表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルモニア ~神の用意した脚本を完遂しないと死ぬらしいので、全力でふざける~  作者: 慈雨の羽
第四章『目眩く舞台には、華々しいスポットライトを』
36/41

34,幸せな夢の続き

3459字

瓦礫が転がったままのボイジャー跡地に着き、俺たちはその場に崩れ落ちた。

「アァーッ!もう足が動かない……」

とにかく、フランネルが創設したボイジャーの跡地ならフランネルの力も及ばないはずだ。ここは安全地帯となる。

「少し休もう。体の傷を癒すんだ。」




「ハルモニア……」

時計塔の上層。バルコニーが吹き飛ばされることで閉じなくなった壁の穴から強い風が吹き込んでいた。それにも関わらず、彼女はステンドグラスの光を浴びて静かに王座についている。彼女には大きな王冠が落ちかける。直前で彼女は手で支え、元の位置に戻した。

「夢から……覚める時だ。」

彼女の目の下には涙の痕がハッキリ残っていた。穴から見える巨大なナハツェーラは、エリカの合図を受けて再びライトをつけた。




「見て!彼女、復活してるわ!」

アメリアが指さした先を見る。ナハツェーラの目の針が、最初みたいに光り出していた。

「大丈夫だ。ここならきっと安全だろう。それより、作戦を考えなければ……。」

ノートを取り出し、ナハツェーラ「ハルモニア」のページを開いて地面に置く。三人でそこの能力詳細を凝視した。

しかし、アメリアはノートを手で覆いアザリアを凝視した。

「アメリア?」

「アザリア。あなた、エリカの手先だったよね?こうなった以上、私はあなたを警戒しないといけないわ。」

「そ、そんな……。私は確かにエリカの味方ですが、彼女自身も私の通信を拒絶しています。ほら、連絡が繋がらないんですよ!」

アザリアはおもむろに通信機を取り出しエリカに電話をかけるが、五コール鳴っても相手側が応答する気配はなかった。

「じゃあフランネルは?」

「彼とも連絡が取れません。でもこれは理由が明確です。」

「理由?」

アザリアはアメリアの手を移動させ、地面のノートを捲った。数度捲った先に、フランネルの情報ページが開かれる。

「……これは!」

彼の名前に線が引かれていた。前回よりも、力強く。

「同様に私のノートでもフランネルの名前に線が引かれています。何があったのかは分かりませんが、きっと本当に死んでしまったのでしょう。」

俺とアメリアは目を合わせる。彼は自殺した?さすがに、あれは言いすぎただろうか。

「とにかく、今生き残っている家族はエリカを除いて我々三人です。私はエリカを救いたい。だからこそ、彼女の()()()()()()()()()()()という決断を実現させたいのです。それは彼女の脚本に反しますが……脚本なんかよりも大事な彼女の意志を尊重したいのです。」

「でもっ!」

「アメリア。ここで言い争ったところでどうにもならない。仮にアザリアが俺たちを裏切って殺す計画を立ててたとしよう。俺とお前を殺して何になる?ただ人口が半分になるだけだ。余計ハルモニアの存続は厳しくなる。彼女は、俺たちを裏切るメリットがない。ここは一旦信じよう。」

数秒の沈黙。しかし納得したのか、アメリアはノートを覆っていた手を引いた。

「ご理解感謝いたします。」

「なあアザリア。君の脚本って確か……」

「≪神に忠誠を誓い、神の誕生を見届ける≫というものです。フランネルも同じ内容の脚本を与えられていました。」

「そこにある≪神≫っていうのはエリカのことなのか?エリカは神を自称するけど、それってただの比喩じゃないの?」

「エリカにとって真の神とは創造と終焉の両方を担う者のことです。ハルモニアを終わらせることで、彼女は真の神としての役割を果たそうとしています。」

ハルモニアを終わらせる時、彼女は本当の神となる……ということか。

ずっと口を開けてボーっとしていたアメリアが、とうとう怒り混じりに叫んだ。

「んアァァァァ!もう難しくて分かんない!とにかく、ナハツェーラになった今のエリカにどう対処するの!?もうそれを議論しましょ!」


もう一度ナハツェーラのエリカのページを開く。

≪〇「ハルモニア」エリカ

危険度レベル:7

『能力』

・虚構の理想郷(無条件発動)

「ハルモニア」の核(エリカ本体)は時計塔の鐘の下に存在する。核は遊園地全域にアクセスでき、核を破壊することで「ハルモニア」の全ての運動を完全に停止させることが可能。

・死なない楽園(攻撃手段)

遊園地の各施設はエリカの思い通りに動く(観覧車が横に倒れて回転しながら周囲を轢き潰す・ジェットコースターが突進してくる)。これらの施設は破壊されても時間経過で修復する。

・記憶の詩編(攻撃サポート)

対象の記憶に基づき幻覚を見せる。幻覚を見せている間「ハルモニア」が使える能力は「死なない楽園」に制限される。

『テーマ』

彼女は「理想郷」の象徴であるが故に、住民たちにとって最大の敵となる。≫

「……今更だけど、ナハツェーラ名がハルモニアだから、地名のハルモニアとごちゃごちゃになるな。何か、新しい呼び方を考える?」

「エリモニアとか可愛いんじゃない?」

「じゃあもう、それでいいよ。」

諦めたように半笑いで吐き捨てる。しかしまた真剣な顔に戻して言った。

「『虚構の理想郷』という項目にあるけど、エリモニアの核は時計塔の上層にある。核を破壊すれば鎮圧できるってあるし、そこを目指せばいいんじゃない?」

「じゃあどうやって時計塔まで行く?エリモニアが時計塔内部の螺旋階段も自在に操れるなら、あの王の間に辿り着くのは不可能よ!」

「私に案があります。」

アザリアが呟いた。


アザリアが案を説明し終えたタイミングで、ハルモニア中の防災無線からノイズ音が鳴り出した。

「何だ?」

立ち上がって周囲を見渡す。その時。俺は確かに、ボイジャー跡地の向こう側に佇む()()を見た。

「あれ――」

恐る恐るそれを指さす。それは苦しそうな顔をしつつも、俺に向けて必死に口角を上げようとしていた。包帯が半分以上包帯で覆われ、松葉杖をついている。

「母さん!」

自殺未遂で植物人間になった母さん。アメリアが死んだ直後、俺が殺した俺たちの母さん。

「テレジア、あの人は――」

「母さん!!!」

俺は痛む体を奮い立たせ、母さんの方へ一直線に駆けて行った。もしかして、ハルモニアが新たな住民を受け入れられるようになったのか?ハルモニアは、生者のほか死者も招待できる。死んだはずの母さんがここに訪れるのも、そう無理のない話だ。

「テレジア……アメリア!おいで。」

「ママ!」

アメリアが後ろで立ち上がり、俺を追う様に母さんの方へ駆けて行った。この時点で俺はまだ違和感に気付けなかった。でも、俺にとって後悔の塊である母さんの存在は、そんな違和感をも凌駕する感動を俺にもたらした。

アメリアは俺を追い抜き、そのまま母さんに飛びつく。母さんは弱弱しくもそれをしっかり受け止め、愛娘の額にキスをした。半泣きでアメリアが母さんを見上げている。「二度と離さない」と……。

「……ぇ」

この時初めて俺の脳は違和感を認識した。母さんまで、あと少し。母さんはボイジャー跡地の外に立っている。

「テレジア!」

背後からアメリアの叫び声が聞こえると同時に、俺の中の違和感が明確な輪郭を帯びた。

突風が吹き荒れ、俺の体はボイジャー跡地の中心の方へ吹き飛ばされる。この風はアザリアの能力だ。元いた場所まで吹き戻され、アメリアは俺を抱きしめて叫んだ。彼女の鼓動を直接肌で感じる。

「何してるのテレジア!急に跡地の外に行かないでよ……エリモニアに襲撃されるかもしれないじゃない!」

エリモニアの方へ目をやる。エリモニアは、「あと一歩だったのに」と悔しさを噛み締める様に俺を見ていた。そうか……今俺が見た母は幻覚だ。

「エリモニアは対象に幻覚を見せます。きっとテレジアに幻覚を見せてボイジャーの外へおびき出そうとしていたのでしょう。」

さっき感じた違和感の正体は『アメリアが母さんを知っている』というものだった。ハルモニアに来る以前の記憶がない彼女が、母さんのことを覚えているはずがないからね。

アメリアが腕に力を込める。痛い痛いと半笑いで少し抵抗するも、彼女は俺を手放そうとしなかった。

「先に死なないでテレジア。約束したでしょう?」

一歩遠くで見守るアザリアと目が合う。少し恥ずかしそうに笑ってみせると、彼女も瞳を閉じるなり微笑んで頷いた。アメリアの泣き声が静寂に乗る。


もうこれ以上は、油断できない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ