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13,旋律の蝶

3056字

13話「旋律の蝶」はオダマキ目線で進行します。

ボイジャーは炎に包まれ、棚や本が崩れ落ちる中、火の粉が舞っていた。煙が視界を曇らせ、周囲には崩れた壁や焦げた紙の匂いが漂う。かつての安らぎの場は、今や戦場と化していた。

「残念だ。」

サフィニアが高速で間合いを詰め、炎の反射で剣先が閃く。銃を構えながら反射的に後退するも、刀は減速することなく空を裂き、俺の肩を掠めた。その一撃が壁に深々と突き刺さり、瓦礫が崩れ落ちる音が響いた。煙の中、彼女の姿がぼやけながらも、冷徹な気配だけが明確に迫ってくる。

体勢を整えながら銃口を向けて引き金を引いた。鋭い銃声が炸裂し、火の粉と共に弾丸がサフィニアの胸元を狙う。しかし彼女は微動だにせず、一歩踏み込むと同時に刀の軌跡で弾道を逸らした。鋼と銃声の衝突音が混ざり、火花が一瞬明るく燃え上がる。

「遅い。ついてこい、オダマキ。」

低く響く声と共に、彼女は刀を振り上げ、正確無比な斬撃を繰り出す。咄嗟に横へ飛び退くも、剣先は頬を掠め血を噴き出させた。足場が崩れる音と共に床へ転がり込む。起き上がる間もなく、視界の端にサフィニアが再び間合いを詰める姿が映った。

今度は銃口を下げたまま、俺は一瞬の間を使って距離を測った。近距離で撃つべきか、それとも次の動きを誘うべきか……、迷いを払拭するように体を低くし、彼女の足元を狙って弾を撃ち込む。

弾丸が床板を砕き、木片が飛び散る名か、サフィニアの身のこなしはまるで炎に舞う影のようだ。一切無駄のない動きでかわし、間合いを更に詰めて来る。圧倒的な速度と正確さに、思わず眉間に冷や汗が滲んだ。

「まだ……まだッ!」

歯を食いしばり、次の一手に意識を集中させた。崩れかけた床、燃え上がる棚、空間全体が緊張に包まれる。俺は後退しながら、足元の瓦礫に躓きそうになるのを踏みとどまった。銃を構えた腕が微かに震えるのを自覚しながらも次の攻撃の機会を伺う。しかし彼女は追撃せず、その場で静かに立ち止まった。刀を横に下ろし、炎の明滅に照らされた目が俺を射抜いている。

「動きが鈍ったな、オダマキ。」

彼女が口を開く。低く、鋭い声。俺は大きく息を吐きながら体勢を整え、銃を構えたまま僅かに動きを止めた。

「……違う。お前が、速すぎるだけだ。」

彼女が薄く笑ったように見えたが、すぐにその表情は消えた。剣先をゆっくりと床に向けて、軽く息を吐く。

「お前はその銃で、何を守れると思っている?」

その言葉に眉をひそめ、銃を握る手に力を込めた。

「守れるものがあるから、俺はこれを選んだんだ。」

その返答を聞いて、サフィニアの目が僅かに細められる。

「本当にそうか?お前は本当に、それを信じているのか?」

炎の中、二人の視線が交錯する。緊張の中にも一瞬の静寂が訪れ、激しい攻防が一旦減速する。焦げた本の匂いと燃え盛る炎の熱が、俺たちの心を駆り立てていた。

「刀はどうした。私はお前に剣術を教えたはずだ。」

「刀は、もう触っていない。ここに来てからは、銃だ。信念は変わったんだ。」

「……そんな脆い信念で守れるものなど何もない。」

「信念を変えることが脆いなんて思うのは、お前が変わるのを恐れているからだ!」

俺の言葉に彼女の瞳が一瞬揺らいだ。その僅かな変化を見逃すことはなかった。彼女が刀を持つ手が僅かに強張り、その剣先が床に向かって微かに傾く。燃え盛る炎がその横顔を赤く照らし、いつも冷徹な彼女の表情に人間らしい影を落としていた。

「変わるのを……恐れている、だと?」

彼女の声が低く漏れる。だがその言葉にはいつもの冷静さはなく、どこか押し殺した感情が混じっている。

俺は銃を構えたまま、荒い息を整えつつ視線を固定した。彼女の反応が、俺の胸の奥で燃え盛る何かを刺激する。だが、ここで容赦なく仕掛けるべきか、それとも……。迷いが生じた。

直後、彼女は鋭く顔を上げた。揺れる感情の一瞬を押し隠すように、瞳に鋭い光を宿す。

「その口ぶり……お前に何が分かる……ッ!」

瞬間、刀が光を裂いて振り下ろされる。反射的に飛び退いたが、遅かった。俺の肩口を掠めた剣先が深く肉を裂き、鋭い痛みと共に血が噴き出した。

「クソッ!」

歯を食いしばりながらも壁にぶつかるようにして後退し、銃口を彼女に向けたまま必死に体勢を整える。

だがその時、俺は気付いた。彼女の瞳が鋭さを保ちつつも、その奥が痛みに歪んでいるのを。その目はまるで自分自身を否定するような色を帯び、鋭い一撃を繰り出した直後のその手は、一瞬の迷いを孕んでいるようだった。

「お前……」

俺は息を切らしながら声を繰り出す。

「その刀の重みすら、今は迷っているんだろう!」

その一言が彼女の心を深く抉った。彼女の顔が凍り付き、刀を握る手が微かに震える。その動揺を隠すように強引に体勢を整え直すが、その仕草は確実に俺に伝わった。

「黙れ……」

低く呟くが、どこか戸惑いを感じさせる。

その瞬間、俺は隙を見つけた。しかし動かなかった。それが自分の弱気なのか、目の前の相手への戸惑いなのか、自分でも判断できない。

「本当にそれがお前の信念なのかよ、サフィニア……!お前の正義って何なんだよ!」

炎が再び爆ぜ、二人の間に緊張が張り詰める。

息を整えようとしたが、肩の傷口から流れる血が体力を奪い続けていた。視界が滲み、燃え盛る炎の熱が皮膚を焦がすように感じる。目の前にはサフィニアが静かに立っている。彼女は刀を構え直し、微動だにせず俺を見据えていた。

「これ以上は無駄だ。」

静かに彼女が言う。その声には冷たさが戻り、迷いは消えていた。

「無駄かどうかは、俺が決める……!」

血を吐き捨てるように答え、銃口を真っ直ぐ彼女に向けた。

彼女は一瞬だけ目を細めた。次の瞬間、炎の反射を裂くように前方へ踏み込む。その動きは速く、鋭い。俺は反射的に引き金を引いた……が、弾は壁を砕くだけで、彼女の動きを捉えることはできなかった。

「ッ……」

後退しようとしたが、足元が瓦礫に滑り、体勢を崩す。次の瞬間、彼女の刀が振り下ろされた。


鋭い閃光が走り、咄嗟に銃を盾のように構えた。金属と金属がぶつかり合い、火花が散る。しかしサフィニアの一撃の威力は凄まじく、銃は手から弾き飛ばされた。俺は勢いよく後方の階段の手すりに叩きつけられた。

「終わりだ、オダマキ!」

しかしその瞬間、俺は最後の力を振り絞り、腰のホルスターから隠し持っていた小型の銃を引き抜いた。距離は至近、迷うことなく彼女の脇腹を狙って引き金を引く。

弾丸は正確にサフィニアの体を捉えた。彼女の表情が一瞬だけ苦痛に歪み、僅かに後退する。その隙に俺は体を起こそうとしたが、膝が崩れ、手すりにもたれるように崩れ落ちた。

彼女は傷口を押さえながら、苦しそうに息を吐く。それでも刀を持つ手は揺るがず、冷たい瞳で俺を見下ろしている。

「まだ……その程度か。」

彼女は苦しそうに言いながらも、口元に薄い笑みを浮かべる。そして一歩、また一歩と後退しながら、カウンターの奥に続く廊下へと向かって行った。

俺はそれを止める力もなく、ただ彼女の背中を見送ることしかできなかった。視界が暗く揺れ、炎の音が遠ざかっていく。血に濡れた手すりにしがみつきながら、かろうじて意識を保とうとする。

「……ボイジャーは、まだ……終わらせない……」

掠れた声が空しく響き、俺の体は力尽きたようにその場に倒れ込んだ。燃え盛る炎と崩れ落ちる本棚の音が、俺の意識をかき消していった。

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