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ハルモニア ~神の用意した脚本を完遂しないと死ぬらしいので、全力でふざける~  作者: 慈雨の羽
第四章『目眩く舞台には、華々しいスポットライトを』
28/41

26,生きる高潔

2542字

「今日は君が遅刻か。」

半泣きで駆け寄るアザリアを両腕で迎える。胸に飛び込んできた彼女の小さな頭をしっかり包み込んだ。

「エリカと話してて遅れました……」

「いいよ。むしろこれでお互いの遅刻罪が相殺されただろう?さぁ行こう。」

二回目のデートに特に意味はない。強いて言うなら、前回の『アザリアの素性を知る』のがちょっとした理由だ。

並んで歩き出す。相変わらず彼女の背は小さいな。するつもりはないが、無理矢理抑え込んで襲ったら勝てるのではないか?しかしそう考えた直後、サフィニアを短時間で粛清したアザリアを思い出した。さっきの想像の続きになるが、襲っても返り討ちにあって死ぬ自分を想像する。

「何考えてるんですか?」

「いや、何も……」

彼女は俺の手をすくいあげる様に手に取った。初の恋人繋ぎに心臓が破裂しそうになる。

「ちょ、それは……」

「え、あ、すみません。何となくこの繋ぎ方だと、手のひらが均等に温められると思って……。この繋ぎ方に何か意味とかあるんですか?」

上目遣いから目を逸らす。まあこの辺のことを知らなくても当然か……いや逆に知っていて策士を演じてるのか?俺は気にせずその繋ぎ方で手を繋いで歩いた。


「っアー!」

「俺の圧勝だな。」

的当てゲームで俺は彼女の数倍の点を叩きだした。何度繰り返しても同じ結果が表示されるので、とうとう彼女は拗ねてしまう。そんなこんなで色々あったが、最終的にまたあのバイキングに辿り着いた。

「今日はいっぱい食べるんですね。」

「そのために空かしてきたから。」

席に着く。前回ここで軽い知能戦を繰り広げたからか、この席に座ると無意識にアザリアに探りの手を入れてしまいそうだった。まぁ、軽く前回の続きをするつもりではあった。

「あれから数日経ったけど、結論は出た?脱出の件。」

「それについてなんだけど……」

彼女は俺の目をしっかり見つめて言った。

「協力するわ。」

「ほ、本当!?」

思わず訊き返してしまった。正直彼女なら拒否すると考えていたからだ。彼女は言葉を続ける。

「ええ、本当。でも一つ条件があるわ。」

「条件?」

「エリカを、助けてあげてほしい。」

真剣な面持ちでそう答える彼女に、俺は一つ問いかけた。

「助ける……って……。」

「彼女は今、ハルモニアを存続させるか滅亡させるかの二択を迫られている状況なの。私は彼女の理想郷であるハルモニアを、彼女のために存続させたい。でも人が少なすぎてハルモニアの存続は厳しい状態だし……」

「……そういえばエリカ、前の演説で『訳あって新たな住民は招待できない』みたいなこと言ってたよね?あれは何なの?」

「ハルモニアのエネルギー源は、住民の脚本を完遂させる意志なの。意識空間に築かれた巨大なハルモニアを存続させるためには膨大なエネルギーが必要。でもここの住民が減って、その分エネルギー源が減った。結果ハルモニアは新たな住民を迎える余力がなくなって、現存する住民だけで()()に向かってるの。」

「……なるほど。大体分かった。じゃぁ、エリカがここまでハルモニアの存続に固執する意味は?当然ハルモニアが彼女の心の支えだからっていうのが理由の大部分だろうけど、正直俺には別の使命的な理由があるように感じるんだ。だって、夢の国という肩書きに固執するだけならハルモニアを捨てて新たな楽園を開設すればいい。」

「……実はね、」

話の途中で大きく深呼吸をし、アザリアは呟いた。

「実はね、エリカにもエリカの脚本があるの。」

不穏な風が地を這い、カラスの声が外で聞こえる。

「エリカの……脚本?」

「私は彼女の側近だから知ってる。私が教えることをエリカに言わないって約束してくれるなら、特別に教えてあげる。」

「分かった!言わない。」

もう食べ物なんて飾りみたいなものだった。彼女は身を乗り出して手を口に添えた。俺も腰を上げて彼女の口に耳を寄せる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……なるほど、だからエリカはハルモニアと言う存在に固執するのか。」

「ハルモニアの完成こそエリカの脚本なの。」

「じゃあ逆に今のハルモニアは未完なの?」

「まあ、そういうことになる。エリカが想定してるハルモニアの全体像がどんなものかは知らないわ。ただ、脚本に書いてあることからハルモニアイコール永遠の楽園って事が分かる。つまりハルモニアを()()の存在にしなきゃいけないってことは脚本完遂の条件として確実だと思うわ。」

「住民の脚本がエネルギー源なら、それは構造的に不安定すぎる。つまりハルモニアのエネルギー源を別の、確実なもの……永久機関に似たものに変更させればいいんじゃないか?」

「永久機関なんて存在するの?」

「丁度リコリスがその辺に詳しいんだ……」

悔しくて机を叩く。彼女も、いないリコリスを恋しそうに悶えた。とはいえ、永久機関が存在しないことくらい俺でも知ってる。どの道ハルモニアの滅亡は避けられない運命なのか?

「……もう、諦めるしかないの……?」

力なく呟いた次の瞬間。

プルルルル、プルルルル。

アザリアの服の中で何かが鳴った。彼女は通信機を手に取り画面を見て……思い出したように口を開けた。

「話変わるんだけど、テレジア。来て。」

「えっ何?」

「いいから来て。あなたたちの脱出計画に協力するって言ったでしょ?その上であなたに一つ見せたいものがあるの。」


言われるがままについて行った先、俺とアザリアは廃墟と化したビルに辿り着いた。

「ここは……」

「サフィニアが死んだホテル。軽く修復作業が進んでるわ。」

アザリアは瓦礫の上で立ち止まった。そして大声で叫ぶ。

「さあ、出ておいで!」

直後、ピロティ―の柱の向こうで音がした。瓦礫の転がる音だ。影から何かが姿を現す。そこから出てきたのは……

「ッ……!」













































「や!」

松葉杖をつくフランネルだった。

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