14,泥沼
1300字
≪この手紙は、私サフィニアという存在があったことを未来永劫ここに残すために書く。もし自身の脚本『一度信じた正義を信じ、信念を貫き通し、強者を演じる』というものを完遂できずナハツェーラ討伐で死んだ時のためである。もしもの事態に備えて手紙は三部に分ける。そしてこれが三つ目だ。
長い夢の末、私はここ夢の国ハルモニアに辿り着いた。どうやらプールが現実と夢の出入り口らしい。プールの上で目が覚め、愉快な遊園地に足を踏み入れた時のことはよく覚えている。不安を胸に寄せながら私は歩いた。エリカという人物に会えばいいのは分かったが、どこにいるのか分からない。果てしなく歩いた末、私は時計塔の足元に辿り着いた。ここにエリカがいるらしい。しかしどこに?当ても分からず周囲を散策していた、その時だ!茂みの中から彼が姿を現したのだ。あの、奴隷時代を共にした言葉の分からない男。感動で泣いたのを覚えている。
ここは夢の国であり、私は声が出せるようになっていた。久しぶりに聞く自分の声は不思議で、本当にこれで合っているのか不安になる。しかし一番良かったのは言語共通システムだ。全国から人が来る関係で、お互い違う言語で喋っても意味が通じるらしい。そしてようやく私は彼の言葉を聞くことができた。以下は、思い出せる限りの記録である。
「会えるだなんて、思わなかったよ!」
「私も思わなかった。とても嬉しいわ。」
「僕も、嬉しい。サフィニア?が、好き。」
それから彼と遊園地中を散策した。日中問わず運営しているものだから一日中遊んだりもしたが、それだとさすがに三日足らずで飽きてしまった。他の住民の案内の元エリカと顔を合わせ、この世界について色々聞き出した。
「ここは不滅の楽園だ。」
彼は私の手を取って、社交ダンスでも踊るかのように優雅に舞った。
「こんなダンス、どこで学んだの?」
「いつか君と踊るために覚えたんだよ。ほら、手を取って。」
月日は流れ、ハルモニアでの生活も慣れてきた頃。私たちは一つだけ知らないものがあった。いや、知らなかったわけではないのだが、会ったことがなかったから理解が浅かった。もし私たちがナハツェーラと言う概念に対してもっと真剣に向き合っていたならば、あんな悲劇は生まれなかったのだろうか。
ある時二つの頭を持つ巨大な鳥と対峙した。それは空から舞い降りてきて、私たちに叫ぶ。
「逃げて!」
そう言って彼は私の前に立った。
「やめて、そんなことしたら……!」
しかし運命は別れの言葉すら許さないらしい。充分なやり取りをすることもなく、鳥はその巨大なくちばしで彼の心臓を貫いた。
そうして今の、ナハツェーラ狩人の私が生まれた。三枚目は記述が少ないと思われるかもしれないが、本当に書くことがないくらい一瞬の出来事だったのだ。ここは不滅の楽園ハルモニア。しかしそれは表向きの顔であり、真の姿は希望を剝奪する闇の巣窟だ。
この記録は全てまとめて同じところに埋めておく。時計塔横の芝生、私と彼が再会した木の下に埋めておこう。誰かが、この星を拾ってくれることを祈っている。≫




