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ハルモニア ~神の用意した脚本を完遂しないと死ぬらしいので、全力でふざける~  作者: 慈雨の羽
第四章『目眩く舞台には、華々しいスポットライトを』
30/41

28,違和感

3212字

一人増えたリコリス工房。フランネルが美味しそうに朝食を頬張っていた。

「んー美味しい!ボイジャーにいた頃はオダマキとメイがいつもご飯を作ってくれてたんだ。なんだか似た味がして、懐かしいな……」

「今度はフランネルを連れて墓参りに行こう。てっきりフランネルは死んだものだと思ってたから、間違えて余分な墓も置いちゃったな。」

「ははっ勝手に殺すなよ!」

肩を叩かれる。フランネルはボイジャー襲撃事件の際サフィニアに誘拐され、そこで両足を怪我したらしい。松葉杖をつく彼の姿は、どこか胸に刺さるものがある。

その時チャイムが鳴った。アメリアが出て行く。きっとアザリアだろう。残された俺とフランネルは同じタイミングで飲み物を口に含んだ。

「ここ、どうなっちゃうんだろうね。」

「ハルモニア……嫌いな場所だけど、いっぱい思い出あるからなぁ……。」

俺の手が止まる。

「フランネルは、ハルモニアが嫌いなの?」

「ここは表向きには理想郷だけど、腹を裂いてみると、本当はは恐ろしい支配と脚本による縛りで成り立っている。嫌な場所だよ。」

「……」

「どうしたの?こっち見て。」

「いや……昔、オダマキも全く同じことを言ってたから。」

ハムとレタスとトマトを薄いパンで包み、軽くジャムを塗って一口食べた。……ジャムがいらないな。

「やっぱりみんな考えることは一緒なんだよ!僕も親しい家族が死んでいって、なんど鬱になりかけたことか!」

「ねえ二人。」

玄関の方からアメリアが顔を出す。

「どうしたんだいアメリア。」

「アザリアが、フランネルに用事があるって。」

何を言うでもなくフランネルは松葉杖をついて立ち上がり、玄関の方まで向かった。別れ際、振り向きざまに頭を下げる。

玄関が閉められ、今度は俺とアメリアの二人きりになった。

「あ、彼ノートを忘れてるわ。」

「まあどうせすぐ戻ってくるよ。」

アメリアはフランネルのお友達ポケットを手に取りパラパラとページを捲った。

「うわ、見て。彼のノート落書きでいっぱいだわ。」

「本当だ。これリコリスやメイの似顔絵じゃない?ふっ。」

違うページには、また別の人の似顔絵が書かれている。きっとみんな、彼の大切な家族だったのだろう。アメリアは自分のノートを取り出し、色々なページを見比べていた。

「脚本の項目以外は全部同じだろ。」

「ええ同じだわ。でも奇妙ね。死んだ人の名前にはリアルタイムで線が引かれるなんて……ん?そういえばフランネルの名前って線が引かれてたよね?」

アザリアと初デートをした日のことを思い出す。確かに、ノート上ではフランネルの名前に線が引かれていた。彼は、死んだものとして表記されていた。

「フランネル……フランネル……フランネル……見つけた!あれ、今はもう線が消されてるわ。」

「名前に引かれる取り消し線って、消えることあるんだな。」

このままいっそ全員の取り消し線が消されてほしいが、そんなミラクル起きるわけないと落胆する。顎を机上に落として低く呻いた。

飽きたのか、アメリアは彼のノートを元の位置に戻して立ち上がった。昼寝するのか知らないが、そのまま二階に上がって行く。

完全に俺だけの空間になった。今度は俺が彼のノートを手に取った。後ろからページを捲り、一つ一つ下手な似顔絵を鑑賞していく。

「……星が多いな。」

似顔絵がたくさん描かれているが、何もない空間には小さな星がたくさん打たれていた。たまにブラックホールみたいなものも描かれている。確か彼、宇宙が好きとか言ってたな。俺も昔少しだけ宇宙の神秘に惹かれたことがある。一時宇宙飛行士になりたいと願ったりもした。でも宇宙関連の仕事は膨大な知識と学力が求められる。俺は中学を卒業するなりすぐ働く決断をしたから、勉強できず宇宙飛行士の道を諦めたな。ノスタルジーな悲壮感が体内を駆け巡る。

ずっとページを捲っていると、とうとう裏表紙まできた。そこには『あなたの脚本』と大きく書かれており、下に書かれていたのは……

≪本屋を開設し、自身に忠誠を誓った仲間を守る≫。

「ん?」

この時妙な違和感を感じた。でも違和感の正体に気付けない。この短い文から俺は何を読み取ったんだ?読めば読むほど違和感の正体が分からなくなる。

忠誠という言い回しに違和感があるのか?いや違う。言い回しとか言葉遣いとかの問題じゃない気がする。それはもっと……こう……恐ろしい違和感が……。

その時玄関が開く音がした。振り向くと、フランネルが返ってきていた。

「ただいま!あ、僕のノート盗み見するな!」

「おかえり。何の話だった?」

「ん?あぁ、次回の非常事態特別講演の日程決まったらしい。一週間後だって。」

なに!?ハルモニアの今後について、エリカはもう結論を出したのか?存続か、滅亡か……。前回から数日経っているが、内容の重要さを踏まえるとかなり早い決断だと言える。

「とりあえず俺たちも心の準備をしよう。どっちの答えが返ってきてもいいように、心の準備を……。」

「そうだね。あ、そういえばアザリアが君に会いたがってたよ。渡したい物があるとかなんとか。」

「その場で預かってくれたらよかったのに。」

「いや、直接渡したいらしい。まあ今度会ったら受け取ってあげなよ。」

茶化すように肩を叩かれ、フランネルはそのまま二階に上がって行ってしまった。俺も空になったチョッキを重ねてシンクに運んだ。大きく伸びをしてあくびをする。俺も寝ようかな。寝るで思い出したけど、そういえば今朝の夢は何だったのだろうか。ハルモニアを取り込んだようなエリカの姿……。




布団の中。朦朧とする意識で俺は考え事をしていた。それはフランネルの脚本を読んだ時の違和感についてだ。違和感の正体は何だろう。

≪本屋を開設し、自身に忠誠を誓った仲間を守る≫

フランネルは脚本の指示に従って本屋ボイジャーを開設した。脚本にある『自身に忠誠を誓った仲間』というのは、そこで雇った店員のことじゃないのか?メイやオダマキ、俺の知らない先人も何人か含まれているだろう。

そう考察した直後、メイの遺体を初めて見た時を思い出した。裏口のロッカーの前で首を斬られたメイの遺体。青空の下、第一発見者のリコリスは大粒の涙を流しながら彼女を抱いて叫んでいた。後で駆け付けた俺とアメリアも、それを見た途端に膝から崩れ落ちた。アメリアは、吐いたっけな。

次に思い出したのはオダマキ……スターゲイザーの死に際だった。時計塔の前、星を模した光の粒子に囲まれて彼は苦しそうに立っていた。彼は俺の腕の中で死んだ。彼に「心配するな。全部、引き継いでやる。」とは言ったが、俺は彼の意志を彼の思う様に継げただろうか。俺は彼を、見送れたのだろうか。

そしてフランネルの脚本の連想に戻る。自身に忠誠を誓った仲間をボイジャーの店員たちと考えるなら……。


「……」

朧げな意識が徐々に輪郭を帯びていく。違和感の全体像がハッキリ見えてきた。脳内を包んでいた霧が晴れていく。

『≪仲間を守る≫』

『サフィニアは何らかの理由で彼を誘拐した』

『アザリアはフランネルの生存を知っていた』

『フランネルはアザリアにこっそり救出されていた』

「……そういうことか。」

色々繋がってきたタイミングで、ついに疑問は一つに絞られた。絞られたというより……全ての情報を踏まえて、新たな疑問が生まれたというべきだろう。

「彼は……














































彼は、ボイジャーの仲間を誰も救えなかった。その時点で脚本の完遂は不可能と断定できる。なのにどうして彼は、()()()()()()()()()()()()()のだ?」

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