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8,夢見るテレーズ

1612字

≪この手紙は、私サフィニアという存在があったことを未来永劫ここに残すために書く。もし自身の脚本『一度信じた正義を信じ、信念を貫き通し、強者を演じる』というものを完遂できずナハツェーラ討伐で死んだ時のためである。もしもの事態に備えて手紙は三部に分ける。そしてこれが一つ目だ。


どのくらい昔か思い出せないくらいに昔の話。

両親は暗殺の名家出身だった。日々我が家の門を敲く人足が絶えることはなく、私もその状況をよく理解していた。

それでいて両親は模範的な人でもあった。人は殺すが、それはあくまで仕事であり、相応の対価と理由がなければ依頼は受けない。


「私たちの存在が、未来のあなたの妨げになってはいけないわ。」

ある晩母がそう言って私を抱きしめたこと、私は今でもよく覚えているよ。殺しで生きていく。しかしそれが正解だと錯覚しないよう、日常的に遠くへ家族で旅行する習慣があった。家でゆっくりしたい私は旅行に乗り気ではなかったが、両親は本当に楽しそうだった。重い日常の中で定着した雄一の安息タイムだと言っていた。


ある時は家族三人で海に行ったりもした。海に内接しない国だったからこそ、私にとって海は新鮮なものだった。打ち寄せる波は大自然そのものが私に話しかけているようで、水平線は「私が知れる世界の淵」だと感じた。歳を重ねた今なら、海はそこまで珍しいものではないと分かるが、それを知らない時期の子供にとってはかけがえのない宝の記憶となるだろう。ヒトデをどれだけ遠くに飛ばせるかで競った。その結果は覚えていない。あの日が確か一番楽しかった一日だ。


しかしこの喜劇の読み手には知ってほしい。私たちは未来を知ることはできない。先に割り切ると、私は占いなど信じない人間だ。神もおらず、個人の未来は個人の選択に委ねられる。だからこそ私は予想できなかった。あの日々が崩壊し、代わりに悲劇のブザーが鳴ることを。


質の高い仕事には高い価値が。高い価値には相応の値段が。我が家の門を敲いたある依頼主は、提示された値段に納得できず帰った。そこまでは数度見かけた光景だから特別でも何でもない。しかし読み手のあなたは知ってるか?人は数が多い故、目的の為に手段を選ばない人もそれなりに多いことを。私は誘拐された。


相応の値段には顧客の不満が。その不満を解消するために集団で私を誘拐したのだ。これは後に知ったことだが、反逆思想を掲げるその集団は「タダで政治家殺害の依頼を受けなければ娘を殺す」と両親を脅していたらしい。その間私は手足を縛られ、叫べないように喉に釘を打たれた。声を失った私はその時人生に絶望し、全てに失望した。


しかし両親のことだ。きっと依頼を受けて私を助けてくれるだろう。胸に寄せる期待はそれだけにして待っていた。時が経ち、結果的に期待したことを後悔せずに済んだのは雄一の救いだろう。両親は依頼を受け、完遂した。


両親と合流するために、私は誘拐集団に街はずれの倉庫まで連れていかれた。しかし手足を縛られたまま。今思い返せば、その時点で手足の縄を外してもらっておけばよかった。倉庫で待機していると、大きな扉が音を立てて開いた。後光を受けて両親が立っている。嬉しさで駆けだした次の瞬間。倉庫にこだまする銃声が脳に反響する。倉庫の入り口で額から血を吹き出し倒れる両親。その時私は全てを悟った。とめどなく溢れる涙。声帯を失った喉から悲し気な嗄声しか出てこない。倉庫の奥からガタイのいい男どもが姿を現し、私の腕を縛る縄を掴んだ。私の抵抗も虚しく、私は倉庫の奥の闇へ連行された。何をされたかは覚えていないが、その日の夕方にはまたアジトに戻されていた気がする。その頃には手足の縄もほどかれていた。

両親は死んだ。それもそうだ。目の前の復讐の種は先に潰しておいた方がいい。


若さと美貌を買われた私は後に遠くの大陸に売られることになる。話の続きは二枚目で綴ろう。≫

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