとは思っていたのだが、しばらくお互い黙った後、向こうから口を開いてくれた。

「私の左目はね、危険度レベルの低いナハツェーラを宥める力を持ってるの。」

「ナハツェーラを……宥める?」

地面を見つめて頷くアメリア。頭上で鳥が羽をばたつかせ、飛び立つ拍子に何枚か葉を散らした。ひらひらと踊る葉は、上から差し込む白い光を受けて純白さを着飾りながら静かに芝生に落ちた。

「エリカとの契約なの。私の脚本完遂には、この力が必要だから。」

何かを決心したかのように琥珀の目は俺の視線を掴んだ。今度はしっかり目が合い、彼女の目をよく見つめる。その瞳の奥には底知れぬ闇が覗かれる。
































「来て、サフィニア。」

サフィニアと呼ばれた女の子は胸いっぱいに木の実を抱えて、茂みの奥から姿を現す。薄汚れた肌の男の子が、木の幹を指さす。

「この芝生が今日から僕らの()だ。分かりやすいように、絵描いた!」

「どんな。」

顔色一つ変えることなくサフィニアは屈んで絵を見る。二人の人が、近く描かれている。

「仲良し!」

「勝手に仲良しにするな。」

でも彼女は満更でもなさそうな顔を浮かべていた。それを見てニコニコ笑う男の子。

「僕にとっては、サフィニアはかけがえのない()()だよ。」

彩る恋は、いずれ朽ちる儚い蝶の羽のようだった。

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