44 襲撃
「うおっ、眩しっ......!」
安西さんの言葉と共に、眩い光があたりを包む。
ダンジョンクリアの証だ。
「帰ってきたのね......」
「死ぬかと思ったぜ......」
安堵の言葉ーーBランクダンジョンへの攻略を踏み出た僕らは、ギリギリながらも勝利を掴み取り、無事地上への帰還に成功した。
その事実に感極まる田中さんや静かに喜びを見せる西野さん、みんなの姿が見えた。
当然、僕も達成感に満ち溢れていた。
最近まで『万年レベル1の0スキル』と呼ばれていた僕が、Cランクダンジョンのボスを撃破したんだ。
これを喜ばずにいられるものか。
皆、感動を分かち合う中、地上に出た僕にシステム音が頭に響く。
『Bランクダンジョンボス:キリング・スパイダー・クイーンを撃破しました』
『よって、Bランクダンジョンをクリアしました』
『報酬が配られます』
「来た......!」
待ってました! と言わんばかりの顔を貼り付け、僕は吉報に胸を躍らせる。
苦労して倒したボスだ。レベルもそれなりに上がっているだろう。
『報酬を受け取りますか?』
「『イエス』」
瞬間、僕の眼前にレベルアップの通知が滝のように流れる。
『レベルアップしました!』
ダンジョン攻略の特別報酬に、ボスを倒した分の経験値ーー合わせて、僕はレベル5千程アップし、目標の5万へと手が届いた。
レベル5万。
それは、冒険者にとっての次の関門。
Bランク冒険者の称号をもらえるその境地は、そこからのランクの上昇を妨げる大きな壁でもある。
ゆえに、多くの冒険者はBランクで止まり、A、特にSランクと言った冒険者たちは、本当に稀に見る存在となっている。
僕もようやくBランクまで上り詰めた。
目標まではまだまだ遠いけど、いずれは僕も駆け上げてみせる。
(ああ、でもやっぱり、冒険者って楽しいな)
戦闘のストレスで押されていた僕の心を浄化するかの如く、達成した今回の出来事は自分にとって大きかった。
これで、ようやくエルファス王国の方へと迎える。彼らを助けるべく、僕は向かわなければいけない。
次のクエストの始まりだ。
活路が見えてきた所で、一人の少年が僕の元へと駆け寄る。
「あ、あの!」
「ん?」
寄ってきた少年の正体は、先ほど一緒にダンジョン攻略に勤しんでいた、高羽くんだった。
「高羽くん、どうしたの?」
「そ、その......先ほどは、ありがとうございました!」
彼は深々と頭を下げて、目一杯の感謝を伝えてきた。
「あなたがいなければ、今の僕はいません。助けてくれたあなたには、本当に感謝しています!」
そう言って彼は、頭を下げたまま、ピクピクと震えていた。
多分、あの時の光景を思い出したのだろう。
確かに、あの場で僕が割って入らなかったら、彼は死んでいたであろう。
彼の気持ちは痛いほどわかる。
なんせ僕も、経験者だからな。
あの情景は、恐ろしい。
だからこそ、僕がかけて欲しかった、言って欲しかった言葉を彼にかけようと思う。
僕はそっと怯える高羽くんの肩に手を乗せる。
すると、ブルブル震えていた高羽くんはその動きを止めて、顔を上げて僕を見上げた。
「大丈夫さ、今度も何かあったら、僕が助けてあげるよ。なんてね、はは......」
流石にくさかっただろうか?
まあ、これぐらい何か安心させる言葉をあげたほうがいいと思ったんだけど。
高羽くんは僕の放った言葉を最後に動かずにいた。
流石に引かれてしまっただろうか?
なんか、少し恥ずかしいな。
「い、いやー......今のは、なんというか......」
「しーー」
「え?」
「師匠......!」
「......え?」
「師匠と呼ばせてください!」
「え、ちょっ......」
彼は数瞬固まった後、目を輝かせながら僕を『師匠』と呼んできた。
ええ......それはちょっと、恥ずかしいんだけど。
流石に師匠は......ちょっと考えられないな。
彼に変えてもらえるよう、説得しよう。
僕は気分爽快ににっこりと笑う高羽くんを呼んで、説得を試みた。
「ね、ねえ、高羽くん?」
「? なんですか、師匠」
「その、師匠っていうのやめない?」
「やめませんよ! それに、僕のことは塔矢と呼んでください!」
「それは構わないんだけど......」
彼の説得に乗り出た僕は、失敗に終わっただけでなく、さらに要求を追加されてしまった。
まあしかし、彼を名前呼びするのには、特に抵抗はない。
むしろ呼びやすいまである。
だが、それとは関係なく、僕は師匠呼びをどうにかしてほしい。
だって、僕が師匠って......ありえなくない? それもあらゆる方面で。
僕はもう一度塔矢くんに話しかけ、説得を試みる。
「ねえ、塔矢くん。やっぱり師匠呼びは......」
「嫌ですよ!」
「う、うーん、でも......」
その時だった。
僕が油断したとわからせられたのは。
「そんなに、嫌ですか......?」
少年の眼差しは真っ直ぐとこちらを向き、輝くように僕を見つめた。
こ、これは......!
似ている......! 昔、奏に欲しいものをねだられて、上目遣いされたあの時に......!
こ、断れない......!
「う......! い、いいよ......」
「やった!」
僕は結局彼のおねだりの魔力に抵抗できず、塔矢くんのお願いを聞き入れてしまった。
(はあ、僕が師匠なんて......そんな柄じゃないんだけどなあ......まあ、本人が楽しそうだしいいか......)
そう思い、塔矢くんを見る。
彼はダンジョンでの疲れなど忘れたようにはしゃぎ回り、喜んでいた。
まあ、呼び方が変わったぐらいで何か起きるこわけでもないしな。
そうして僕は、塔矢くんの師匠となった。
予想外の出来事もあったが、ほぼ全て順調に終わった。
資金繰りという目的も達成したしね。
こうして波乱のダンジョン攻略が終わり、皆が帰ろうとしたその時。
一人の男性が塔矢くんの方へと歩いて行った。
「坊主......本当に、すまなかった......!」
そう言って頭を下げたのは、安西さんだった。
「俺は、自分の命を守ろうとするあまり、冒険者としてーーいや、人間として最低の行為をしちまった! 本当にすまねえ!」
謝罪の言葉を紡ぐ安西さんは深く、深く頭を下げて許しを乞うた。
それを、その現場を見ていたパーティーの全員が静かに見守る。
塔矢くんの出方を伺っているのだろう。
罪悪感で涙を流す安西さんに、塔矢が近づく。
すると、ポンと、塔矢が安西さんの肩に手を乗せた。
優しく触れたその手には、憎悪や復讐心などはなく、ただ赦しの念を感じられた。
そしてそれを感じ取った安西さんもまた、ゆっくりと顔を上げた。
そして、満面の笑みで、塔矢は安西さんに向かって言った。
「大丈夫ですよ」と。
その一言が効いたのか、安西さんは大粒の涙を流しながら、床に崩れ落ちた。
彼は泣いている間ずっと感謝の言葉を述べ、しばらくの間塔矢のお世話になっていた。
その後、安西さんは塔矢の世話役を名乗り出ていた。
これからは、塔矢のパーティーに入って面倒を見るそうだ。
それが自分のできる償いだと言って。
それも塔矢は嬉しそうにしていたので、みんな賛成してその場を解散した。
安西さんは最後に塔矢の命を救った僕に感謝を述べて、塔矢くんと同じ道を帰っていった。
夕暮れ時の空模様を見て、僕は妹の顔を思い出す。
「帰るか」
そうして、波乱のダンジョン攻略はこれにて幕を閉じた。
☆☆☆☆
夕暮れ時の街を通り、帰路へと着く。
電車に乗り、バスに乗り、細道を歩いて行く間に、外はすっかり暗くなってしまった。
冷たい風が吹き、僕は持っていた血塗れの外套を羽織る。
「寒いな......」
冷たい夜の中、僕はまだ遠い我が家へと向かう。
街灯の光が道を照らす中、それが一瞬だけ消える。
僕は足を止めて、あたりを見回すが、何もない。
杞憂と思い、再び歩みを進める。
しかし、またもや街灯の光から灯火が瞬間的に消える。
異変を感じた僕は、そこで立ち止まる。
(なんだ? 故障かな?)
そんな考えが頭を過ぎるが、次の出来事でそれが間違いだったのが示される。
3度目の異変が起きたその時、それは目の前に突然現れた。
「どこへ行く?」
黒いローブに2本の角がついてある黒い鬼の仮面を貼り付けた、一人の男が僕の前に現れた。
僕は突然現れた彼に、歩き出そうとしていた足を止め、震えた。
そして、本能的に何かを感じ取ったのか、その目の前に現れた彼を警戒するように、体が勝手に後退していた。
こいつはまずい。
何かはわからないが、こいつからは今すぐ離れなければいけない。
瞬間、僕は奴に背をむけ、反対方向へ逃走を試みた。
しかし、そんなことは想定内のことだったのだろう。
後ろから、今度は一本角をつけた赤い鬼の仮面の男たちが二人、現れた。
彼らは前に一人、後ろに二人と、三角形の形で僕を囲い、見据える。
夜の暗がりの中、この夜道には誰もいない。助けも呼べず、怪しい連中に囲まれる始末。
逃げ場のないこの状況に、僕はその場で立ち尽くした。
警戒の2文字を解かず、窮地に陥る僕に、前にいる2本角の鬼が話しかけてきた。
「まあ、そう慌てないでくださいよ。少し、話をしにきただけですから」
そう言う彼の目からは、優しさなどなく、殺気に満ちた鋭い目をしていた。
それに、話をするだけなら、こんな大所帯で僕の元へは来ないだろう。
そして、その殺気に満ちた鋭い眼。
多分彼らは僕を殺しにきたんだろう。
そうでなくとも、痛めつけるぐらいはするだろうな。
より一層警戒を強め、奴との対話を試みる。
「そ、そうですか。で、本日はどのようなご用件で?」
「......ああ、それはーー」
警戒を最大限に引き上げ、長剣を深淵より抜き放つ。
「あなたこと、雨宮渉を始末しに来たんですよ」
そう言った瞬間、彼は僕へと剣を抜いて飛びかかってきた。
事前に剣を抜き放ったのが功を奏したのか、彼の神速の一撃になんとか耐えることができた。
それを予想していなかった彼は、仮面越しにもわかるほどに目を丸くして、僕と向かい合った。
「驚いた、まさかこれを耐えるとは。少し、予想外でしたね」
「そりゃあ、どうも!」
彼の重たい一撃を跳ね除けて後退すると、今度は後ろの二人と同時に彼は襲い掛かってきた。
彼らは短剣と、身軽な武器を素早く振り回し、メインとなる2本角の鬼のサポートに徹した。
3対1の不利な戦況の中、僕は徐々に押されていく。
すでに持てるスキルは全て使っている。
【剛腕剛力】で彼らの力強い攻撃を押し返し、【疾風迅雷】で彼らの速さに対応していた。もちろん、【深淵付与】も込みで。
しかし、僕の体力は徐々に削られていっている。
このままではジリ貧だ。
何か、打開策はないだろうか。
「ーー?」
そう思ったその時だった。
2本角の彼が攻撃をやめた瞬間、残りの二人と共に後退し、攻撃をやめた。
突然の出来事の呆然としていると、2本角が手を上へと振り上げる。
その振り上げた手に、膨大な量の魔力が集まって行くのを感知する。
嫌な予感がした僕は剣を大上段へと構え、防御体制を取った。
しかし、
「茶番もこれで終わりにしましょう。あなたの底も知れたことですし、そろそろ終わりにしましょう」
彼の手の平の一点へと集約された魔力は、彼が腕を振り下ろすのと同時に発射される。
「【黒炎球】
大きく集約された魔力は形のなかったそれを変え、大きく、そして素早い黒い炎の球として発射された。
そのあまりの速さに、僕は反応すらできず魔法をモロに喰らう。
直撃した【黒炎球】はその球体の形を爆散させ、轟音と共に僕の体を焼き尽くさんとした。
「ぐあっ......!」
『【起死回生】が発動しました』
視界が黒き炎で埋め尽くされる。
視界は暗転しかけ、僕は何もできずに崩れ落ちる。
かろうじて意識を保っている僕に、2本角の鬼仮面は再び目を丸くしながら驚いていた。
「ふむ。まさかこれも耐えるとは......やはり、あのお方が言うこの力は本当に恐ろしいものですね。まさか数週間あまりでここまで強くなるとは。どうやら始末しにきて正解だったようですね」
そうベラベラと未だ喋る彼を前に、僕は床を這いずりながら敵を睨み上げる。
それに気付いた奴は、再度驚いたような表情で僕を見つめた。
「まさか、この状況でもまだ戦意が残ってるとは。あなた、本当にあの最弱冒険者本人なのですか?」
奴の疑問に目力で返答を返すと、僕の状態を知った彼はゆっくりと近づいてくる。
「まあ、もうそろそろあなたも限界のようですね。どれ、ここまで生き延びたあなたに褒美として、苦しみなく一撃で葬り去ってあげましょう」
そう言って再度、彼の手元に魔力が集まっていく。
今度こそ、これを喰らえば僕は跡形もなく消されるであろう。
しかし、今の僕には逃走手段はない。
HPは1のギリギリの状態。
今、少しでも体を動かそうとすれば、先ほど喰らった技の影響で僕は死ぬだろう。
無抵抗な状態の僕を眺めながら、薄く広まっていた魔力は、彼の手の平の上で一点に集約されていく。
彼の手から今、魔法が放たれんとする。
「さらばだ、雨宮渉」
そして強烈な魔力が魔法と成って放たれ、爆発音が夜道の中で鳴り響く。
「......っ! ......?」
しかし、それは僕へは直撃しなかった。
意識が朦朧とする中、僕は何が起こったのか確認しようと寝転んだ体制のまま上を見上げる。
すると、そこには大怪我を負って、所々から血を流す3人の鬼仮面たちと、僕と彼らを挟むように立つ、一人の男が立っていた。
彼は黒と紫の高そうなスーツを着こなし、手には黒いグローブを嵌めて、輝くような革靴を履いていた。
彼はさらに眼鏡をかけており、その漂う姿勢からは明らかな余裕を感じられた。
まるで、デキるビジネスマンのようだ。
「き、貴様ぁぁああああ......! またもや、我らの邪魔をする気か......っ!」
「下がれ。これは貴様らが出ていい案件ではない」
憤怒に身を焦がす2本角の鬼仮面を冷静賃借な対応で収める。
激昂する鬼仮面は大怪我など気にしていないとばかりに、こちらへと歩み寄る。
しかし、その歩みは次の瞬間ピタリと止まり、その体からは怒りより、恐怖が立ち上った。
「警告だ。それ以上近づけば、今度は殺すぞ」
その言葉を聞いた彼らは、名残惜しそうにこちらを睨みながらも、後退していった。
「チッ、行くぞ......撤収だ......!」
そうして敵を追い払うことに成功した僕は、安堵のあまり、意識を失ってしまった。
消えかける意識の中で、僕はこちらへと心配の声で呼びかける、男性の姿が見えた。
☆☆☆☆
「ハッ......」
ハッっと目が覚める。
僕の起き上がった場所は部屋の一室。
特に何かあるわけでもない、ただの普通の部屋。
そこにあるベッドで、僕は目覚める。
「起きたか」
そう聞こえて、隣を見る。
するとそこには、先ほど僕を助けてくれた、イケメン眼鏡のお兄さんがいた。
「こ、ここは......」
「ここは私の部屋だ。重症だったものでね、ここで君を休ませている」
そう言う彼は片手に本を持ちながら、足を組んで座っている。
手にある本の題名には『現代医学の創書』と書いてあり、その内容はとても難解なものであることが分かった。
「この人、頭いいんだなあー」などと思いながらも、僕は話の内容を戻す。
「あ、あのー、それで......」
そう発した瞬間、彼は読んでいた本をパタリと片手で閉じ、その眼差しを僕へと向けた。
「君の言いたいこと、考えていることはわかっている。何故、自分は狙われたのか? 何故、助けてくれたのか? 私は誰なのか? そんな疑問が頭の中を駆け巡っていることだろう」
考えていたことを、次々と当てられていく。
まるで思考を盗聴されているようだ。
普通に怖い。
しかし、彼は依然として落ち着いた表情でこちらを見つめながら喋る。
そして彼は言葉を紡ぐ。
「だが、まず第一に私は君のことについて一つ、確認しないといけないことがある。それはーー」
息を呑む。
それは、彼が僕に向ける視線がだんだんと鋭くなっていくのを感じたからだ。
もしかして、これは返答次第では殺されるのでは?
そんな心配が頭をよぎる。
そして、彼の言葉の続きを聞くこととなる。
「君が、深淵に選ばれた、プレイヤーなのかということだ」
鋭く、尖った眼光が僕へと向けられる。
アビス。そして、プレイヤー。
それは以前にも聞いたことがある。
どちらも、最初に僕があの不気味な場所に落ちた時に聞いた知れぬものたちのことだ。
どっちも知っている。
これはつまり、僕がこの人の言う、深淵に認められた、プレイヤーだってことだ。
一瞬、その事実を隠すかどうか悩んだが、彼から向けられる視線に耐えられず、僕は冷や汗を流しながら小さく返答する。
「はい......僕は多分、そのプレイヤーです......」
「......」
僕の返答に対する、彼の無言の返事。
それは僕に恐怖しか与えなかった。
あのー、怖すぎるので、早く何か返してほしいんですけど......。
もしかして、本当に殺されるんじゃ......?
覚悟を決めて、目を閉じる。
すると、彼は深いため息をつき、顔を手に埋めた。
「やはり、そうだったのか。道理で......」
そう言う彼は、殺気染みた目を疲れたような顔に移し替え、僕を再度見据える。
「どれ、君の持ってる例の武器も見せてくれ」
「えっと......あー、あれのことですね」
一瞬、何のことかわからなかったが、察しのついた僕は、漆黒の穴より長剣を取り出す。
「これのことですか?」
両手に乗せ、彼の前へと剣を差し出す。
「ああ、ありがとう。ーー君は長剣タイプなんだな。どれ、私のも見せよう」
そう言って彼も、同じ深淵の穴より武器を取り出す。
っていうかそのスキルって、共通だったんですね。
オンリーワンだと思ってました。
「これが私の武器だ」
そう言って彼が取り出したのは、黒い闇に包まれた、大きな鎌だった。
彼は自分の背丈ほどあるその大鎌を、肩に乗せたまま地面へと置き、再度僕を鋭い目で見てきた。
「これでわかっただろう、私たちは同じだ。私も君も、同じプレイヤーとして選ばれた身だ。そして、君も薄々気付いているかもしれないが、それが原因で君は追われている」
そう真面目な顔で僕へと迫る彼。
しかしーー。
すいません。
全く気づいていませんでした。
これが原因で追われてたなんて、1ミリも気づいていませんでした。
鈍くて、すみません。
「な、なるほど......」
度肝抜かれた顔を必死に隠しながら、彼の話を最後まで聞く。
「私と君の違いは、強いか強くないかだ。私はこれでも、結構強い自負があるのでね」
強い、ねえ。
確かに、この人からはただならぬ何かを感じる。
それに、あの鬼仮面の人たちも簡単に追い払っていたし、その言葉に偽りはないだろう。
目の前の人物に高い評価をつける。
そして彼の発言をしかと、この耳に止める。
「私も、昔は君のように弱かった。だがいずれ、君も私のように強くなれるだろう。しかし、今の君は弱い。それに任務も途中のようだしな。大方、次のクエストに向けてレベルアップ中なんだろう?」
「え、なんでわかったんですか?」
「まあ、何となくだな。私も経験がある」
どうやらこの人には、全てがお見通しのようだ。
隠し事は無理そうだな、と思いながら彼の透き通るような瞳に、僕は思わず目を逸らす。
「しかし、見た感じ、それも今ので達成したのだろう。君は今から行くのだろう? 向こうへ」
「はい、そのつもりです」
お兄さんへと返事を返し、僕はこの場を去る意思を表明した。
「だろうな。しかし、私の経験上、次の任務は長いものになる。もしかしたら数日ほど時間がこの世界でも経ってしまうやもしれない。そうなると、奴らも黙ってはいないだろう」
「奴らって......あの鬼の仮面を被った人たちですか......」
「ああ、そうだ」
報告を聞き、憂いた表情を浮かべる僕は、困り果てていた。
数日ともなれば、それはもう長い間彼方へと滞在することになる。
その間、何か事を起こされたら対処のしようがない。
奏に手でも出されたら僕は......。
「心配なのはわかる。君の妹の安否を君は憂いているのだろう? 私が彼女の事を守ってやろう」
「え、本当ですか......!」
頭を抱えるこの状況に一石を投じるように、お兄さんが声を上げる。
その心強い申し出に僕は思わず声を上げ、靄が晴れたような気分になった。
「ーーあれ、でも、なんで僕に妹がいるなんて分かったんですか?」
「......私はビジネスマンだ。重要な対象の情報は網羅している」
「......え、あ、そうなんですね......」
僕はそう言って、言葉を濁す。
うん、普通に怖い。
どこで情報を手に入れたかは厳密には教えてくれなかったが、それを抜きにしても普通に怖い。
強者は常に情報を更新しているーーあの冒険者の間の噂は本当だったようだ。
聞かないが吉だな......。
「まぁ、朝にでも出ると良い。行く前に妹への私の紹介だけはしておいてくれ」
「わ、分かりました」
「ではーー」
スッと、彼は立ち上がり、手をこちらへと差し伸べてきた。
それを直感的に友好の証だと感じ取った僕は、それを疑問も持たずに握り返した。
「契約成立だ」
僕らは手を交わし、握手をする。
暗闇の中、窓から月の光が僕たちを照らす。
すると、ふと何かを思い出したかのように、彼が話す。
「そういえば、君の名前を聞いていなかったな」
「ーー雨宮渉です」
「なるほど。私の名前は黒崎薊だ。よろしく頼む、雨宮くん」
「はい、よろしくお願いします」
こうして僕は、彼こと、黒崎薊と出会うのだった。
☆☆☆☆
「ただいまー、お姉ちゃん!」
元気よく駆け込む、銀髪の少年。
「あら、おかえりなさい。塔矢」
それを迎えるは、腰まで揃えた、長く美しい銀髪の美少女だった。
「あのね、お姉ちゃん、聞いてよ!」
そう、満面の笑みで話し出す少年。
彼は荷物を置き、側にあった二本のレイピアをどかしてソファーへと座った。
「あら、どうしたの?」
そんな彼が話す姿を嬉しそうに見つめる少女。
「今日はね、すっごくいい人に出会ったんだ!」
嬉しそうに話す少年の語る相手が気になる少女。
不意に、彼女は聞いてみる。
「へえ、なんていう人なの?」
「雨宮師匠だよ!」
「え?、雨宮......」
その名を聞いた少女は驚きのあまり固まる。
何故なら、その名前を彼女は忘れずにはいられなかったから。




