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15,墜星

2940字

「……ぁ。」

思わず声が漏れる。ここはリコリス工房の二階にある特殊実験室だ。ベッドと、横に添えられた点滴が印象的である。そのベッドに横たわる彼が目を覚まし、俺は思わず下階に向かって叫んだ。

「オダマキ起きたぞー!」

ドタンバタンと忙しい音がした後、爆速で階段を上ってくる音が近づいて来る。ものすごい勢いで扉が開かれ、アメリアが顔を出した。

「オダマキ!」

アメリアはオダマキに歩み寄り、彼の細くなった頬を両手で覆った。

「あなたは生きてるわ!燃えるボイジャーを私とテレジアが見つけて、すぐリコリスやアザリアと救出作業にあたったの。階段前で倒れたあなたを見つけて、本当心臓が止まるかと……」

「彼らは……」

「え?」

「メイ……t……フラン……n……」

興奮していたアメリアの肩がゆっくり下がっていく。俺も、思わずオダマキから目を背けた。

「えーっと……フランネルは行方不明。」

「メi……」

「メイは……」

アメリアは助けを求めるように俺を見てきた。一呼吸おいて、俺は一歩前に出る。そしてしっかりオダマキの目を見て、微かに震える全身を律して言った。

「メイは、ロッカーの前で死体となって見つかった。」

微動だにしないオダマキ。ただ細い目で天井を見つめている。重い沈黙が流れて、彼の瞳から光が失われるのを確認した。

彼に言うつもりはないが、メイは首を斬られて死んでいた。逆に、それ以外の損傷は見つからなかったが。彼女の死でオダマキは相当な精神ダメージを負うだろう。しかし、同じレベルで精神がズタボロにやられた人物が他にいる。

「アメリア。リコリスの様子を見てきてやってくれ。」

リコリスはメイの遺体の第一発見者だ。メイの死を受けて以降、ずっと寝たっきりで……。リコリスにとってメイは実験対象である以前に親友だったのだ。

オダマキの口から、微かに空気の音がする。こうして呼吸はしているものの、それはまるで……死んでいるようだ。

「……そう、か……」

「あまり聞きたくはないだろうけど、サフィニアについてだ。今回の事件はサフィニアが起こしたと俺とアメリアは踏んでいる。ただ、肝心のサフィニアだが……ボイジャーに来た痕跡は見つかったものの、本人はどこにも見つからなかった。きっと逃走している。」

あまり追い打ちをかけない方がよかっただろうか。彼の呼吸音は段々薄くなり、やがて逆再生するように目を閉じた。点滴の落ちる音がする。全身に管を繋がれて、彼は苦しそうだった。


今回の事件はハルモニアの『家族』に大きな衝撃を与えた。フランネルは遺体が見つからなかったから何とも言えないが、人物として消失したことに変わりはない。九人しかいない家族から、一気に二人が消えた。残っているオダマキも、正直時間の問題だろう。サフィニアについても負傷の状態が分からない。もしかしたら逃亡先で死んでいる可能性がある。とにかく、まだボイジャー襲撃事件について俺やアメリアが全貌を掴めていないため何とも評価できない。そうして頭を抱えていると、工房のベルが鳴った。来客だ。

「ごめんテレジアー。今お粥作ってるから代わりに出てくれる―?」

「はーい。」

階段を駆け下りて、甘い匂いに包まれながら玄関に向かう。せわしなく鍵を解除してドアを開けると……。

「こんにちは。エリカ直々に派遣されましたアザリアです。今朝はボイジャーの人命救助を手伝っていただきありがとうございます。」

「あ、いえいえ。こちらこそありがとうございます。」

「オダマキさんの様子はどうですか?」

「つい一時間ほど前に意識が回復したんですけど……メイの訃報からまた寝込んじゃって……。」

「あらあら。とりあえず今は安静にしておきましょう。甘い匂いがしますが、夕飯ですか?」

「あ、はい。いもu……アメリアが、お粥を。」

「そうでしたか。これから夜で冷え込むと思うので、皆さん体を温めて寝てください。」

アザリア。美しいほどの純白の髪だ。エリカとの忠誠を表す花冠が生き生きとしていて、神々しい。

「あ、アザリアさん。」

「はい?」

「あのー……質問、というか相談いいですか。」

「何なりとお申し付けください。」

今朝からずっと不安だったことを告白した。

「オダマキのことなんですけど、メイの死は脚本の未完が確定したってことですか?」

「……といいますと?」

「オダマキの脚本は『本当に愛するべき人を見つけ、共存の意味を模索し、結論を出す』というものです。共存とは人間とナハツェーラの共存と言う意味だと思うのですが、共存の可能性を秘めていたナハツェーラであるメイが死んで、彼は結論を出せなくなったのでは?」

「……おっしゃる通りですね。」

「だとすればオダマキはナハツェーラになってしまうのでしょうか?」

「人間がナハツェーラになる際には、特殊な電波が発生します。時計塔にはこの電波を感知するシステムが搭載されているのですが、今そのシステム履歴を振り返っても、電波の受信記録はありません。なので今の段階では、オダマキさんはまだナハツェーラになっていません。今後も看病を続けてやってください。もしもの場合に備えて。」


それぞれオダマキとリコリスにお粥を運んだ後、俺とアメリアは一階で静かに食事をとっていた。

「アメリア。」

「んー?」

「人間がナハツェーラになったら、どう判断すればいいんだろう?」

「時計塔にある電波受信記録を見るのが一番だけど……身近な手段なら、ノートかな。」

そう言って彼女は得意げにお友達ポケットを取り出した。

「ノートはリアルタイムで『家族』情報を載せるの。もし家族の誰かがナハツェーラになったら、家族一覧からその人の名前が消されて、逆にナハツェーラの項目が増える。」

「ふーん。」

自分のノートを取り出してパラパラ捲ってみる。ナハツェーラの項目は多く、危険度レベルや細かい能力まで記載されていた。

「能力まで見れるんだ……」

「見てて面白いでしょう?危険度レベル高くなっていけば高くなるほど、どうやって処されたのか気になって考察が捗るの。」

「見たところ危険度レベル6が一番高そうだけど……」

「一応上限は7。でも、まだ現れてないのよ。現状6が一番高い。」

そう言って彼女は白ご飯を口いっぱいに詰め込んでむせた。ゆっくり食えよと宥める。窓の外は、もう真っ暗だった。寒いな。


アメリアに「おやすみ」を言って部屋の電気を消した。さて、俺も自分の寝る部屋に向かうか……と思ったが、その前にオダマキを一目見てこようか。流れで二階の階段を上り、短い廊下を歩く。オダマキのいる部屋の扉をノックし、開けた。

「ッ!?」

開いた窓から風が流れ込んでいる。ベッドの上には、誰もいなかった。急いでノートを取り出して『家族一覧』の項目を開く。オダマキ……オダマキ……オダマキ…あった!あった……が、その名前には





























































線が引かれ、その上に『→p.210へ』と書かれていた。ちなみにだが、『ナハツェーラ』の項目はp.160から始まりp.250で終わる。

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