25魔境の森の異変
第一章
魔境の森の異変
sideエル
「母さん!今日は何か手伝う事ありますか??」
日課である母との魔法の訓練を終えて家事を手伝う。この流れが最近は多い。
狩りの日は朝から森へと出掛けて日暮前に帰っている。
今日も今日とて洗濯物や畑の水やりなどを魔法を使って楽にこなしていると家の扉が勢いよく開けられた。
「エ、エリンさんや!大変だ!村の木こりどもが魔物に襲われて大怪我を負っちまった!助けに来てくれねぇか!?」
「分かったわ!すぐに向かいます!彼らは何処にいるの!」
母さんはいつもののほほんとした雰囲気をスッと収めると引き出しから杖とローブを引き出す。
俺も一応準備するふりをして魔剣を顕現させて腰に凪いでおく。
「集会所だ!急いでくれ!」
父の愛用の馬は居ないがいつも俺に貸してくれていた母の馬に2人で跨り村の集会所まで移動する。
数分もしないうちに集会所に着くと人だかりができているのが見えた。
母さんは行けるところまで行き飛び降りると馬を俺に任せて集会所へと向かっていった。
俺としては母に何かあることも無いだろうと何処か他人事のように感じながら馬を集会所近くの厩舎に繋ぎに向かっていた。
「何かこの時期にイベントとかあったかなぁ?そもそも主人公に関係しない場所だから何かあったとしてもわからん…。」
俺は馬に語りかけて見るが何を言っているんだこいつという目を馬から向けられたのでそそくさと集会所へと向かう事にした。
「もう大丈夫です。傷口は止めましたからゆっくりと休ませてあげてください。」
母さんは得意魔法の回復魔法を使って木こりの人たちを助けてあげた直後のようだ。
「エリンさん、ありがとう…本当に助かったよ…。」
横になっていたガタイのいい男が顔を持ち上げながら礼を言っていた。
「いえ、騎士であるアルスがいない間この領地を守るのが私の役目ですから。」
あー、そっか。父さんがいない今母さんが実質的な領主代理の様な物なのか。
「もう安心してください。私が森に行ってきますから。」
「ちょっとまった!母さんはここに残っていなきゃいけないでしょう!」
群衆に紛れて見ていた俺が大きな声を出したことで否が応でも目線が集まる。
周りは、あっ領主の息子だ。くらいに思っていそうだが、なんて事を言っているんだ!と目くじらを立てている者もいる。
「母さんがここを離れたら誰がこの人たちの回復をするんですか、もし森に行っている間に何かあったら母さんの力が必要になるですよ??」
この言葉に母さんは困ったように眉を下げる。
「確かに…そうだけれど…。」
「代わりに僕がいつもより多く魔物を狩って、原因も探ってきますよ。父さんが帰ってくるまでは毎日森に入るようにもしますから。」
その話を聞いていた村人達は怪訝そうな顔を浮かべる。
未だ弱い8の幼子に何ができるのだと。
「心配しないでください。父様がいない間は僕が森に入って間引きを続けていました。
これでも中層までは1人でなんとかなります。」
それなら…としぶしぶ納得した様子を見せる周りの人々に対して母は何か俺に言いたそうにしていたがこの流れを止めても良いことがないとグッと堪えているようだ。
「母様は今日ここで看病をしていてください。僕は母様の馬を借りていつもの所まで行ってきます。」
「分かったわ…無理だけはしちゃダメよ?最悪原因さえわかればアルスが帰ってくるまで耐えれればなんとかなるんだから。」
「はい!勿論です!」
母の不安をとり除けるようにできるだけ元気に答えて集会所を後にする。
厩舎で出発の準備をしていると1人の老婆がやってきた。
「エル坊、そんな役目を押し付けることになってしまって面目ないよ。」
「婆や!そんなこと気にしないでよ!」
俺を取り上げてからよく屋敷まで来て掃除をしたり俺を育てる手伝いをしてくれた婆やだった。
「それに、僕が間引きに入っていたのにこんな事になったんだから、責任の一端は僕にもある。自分の始末くらい自分でつけるさ。」
「あんたも、男の子なんだねぇ。まあ、意思は堅いと思ってたさね。これを持っておいき。」
婆やから渡されたのは指輪だった。ゲーム的に言えばアクセサリーだ。
「婆や、これは?」
「私の亡き夫が冒険者の時に使ってた物だよ。魔力を込めれば込めるほど切れ味が増すと言っていたけど私にゃ本当かどうかはわからん。
だからお守り程度に持っていくといい。」
あ!思い出した!これ最初の頃に受けられるサブクエストの報酬エンフォースリングverシャープか!
「え!そんなの貰えないよ!形見ってことでしょ!?」
「別にいいんだよ。あの人が亡くなる前から箪笥の奥にでもしまわれていた骨董品さね。
死蔵させておくくらいなら次の者に使ってもらったほうがあの人も喜ぶさ。」
ほれ、と目の前に出された手のひらからリングを大事に受け取る。
「ありがとう。絶対に解決してくるよ!」
「気にするんじゃないよ。無事にさえ帰ってきたらいいさ。」




