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12,正義の灰燼

3197字

12話「正義の灰燼」はオダマキ目線で進行します。

時計塔が真夜中の鐘を鳴らした時。悪夢は突如として訪れた。

「イヤァァアアアアアッッ!!」

食器の割れる音がボイジャーのフロントまで響く。続けてもの凄い爆発音が正面入り口の方から聞こえた。

「メイ!」

見ていた宣戦布告の紙を机上に置いて、俺はすぐ自室を飛び出した。今のメイの声は……娯楽室か?早く向かわねばっ。

階段を駆け下りる途中、最悪の事態が頭をよぎる。いや、予想はしていた。予想はしていたが、こんないきなり爆破なんてあり得るか?俺の記憶の()()は、何も隠さず正々堂々正面から立ち向かう模範的な人間だった。

カウンターを勢いで乗り越え、廊下を突っ走る。娯楽室の扉の前に着いて、迷うことなく扉を開けた次の瞬間。


もの凄い爆音とともに高温の風がボイジャーの廊下を駆け抜ける。巻き起こる黒煙に包まれて俺は吹き飛ばされた。




























目が覚めるとそこは炎の海だった。あちこちで火の粉が散っている。痛む頭を抱えながら上半身を起こす。ここは……ボイジャーの中庭だ。割れた窓が視界に入る。その破片は中庭側に散っていた。

きっと娯楽室の中で爆発が起こり、正面にいた俺は吹っ飛ばされたのだ。その際窓を突き破って中庭まで飛んだ……と。

「……メイ……フランネル……!」

よろよろと立ち上がり、壁に手をつく。

「サフィニアだ……。」

結局事前に防ぐことができず、のうのうと襲撃されてしまった。力が抜けて、膝から崩れ落ちた。悔しさで地面を全力で殴る。

全てあっという間だった。そう、全てが一瞬の出来事だった。俺が喋る暇もなく、視界の全てが燃えた。遠くでまた新たな爆発音が轟く。

「……はぁ……」

「誰……か……っ!」

声……?……声!

「どこだっ!」

喪失感を忘れ立ち上がる。周囲を見渡すと、割れた窓の外…廊下でか細い手が振られていた。壁に手をついて、建物沿いを歩く。廊下の窓に手を掛けて前のめりになった。腹を窓枠に乗せて、勢いで廊下側に転がり込む。何かが折れる音がして廊下側に倒れ込んだ。

「オダマキ……」

目を開けると、そこには片腕を喪失したメイが座り込んでいた。壁に背をつけて、伏目がちにこちらを見ている。

「あぁ、メイ。俺だよオダマキだよ……。今にも死にそうか?話せるか?」

彼女の顔を覗き込むように語り掛ける。あぁ……全部俺の責任だ。俺が事前にあの手紙のことを相談せず一人で解決しようとしたから、予想していなかった襲撃方法に手が打てなかった。ちゃんと話して対策さえしていれば……ボイジャーは失っても、メイの負傷は防げたんじゃないだろうか。そんな自責の念に押し潰されそうになる。俯いていた俺の顎にメイが触れる。添えられた指が上げられ、自然と目が合った。いつもの光が失われた彼女の瞳。

「オダマキ……」

「メイ、無理に喋らなくていい……。先に言うと、これはサフィニアの仕業だ。言う間でもないだろうが、彼女は君を狙っている。俺はこのままホールの方まで行ってフランネルとサフィニアを探すから……君は熱くないところへ逃げるんだ。」

「ごめん……なさい……」

「君は悪くない。全部俺のせいだ。」

よろよろと立ち上がり、メイに背を向けて屈む。首に腕を回され、彼女の足を精一杯の力で持ち上げる。落ちないように揺すって、俺はボイジャーの裏口へ向かった。

こんな風にメイをおんぶしたのは、いつぶりだろうか。ずっとずっと前……。俺がボイジャーに勤めることになった日のことだろうか。リコリスの元で薬剤を打たれまくり、副作用で体が成長したメイと対峙した。でも彼女の性格は変わっておらず、俺に抱き着いてきたっけな。その時おんぶしたのが、今では一番古い楽しい記憶だ。

炎の這う廊下をコツコツと歩き続ける。裏口前に来て、そこに彼女を下ろした。

「もしかしたら外にサフィニアが待機しているかもしれない。だから俺がサフィニアをおびき寄せたら、この裏口から出てくれ。サフィニアを室内に呼び込んで足止めが完了したら何かしらの形で合図を送る。それまでは、このロッカーに隠れているんだ。」

力なく頷くメイ。ロッカーの蓋を開け、中にメイを入れた。壁に掛けられていたコートの袖を破り、ねじって細くした後彼女の腕に巻いた。これで止血代わりにはなるだろう。

「君は、俺が死なせない。」

額にキスをして俺はロッカーを閉じた。

「……」

……これからは俺の時間だ。フランネルとサフィニアを探しに行こう。ゆっくりと、来た道を返す。今日ばかりはこの廊下が長く感じるな。直線状に伸びる廊下の奥には、カウンターと立ち並ぶ本棚が見える。その時、また遠くで爆発がした。

壁に掛けていた絵画は地面に落ちていた。歩きながらそれを見る。クレヨンで描かれた絵だ。これはメイとフランネルが描いたもの。ボイジャーが出来て少し経った時、その記念で二人が描いたクレヨン画だ。また少し歩くと、壁に掛けられたままの版画があった。それは燃えて半分消えていた。この版画は……ずっと昔に死んだボイジャー店員がフランネルの誕生日に作ったものだ。丘の奥に星に囲まれて惑星探査機が飛んでいる風景。フランネルは宇宙が好きな人だ。星の形は、ちゃんとフランネルの好きな、メジャーな星の形をしている。五つの角。しかしその版画を掛けていた糸が千切れ、地面に落ちた。その時額縁が割れる。それを素通りして少し歩くと、扉のない娯楽室の前まで来た。

少し立ち止まって娯楽室の方に目をやる。ボイジャーの店員がダラダラするために真面目に設計された空間。昔はもっと広々とした空間だった。しかしどんどん人が減って、それに応じて棚やらベッドを置きだしたから三人で丁度入るくらいの広さになってしまった。机を囲むように配置されているボーズクッションやソファは、燃えて中身が露見していた。白い綿の表面はちりじりに焦げている。現実から逃げる様に目を背け、また歩き出す。


やがてカウンター席の前まで来た。顔を上げると、広々とした図書ルームが広がっている。見渡す限り全てが燃えていて、夜なのに昼のように明るい。地面に散乱した本たちは、まるで死んでいるようだった。

その時。

「……おや、」

正面の本棚の奥から一つの人影が姿を現した。




























「サフィニア……ッ」

しなやかな銀髪が奥から姿を現す。薄く、赤く照らされる彼女の瞳はしっかり俺を捕らえていた。

「久しいなオダマキ。家族ごっこは順調か?」

「あんた……いきなり爆破はないだろう!聡明だったあんたはどこに消えたんだ!」

「聡明?私がお前にとって聡明な人物だったことはあるか?私はただ、己の脚本の正義を全うし次なる犠牲者を減らすために尽力しているだけだ。」

「サフィニアッ!」

この体力で、こんな大声が出ることが驚きだった。カウンターを乗り越え、銃を構える。しっかりと銃口を彼女に向けて神経を全集中させた。

「……フランネルはどこだ。」

「フランネル……と言うのかは知らないが、二階で人が倒れてるのは見たぞ。緊急避難警報ボタンの前で倒れていた。」

死が確定した訳ではなさそうで、少し胸に余裕が生まれた。しかしあのボタンを押すとボイジャーに警報が響き渡るシステムだ。しかしまだ警報が鳴っていないということは……まだ気絶したまま起きていないという事だろう。

銃を構えたまま回り込む。彼女は一歩も動くことなく、ただ俺の目一点を見つめている。

「探しているナハツェーラはどこにいる。それさえ見つけられたら満足なんだ。お前も分かるだろう?」

「言う訳ないだろう!絶対に、言うもんか……!」

「……お前は変わらないな。」

抜刀する。そして剣先を俺に向けて、伏目がちに彼女は呟いた。


「残念だ。」

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