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深淵のアビス〜最弱冒険者の最強成り上がり伝説〜  作者: ヤノザウルス
現実世界編1〜町田 行持復讐編〜
46/49

43 かっこいい冒険者の後ろ姿

僕の名前は、高羽塔矢(たかばとうや)

新米のEランク冒険者だ。


僕は今回、少しレベルを上げて、数個上の階級であるBランクのダンジョンへ挑戦してみることにした。 

実際にその場所へと赴いてみると、意外と怖いもので、いつもやっている雑用や、E級のダンジョンとは比べ物にならないほどの恐ろしさと圧を感じて、僕は少し弱気になっていた。


だけど、今回集まって入れてもらったパーティーの人たちは、とても優しくて、とても強くて、憧れるぐらいかっこいい姿を見せてくれた。



ーーだからこそ。

僕は、彼らがあんなことをするとは、夢にも思っていなかった。


あんな、人としての尊厳を失うような最低な行為。

まさか、僕を囮に使って、自分たちだけ逃げ出そうなんて......。


「ははっ......」


僕は元気なく薄く笑い、地面に尻餅付いていた。

目の前の蜘蛛のボスを前にして、諦めていたのだ。


「裏切、られたのかぁ......」


不意に涙がこぼれる。

自分が裏切られたのだと理解して、実感して。


せっかく冒険者になって、夢を叶えて、これからもっともっとすごい冒険をしようと思っていたのに。

せっかく、両親と姉に応援してもらったのに。

せっかく、いろんな人に夢を押してもらったのに、僕は......。


「うぅ......」


蜘蛛の魔物が近づき、僕の前で立ち止まる。

動く気配がない僕に、一瞬困惑の色を見せるも、状況を判断し、理解したモンスターは不敵に笑い、食事にありつこうとしていた。


やつは大きく口を開き、目の前にいるご馳走を食べようとする。

ここまでして抵抗しない僕の姿を見て、蜘蛛の魔物は勝利を確信し、そして美味しそうに涎を垂らしながら僕を食そうとする。


そんな敵の姿を見て、僕は恐怖で足がすくんでいた。

足は動かず、盾を構えてみはするが、震えてちゃんと持てていない。

それに体力が底をつき、もう抵抗する気力も残っていない。

ただただ、食べられて死ぬ運命。それだけが残っていた。


「ごめんね......お姉ちゃん......」


最後にここまで僕に尽くしてくれた姉に謝罪と感謝の念を込めて、祈る。

死ぬ間際に彼女に会えない悲しみでいっぱいになるが、今更悔いても仕方がない。


「ーー今まで、ありがとう」


最後に目一杯の感謝を捧げ、僕は目を閉じる。

死を覚悟し、受け入れる。


しかし、



「そういうのは、そのお姉ちゃんに直接言ってあげなよ」


「え?」



食われるだけかと思っていた僕の運命は、思わぬ方向へと捻じ曲げられた。


「ぶっ飛べ! 【吠える物(ハウンド)】!」


轟音と共に、真っ黒に埋め尽くされていた視界が晴れ、黒髪の青年が僕の前に立つ。


「あ、あなたは、荷物持ちの......」


「まぁ、その......助けに来たぜ、少年」


彼は余裕そうに笑い、黒い剣を肩に担ぐ。

そこには、誰しもが期待を寄せなかった、このパーティー最弱と思われた青年がボスを吹き飛ばし立っている姿が見えた。


その姿はものすごく輝いていて、僕が尊敬と信頼を寄せる姉の背中にものすごく似ていた。




☆☆☆☆




「間に合え......!」


僕は今、駆け出していた。

あの一人の少年を救わんと、足が勝手に考えるよりも早く動いていた。


だって見過ごせないじゃないか。


僕と同じで裏切られ、突き落とされ、危機に晒されている少年を。

しかも今回は目の前で起きたんだ。

同じ境遇にあってしまった彼を、僕は見過ごすことはできない。

あの苦しみと憎しみを知るものとしては。


だから僕は走り出す。

あの一人の可哀想な少年を、なんとしても同じ悲劇に合わせないために。


「【疾風迅雷】【剛腕剛力】【深淵付与】」


スキルを発動させ、油断している敵を僕は【深淵の宝庫】から長剣を抜き出し、全力の一撃を叩く。

その甲斐あってか、蜘蛛のモンスターは遥か後方へと叩き飛ばされ、塔矢くんを避難させる猶予ができた。


「よし、逃げろ!」


「は、はい!」


退避命令を下した僕の言葉通り、彼はちゃんと後ろへと下がり、戦いに巻き込まれないよう自衛していた。

そこには、先ほど退避した3名がこちらを覗いており、驚きながら彼を迎え入れていた。


そうして一連の作業をこなしている間に、蜘蛛型のモンスターは立ち上がり、僕を鋭い目つきで見て敵対する。

僕は強く剣を握りしめ、奴の攻撃に備え、構える。


「さてと、やるか。【絶鑑定】!」


『対象の情報を映し出します』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

個体名:キリング・スパイダー・クイーン

種族名:魔蜘蛛

特徴:強い粘性の糸を吐き、対象を閉じ込めて捕食する。

硬いものは、自ら毒を吐き、それをつけて柔らかくしてから捕食する性質がある。


討伐推奨レベル:55000

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「レベル55000......さっきより、レベルが上がってるな......」


相手の情報が開示され、その異様な高さに少し臆する。


55000というレベルの脅威ーーそれを僕はもうすでに一度味わっている。

あの広大な平原で戦ったサイレント・オークと同じ戦闘力。スキルボードはそれをこの蜘蛛のモンスターも持っていることを如実に示していた。


「まぁ、それで引く僕じゃない」


しかし、と。僕は過去の恐怖を乗り越えて、奴に向かう。

昔の僕と、今の僕ではレベルもスキルの多さも圧倒的に違う。

つまりは、勝てる確率はあの時より倍増しているという訳だ。


「ここで勝って、お前を僕の経験値にしてやる......!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

雨宮 渉 

18歳 性別:男 

レベル:45527

称号:深淵に認められしもの・逃げ足の王・救国の英雄・静寂の宿敵・アビスを超えし者I

SP:3000

HP:144002/154002 

MP:7023/7523

STR:8309(+750)(ATK+60%)

VIT:7000(DEF+10%)

AGI:7525(+200) 

INT:3300

LUCK:1

スキル

固有スキル:深淵の宝庫LV3・深淵付与LV2・深淵解放LV?

パッシブスキル:超級剣術LV2・魔力回路LVMAX・リジェネートLVMAX・魔力回復LVMAX・恐怖耐性LVMAX・感覚強化LVMAX・鷹の目LV5・魔力効率上昇LV2

アクティブスキル:疾風迅雷LV1・剛腕剛力LV1・絶鑑定LV5・起死回生LVMAX・縮地LV4・近衛騎士流剣術初伝・吠える者LV3・守護の盾LV2・初級炎魔術LV2・空間生成LV1

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

所有武器:深淵の長剣

推奨装備レベル:??

ATK+60% STR+750

概要:深淵の最も深く、黒い部分で生成された長剣。その漆黒に果はなく、どこまでも黒く、深淵の果てに近づける。深淵の黒は全てを見透かし、時には所有者をも見通す。

特性1:所有者に合わせて、成長する。成長限界はなく、どこまでも強くなる。

特性2:倒した敵の能力値の一部をこの武器の糧とする。

(まだ解放していない特性があります)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




☆☆☆☆




レベル差はおよそ10000。

差分にしておおよそサイレントオーク二体分くらいだろう。


まあ、それはこの際いいとして、問題はどうあの硬い皮膚を攻略するかだ。

先ほど、【絶風】と【剛力】の進化技である、【疾風迅雷】と【剛腕剛力】を【深淵付与】で強化し、それに追加して【吠える物】を奴へと叩き込んだが、見た感じ然程ダメージは入っていなさそうだ。

ダメージは喰らってはいる。だが、僕一人ではあまりにも力不足だろう。


じゃあ、どうすればいいのか?

そんなのは決まっている。


サイレント・オーク初戦、再びと行こう。

ひたすらヒットアンドアウェイだ。


僕は作戦の目処がたち、動き出す。

狙うは奴の首。

一番脆く、一番ダメージが入りやすいところだ。


僕は蜘蛛のボスに向かい走り出す。

敵の方も僕が何か仕掛けると勘づいたのか、ついには攻撃を仕掛けてきた。


「うぉっ、危なっ......!」


キリング・スパイダー・クイーンが口から猛毒を吐き、それを僕に吹きかける。

それを間一髪、スキルの速度で避けると、今度はそこら中に網目状になった奴の糸が張り巡らされていった。


捕まったら終わりの地獄の糸レーザーに、襲いくる無数の毒液。

そこら中にある糸に絡まったら、そこで速度が落ち、毒を喰らって食われるのがオチ。

まさに、地獄の避けゲー。


「ちょうど新しいスキルを試したかったし、ここで実験していくか。初級炎魔術【ファイアボール】!」


しかしと、僕はその状況を好奇と思い、場を新たな実験場として使った。

まず僕が使用したのが、新しく手に入れたスキル、【初級炎魔術】だ。

これは『初級』に分類される比較的消費魔力量が少なく、威力も控えめな全ての炎魔術を使えるようになるスキルだ。


その中の一つがこのスキルーー【ファイアボール】。

拳ぐらいの炎の球を生成し、敵へと放つ魔法だ。

僕はこれを使い、部屋中に張り巡らされた糸を焼き落としていく。


「キシャァアアア!」


どんどんと自らの領地が失われていく状況に、蜘蛛のボスが怒りに咆哮を上げる。

僕の暴挙を止めようと、奴はさらに多くの酸性液を吐きかけるが、その速度は今の僕の比ではない。


「【縮地】」


動きを制限する糸を全て燃やし尽くすと、活路の開いた道をすかさず【縮地】で詰める。

恐るべき速さで奴の下へと潜り込んだ僕は、そのまま方向転換し、奴の首目掛けて剣を振り上げた。


「【吠える者】!」


「キシャァアア......!」


衝撃波が巻き起こり、あまりの痛みに蜘蛛の魔物が苦痛の声を上げる。

しかし、それで躊躇する僕ではなく、僕はそのまま上空へと吹き飛ばされる奴を追いかけるようにして跳躍を行う。


「初級炎魔術【炎付与】」


その一言で僕は魔法を発動させ、自らの黒剣に烈火の如き炎を纏わせる。

そしてそのまま重力に身を任せ、僕は再度奴の首目掛けて攻撃を仕掛けた。


「もう一発......! 【吠える者】......!」


「キシャァ......!?」


肌を焼くような痛みと、隕石でも降ってきたような強い衝撃が奴の頭上から降ってくる。

それは寸分の狂いもなく奴の首へと叩き込まれ、蜘蛛のボスを硬い地面へと叩きつけた。


轟音と共に惨めな着地を果たした蜘蛛の魔物は痛みに悶えながら弱々しく立ち上がる。

その間僕は、華麗な着地を果たし、戦局の終わりを予感していた。


「......拍子抜けだったな......」


レベル55000にしてはあまりにも低すぎる戦闘能力。

唯一そのレベルに見合う点を挙げるとすれば、それはあの圧倒的耐久性能だろう。


「終わりにするか」


そう僕が言葉を溢し、再度攻勢を仕掛けようとしたその時、目の前の奴はワナワナと体を震わせ、怒り狂った。


「キシャァアアアアアア!!」


今日一、耳を劈くような咆哮を発し、蜘蛛の女王はその場に立ち尽くす。

その意味深な行動に多少の違和感は感じつつも、手負いの相手を放置するのはあまりにも愚策だと思い、僕はさっさと片付ける準備を進めた。


「【疾風迅雷】【剛腕剛力】【深淵付与】【炎付与】」


今現在持てる全ての攻撃系スキルを発動させ、僕は大将へと詰め寄る。


「【縮地】」


スキルを使い、勢いそのまま跳躍し、重力を加えた理論上の最大火力をお見舞いしようと、僕は踏ん張る。


「【吠える者】......!」


最後に親友から受け継いだ瞬間火力倍増のスキルを持って終止符を打つ。それで僕は終えるつもりだった。


「終わりだ......!」


叫び、段々と距離を詰めていく僕は、再度妙な違和感に見舞われた。

それは悪寒とも呼べる、強烈な体の危険信号だった。


(なんだ......?)


近づく程に体が身震いするこの現象。これに僕は覚えがあった。

それはサイレント・オークとの戦闘中、幾度となく感じ取ったあの死の気配の予感。それに酷似していた。

それに僕はハッと気づき、習得したばかりの新たなスキルを使ってその場を切り抜けた。


「!......【空間足場(エアブロック)】」


何もない空間に、透明な足場を急造する。

それを力一杯蹴り、体をその場から退避させ、僕は受け身を取りながら地面へと着地した。


「キシャァアア......!!」


すると、先程まで大人しかった蜘蛛の女王は突然、怒り狂ったかのように叫び出し、怒りをぶつけた。



僕は、あの瞬間感じた。

もし、あのまま攻撃していたら、死んでいたのは僕であろう、と。



瞬間、静止していたボスの体が動く。

それは、奴自体が動くのではなく、奴の表面だけ、皮膚とも言えよう部分のみが動く異様な光景だった。

そしてその異様な物体の正体に気づくのは、およそすぐだった。


「な......!?」


それらはキリング・スパイダー・クイーンの体を降り、前を通って、軍団を成してこちらへと向かってきた。

ゾロゾロとこちらに近づくにつれて、その歪なものの正体が明らかになる。

それらの軍団を成していた生物は、蜘蛛の幼体ーー子供だった。

おそらく、奴の子供だろう。

それが何千、何万と数を成してこちらへと向かってくる。


「これは......まずいな......」


どうやら、あの奇声は怒りに身を投じた叫びではなく、仲間を呼ぶためのものだったらしい。


これは一杯食わされたな。正直、対処に困る。

僕は遠方範囲攻撃の手段そのものがない。

この一匹一匹の蜘蛛たちがどれほど脆弱でも、今の僕じゃこいつらを対処している間に体力と魔力が尽きて終わりだろう。

なんとしても、それだけは避けたい。


(ここは......撤退するしかないか......?)


僕は一時後方へと下がり、迫り来る死の軍団から逃げまといながら、こいつらをどうにかする手段を模索する。


「スキルボード、獲得可能スキルを表示!」


『獲得可能なスキル一覧を表示します』


映し出される、青色のパネル。

僕の考え出した打開案は、全く新しいスキルの習得だ。


パネルの上に煌めく幾つものスキル。それらを眺め、この状況を切り抜けるものを探す。


(何か......何かないか......!)


必死に探し、幾つものスキルを眺めるうちに、僕はあることに気づいた。


「......SPが、足りない......」


そう、スキルを習得するにあたっての、SP(スキルポイント)が圧倒的に足りなかった。

今の僕のSPは約3000。

対して、強力な範囲攻撃スキルを入手するには、最低2万のSPがいる。


この状況でSPを獲得する方法は、現時点でない。


仮に、ここにいる子蜘蛛達を討伐しまくって、レベルを上げるに当たる経験値を稼ごうとしても、このレベルの子蜘蛛達では、ざっと数千時間はかかるだろう。

それじゃ、僕のレベルが上がる前に僕が息絶える。


「くっ......」


徐々に迫り来る子蜘蛛たちを少しずつ、長剣で討伐しながら、完全に詰みと思われる状況に絶望する。

やがて、部屋のフロアは子蜘蛛たちに埋め尽くされ、逃げ道がなくなっていった。


このままでは、まずい。


そう思いつつも、僕にはこの状況をなんとかする力はない。

唯一の逃げ道である、ダンジョンの門も、先の冒険者達に閉められており、脱出できる気配もない。

このままでは、僕と高羽くんは蜘蛛の餌だ。


「クソッ......!」


溢れかえるほどの数の蜘蛛を前にしながら、僕は未だ抵抗する。

長剣を振り回し、確実に一匹一匹とその数を減らせる。

しかし、消すよりも増える方が早く、その数はさらに増していった。


その圧倒的数に絶望し、諦めかけたその時。

僕の横を、巨大な火球が過ぎっていった。




「【フレアバースト】!」




それは、巨大な群れをなしている蜘蛛の集団に激突し、大多数の数の子蜘蛛を葬った。


僕は驚いた顔で、後ろを振り向く。

すると、そこには力強く杖を持った、赤髪の女性が立っていた。


魔法師の西野さんだ。



「西野さん......!」


「助けに来たわよ、あんたたち! 【フレアバースト】!」


杖を前に構え、さらにもう一発、火球を子蜘蛛の群れに向かって放つ。

火球はさらに多くの敵を焼き払い、相手の戦力を削る。


「雨宮くん、だっけ? 行きなさい! こいつらは私が食い止めるから!」


そう言って、火球を放ち続ける彼女はよろめきながらも、さらに多くの子蜘蛛を撃退する。

そうした彼女の奮闘により、蜘蛛で埋め尽くされていた床は開け、ボスへの道が大きく開けた。


またとないチャンスと思い、僕は駆け出した。

未だ多くの子蜘蛛がフロアに蠢く中、僕は一直線にボスへと向かって走り続ける。


「ありがとうございます、西野さん!」


そう言って駆け抜ける、蜘蛛の道。

途中、母を守るようにして、子蜘蛛達が多く飛びかかってきたが、その数を多く減らした今、さほど脅威ではなかった。


「【ファイアボール】!」


炎魔法で撃ち漏らした子蜘蛛を殲滅しながら、女王との距離を詰め、ボスはすぐそこというところで、再び奇声がフロア内に響く。


「キシェェエエエエエエエ!」


その音を警戒して、僕は一度ボスへの歩みを止める。

未だ増え続ける子蜘蛛に注意を払いながら、左右前後敵を警戒する。


(どこから来る......!)


四方八方、あらゆる場所に首を振る。

しかし、警戒心を高めすぎたのが仇となったのか、僕はある一点を見るのを忘れていた。

それは、上空だ。


「雨宮くん、上よ!」


「......!」


西野さんの言葉に従い、上空を瞬間的に見る。

するとそこにはこちらへ向かってくる、巨大な蜘蛛が2匹落ちてきた。

咄嗟のことに、体を捩って迫る攻撃を回避しようと試みる。


しかし、遅かったのだろう。

僕は背中側へ攻撃を受け、そのあまりの痛さにその場でうずくまってしまった。


その一瞬の過ちが僕の命取りとなり、背中の傷を抑える僕に大蜘蛛が攻撃を仕掛ける。


一瞬の隙を与えた僕にそれを避ける術はなく、僕はなす術なく攻撃を喰らう......かと思われたその時。

僕の前に、白銀の盾で攻撃を受け止める、勇ましい男が立っていた。


リーダーの田中さんだ。


「田中さん......!」


「遅くなってすまんな。やっぱり、仲間は見捨てるもんじゃないからな......!」


そう言って、攻撃を必死に受け止める田中さん。

彼も本当はあんなこと許せなかったのだろう。

だからこそ、戻ってきてくれたのだ。


「よし......俺がこいつらの攻撃を受け止める。だから、トドメは任せたぞ、雨宮くん......! さあ、行きなさい......!」


「はい!」


必死に僕を守ってくれる彼を見て、僕は背中の痛みも忘れて再び駆け出した。

しかし、それを見過ごそうとする大蜘蛛ではなく、奴は田中さんに構わず僕を追いかけようとする。

だが、同時にそれを許す田中さんではない。


「どこ見てるんだ? お前の相手は俺だよ! 【挑発(ちょうはつ)】!」


スキルを発動し、大蜘蛛の視線を一点に集める田中さん。

【挑発】の効果に抗える大蜘蛛ではなく、奴は僕から視線を外し、田中さんへ猛攻を開始した。



「頼むぞ、雨宮くん......!」



そして僕は再び駆け出す。

今、奮闘している人たちのためにも。

守らなければいけない人たちのためにも。

僕はボスへと向かって走り出す。


距離はおおよそ20メートル。

奴との間には、大蜘蛛が残り一匹。

正直、ここでスキルはあまり使いたくはないが、奴へと近づくためなら使うしかないだろう。


「【しっぷ】......」


「ーーお前はまだ体力を残しておけ。ここは俺がやる」


「ーーえ?」


スキルを発動しようと、スキル名を名乗り上げる瞬間。

僕の横を過ぎ通って、一人の男が駆け出す。


「安西さん......!?」


「今は行け! 話は後で聞いてやる【蓮斬り】!」


そう言って僕より早く動いた安西さんは、強烈な()()()によって大蜘蛛の攻撃を凌いだ。

彼はその後も戦い、ギリギリまで大蜘蛛の体力を削っていく。


「行け......! 荷物持ち......!」


皆、それぞれ僕に望みをかけて託してくれている。

みんなの思いに応えるためにも、ここで決めて、こいつを倒す。


最後の力を振り絞り、ボスへの距離を詰める。


「【疾風迅雷】【剛腕剛力】【深淵付与】......!」


スキルを発動し、最大限の力で敵へと剣を向ける。

僕が迫ることに焦りを覚えたのか、奴は再度暴れ狂うように毒と糸を吐きまくる。


しかし、そんなことをしても、もう時すでに遅し。

僕は奴の背後を悠に取り、奴の首へと再度攻撃を仕掛けた。

最後のーートドメの一撃だ。


「はぁああああ! 【吠える者】!」


ザクリ、と蜘蛛の女王から首が綺麗に切り落とされる音が鳴る。

瞬間そのことに気付いたのか、先ほどまで獰猛に襲いかかってきていた子蜘蛛達は、母たるボスを倒したことにより静止した。

そして数瞬の後、母の死を理解した彼らは争いをやめ、ゆったりと元来た穴の方へと戻っていった。



「俺たち、勝ったのか......?」


「か、勝ったのね......!」


「うぉぉおおおおおお!!」


退却していく蜘蛛達を眺めながら、勝ち取った勝利に雄叫びをあげる。

これにて、Bランクダンジョン制覇である。


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