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ハルモニア ~神の用意した脚本を完遂しないと死ぬらしいので、全力でふざける~  作者: 慈雨の羽
第四章『目眩く舞台には、華々しいスポットライトを』
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30,寒空の下、霏々として、

30話「寒空の下、霏々として、」はエリカ目線で進行します。

私は窓の外を見ていた。暗い病棟。体中に繋がれた管が痛みを送り込んでくる。

「あれ、何?」

空を飛ぶ真っ白のケサランパサラン。町全体を覆う様に降っている。宇宙人の襲来みたいだ。

「あれは、雪です。」

柔らかい言葉だ。看護師が試しに窓を開けてくれる。私は思わず窓枠から身を乗り出して外に手を伸ばしたが、落っこちる直前で看護師が私の服を掴んで室内に引きずり戻した。

「雪というのは、冬の空から舞い降りる小さな魔法のようなものですよ。」

看護師は柔らかく微笑みながら、窓の外の雪を指さした。空は静かに曇り、冷たい風が吹いている。

「とても冷たくて、ふわふわしてますが、手のひらに乗せるとすぐに溶けてしまいます。でも、空の上では一つ一つが美しい結晶の形をしていて、まるで小さな星の欠片のようなのです。」

私は瞬きをした。その瞳に好奇心が煌めく。

「雪は空が大地へ送る白い手紙のようなもの。寒い季節にだけ送られる、内緒のお話なのですよ。一つとして同じ形がないのは、それぞれに特別な物語が込められているからなのです。」

看護師はそっと私の髪を撫でて語り掛ける。

「元気になったら、一緒に外で雪を見ましょうね。手を伸ばせば、きっとあなたにだけ届く雪の物語が、そっと手のひらに降りてくるはずです。」

「私だけの……物語……。」

彼女はサイドテーブルの引き出しから紙束を取り出した。上からバラバラと散らしていき、探していた絵を見つけると私はそれを看護師に見せつけた。

「これが舞台の物語、あるかな?」

「これは……何ですか?お馬さんがいますね。」

「ハルモニア!」

これが彼女にとって非常に分かりやすい説明だったが、看護師にとってその固有名詞は簡単に飲み込めるものではなかった。

「そのハルモニアというものを教えてください。」

「ハルモニアはね、私が考えた楽園だよ!みんなが楽しい遊園地でね、好きな時に好きなだけ遊べるの!お昼はお空が綺麗だし、夜は光る粒がいっぱいで……」

「遊園地なのですね!じゃあ、エリカちゃんは私をそこに連れて行ってください。エリカちゃんの思い描いたハルモニアで、一緒に心行くまで遊びたいです。」

私の頭を撫でる看護師は、パンダみたいな顔だった。

「パンダ!」

「パン……パ、パンダ?……ぁ、もしかして……。」

看護師は目の下の黒い部分を何度か押して、少し悲しそうな顔を作る。

「どーしたの?」

「……いいえ。確かにパンダさんそっくりですね。」

看護師が笑うから、私も笑う。しかし看護師は一瞬病棟の扉を見て、小さな悲鳴を上げた。でもすぐ口を押さえて、私に笑顔を作る。

「ねえ、なんであなたは私に優しいの?」

「え?」

「他の看護師の人ね、私に冷たいのよ。今日初めてあなたに会うけど、あなた私の話全部聞いてくれる!」

「あァー……エリカちゃんのお話は楽しいからね!ごめんねエリカちゃん、私お仕事いっぱい溜まってるから、ちょっと片付けて来るね。片付けたら、またあなたの夢を聞かせて。」

看護師は私の額にキスをすると、肩を縮めて病棟の外へ出た。直後病棟の外で大きな怒声が聞こえたけど、きっとあの人は関係ないのでしょう。


次の日。あの看護師は毒物を自身に打って命を絶った。二度と、彼女は私の前に姿を現さなかった。

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