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3,家族

3296字

ハルモニア中央には巨大な時計塔が建っている。四面に飾られた巨大な時計の上には壮大な鐘が吊るされている。

「行こうテレジア。」

連れ添い人はオダマキのみだ。リコリスは自身の研究で用事が空いていなくて、メイはボイジャーの蔵書点検の仕事が終わってないらしい。サフィニアの名前も挙げてみたが、彼女は神出鬼没らしい。

未だにエリカと言う人が何なのか分かっていないが…まぁなんとかなるだろう。


時計塔の扉を開け、螺旋階段を上っていく。

「テレジア。もうここに来て二日目だが、出会った人の名前と顔は覚えたか?」

「サフィニアとリコリスとメイとオダマキ……覚えてる。」

「お前は記憶力がいいんだな。俺が初めてここに来た時は、一日に二人覚えるのが限界だった。」

そんなことを呟いていると、頭上からものすごい轟音が轟く。

「もう正午の鐘か。早く行こう。」

手を引かれて、俺たちはついに一つの大きな扉を前にした。オダマキは扉に全体重をかけてゆっくり押す。重たい音がして扉が開くと、その先には巨大なホールが広がっていた。大理石があたりが埋め尽くされ、壁いっぱいに掛けられた肖像画や彫像に開いた口が塞がらない。

「ヤッホー新入り!」

レッドカーペットの奥には大きな純白の椅子が置かれており、ちょこんと子供が座っている。あの子がエリカか?かなり中性的な人だ。

「コホン、親愛なるオダマキ。王の導きのままテレジアを連れてきたこと感謝する。君は部屋の外に行ってなさい。ボクは二人で話がしたい。」

「はいはい。仰せのままに。」

面倒くさそうに唸ってオダマキは王に背を向ける。部屋から出る直前、俺の耳元で囁いた。

「このハルモニアの存在も、全て彼女のごっこ遊びだ。気を抜くな。」

扉が完全に閉まり、王の間には俺とエリカの二人だけが取り残される。さっきまで威厳のある態度をとっていたエリカも、どこか肩の力を抜いて笑った。やけに間延びした声で語り掛けてくる。

「やっほー新入り。調子はどー?」

「あっ、じゅ、順調です。昨晩は出会った方々と打ち解けて結構仲良く……」

「ははっ!そんなかしこまらなくてもいいのに。ボクはエリカ。ここ夢の国ハルモニアを管理する()だ。君の来訪を、心から歓迎しよう。」

何となく頭を下げてみる。満足したのかエリカは鼻を鳴らした。

「今日君をここに招待したのは、この世界のことを君に教えるためだ。テレジア。」

「この世界のこと?」

「そう。ナハツェーラのことや脚本のことは聞いた?分からないことがあれば何でも訊くがいい!」

自信満々に胸を張るエリカ。深く考えた末、一つ目の質問をした。

「ここハルモニアは結局何なんですか?夢の国としか説明されてませんが、それだけだとよく分かりません。」

「うん!なかなかいい質問だねテレジア。ハルモニアは、現実世界の地図には存在しない……いわば意識空間のようなものさ。現実世界で壮絶な人生を送った者や、いっそ死んでしまった可哀想な人の意識や魂が、このハルモニアに招待される。君も何か思い当たる節があるだろう?テレジア。」

「ああ…まあ…そうですね……。」

「ハルモニアは生と死の間に存在する。だから生者も来るし死者も来る。例えばぁ、オダマキは現実世界では生きている人間だ。彼は壮絶な人生の末、とてつもない罪悪感を抱える羽目になった。その結果彼は社会と自分を切り離し、自身の夢境に籠る選択をしたんだ。そして見る長い夢の中、その意識がここに流れ着いたってわけ!…あ、この話をしたことは彼に秘密だよ!」

「逆に死者が来るっていうのはどういうことですか?」

「そのまんまさ。死んだ人の魂はそのままあの世に送られるけど、壮絶な人生を送った人の魂は、霊としてハルモニアに招待される。ボクの部下にアザリアって女がいるんだけど、彼女がそれに該当する。…あ、この話をしたことは彼女には秘密だよ!」

いくつ秘密を作る気だ。でも、なんとなくハルモニアの概要は掴めた気がする。他に気になることは…

「脚本の再現を完遂したら願い事が叶うのは知ってます。逆に完遂しない選択肢を取り続けることは許されてるんですか?」

「一応オッケーだよ!でも面白くないから、僕から白い目で見られるペナルティがある。」

白目をむいて変顔をするエリカ。自分で変顔しておいて勝手にツボって笑い出した。俺は苦笑いを浮かべるだけで精一杯だった。

「他に気になることはあるかい?テレジア。」

「最後です。ここハルモニアは今、何人いるんですか?」

「お友達ポケットに書いてあるはずだよ。あれは誰が触れなくても、人が死ねばその人のページが消えるし、常にリアルタイムの『家族』情報が見れる。でもまあ質問に答えるならぁ……えーっと……僕と君含め人間は八人かな。メイとかいう例外も加算するなら九人。」

想像をはるかに下回る少なさだった。ハルモニアの広さや、ハルモニアに誘われる人間の条件を聞いてから数万人近くはいると思ったのに……まさかの九人?

「なんでそんなに少ないんですか?もっと多くてもおかしくないはず……」

「昔は多かったんだけどね。みんなナハツェーラになってサフィニアに殺されちゃった。」

そう考えるとサフィニアは人間離れした狩人なのかもしれない。実際、あの熊と火の玉を撃退した時の威圧感は凄かったし。

「これで最後かな?もし他に質問が出てきたらアザリアを通して伝えに来てよ。彼女は雑に呼べば来る。なんせ彼女除いて人口八人だからね。まあ、ここに直接来てもいいけど……あくまでボクは『王』。神聖なる存在だから、滅多に君らに顔は合わせたくない。合わせるべきじゃない。」

少し楽しそうにエリカは笑った。

サヨナラの挨拶をして扉に手をかけた時。

「あっ!ちょっと待って!」

「はい?」

「えーっと、そんな大したことじゃないんだけど……今日の君の態度、好きだったよ。敬意を払って接してくれて嬉しかった。もう、君以外のここの住民はボクに敬意を払ってくれないからね!あ、側近のアザリアは別だけど……でもまあ、是非とも今後も敬意を払い続ける様に!親愛なるテレジア。」


「あっ、テレジア。どうだった?」

螺旋階段を降りきった所にオダマキが腕組みして立っていた。

「よく話せた。頭にあった疑問も、大体解消されたよ。」

そう言うと安心したようにオダマキは頷いて時計塔の外に出た。後を追う様に俺も時計塔を後にする。

「王様、もうみんな自分に敬意を払ってくれないって嘆いてたけど……」

「ここでの生活は大変なんだ。ハルモニアが存在するのも、全部あいつの変な理想の結果でね。彼の過去に何があったのかは知らないけど、好きでもないここに囚われて俺たちはウンザリしてるんだ。」

「みんなハルモニアが好きじゃないの?」

「好きじゃない。ここハルモニアは表向きには理想郷だけど、その本質は恐ろしい支配と『脚本』による縛りで成り立っている。遊園地という楽し気な世界観だけど、どこ行っても同じ光景で飽きてきた。しかも遊具施設は四六時中稼働してるから、場所によっては夜中もうるさくて眠れないし……」

見る限りオダマキはハルモニアに対する不満が相当溜まっているようだった。しかし俺の顔を一瞬見て、我に返る。

「みんなお互いのことを『家族』と呼んで親密性をはかっている。だからこれからは、テレジアも我々ハルモニアの『家族』の一員だ。」

家族……。ハルモニアに来る前のことを思い出す。妹のアメリアや母から逃げるように生きていた。でも今は、それに対して後悔の気持ちが飽和するばかりだ。

「まだテレジアに紹介していない家族が三人いるね。アザリアはエリカサイドの人間だから無暗に仲良くできないけど……他の二人は、今ボイジャーにいる。」

「どんな人?」

「男の方はボイジャーの店長で、女の方はサフィニア同様あたりをぶらぶらしてる。放浪者みたいなものさ。」

そんなことを言っている間に、博物館を通り過ぎて俺たちは巨大な建物の前にいた。

「紹介しよう。ここがボイジャーだ。」

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